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高齢者の肺炎

高齢者の体動困難はERでよく遭遇する主訴で、よくよく調べると「あれっ画像では肺炎がありそうだけど、呼吸器症状もほとんどないし・・・肺炎で良いのかな?」と思うことは日常臨床でよくあると思います。特に昨今はCOVID19の流行によってこのようなケースは多く経験すると思います。超高齢者(≧80歳)の市中肺炎に特化したreview(“Community-acquired pneumonia in critically ill very old patients: a growing problem.” Eur Respir Rev 2020; 29: 190126)の内容を簡単にまとめます。

臨床像

ポイント
1:下気道症状に乏しい場合がある
2:非特異的な症状が多い:転倒・せん妄や意識障害・倦怠感・食思不振・呼吸回数上昇・頻脈など
・上記により若年者の肺炎像と異なり臨床像が非特異的なので誤診や治療の遅れにつながる可能性があり注意が必要
・免疫状態が若年者と異なることで肺炎の重症度評価を過小評価してしまう場合もあり注意が必要

*注意
・もちろんだからといって「なんでもかんでも高齢者の倦怠感などを「肺炎」を原因にして良い」という免罪符になる訳ではありません!!!(強調)
・「胸部CT→consolidationある→はい肺炎」というpracticeは厳に慎むべきで(画像based medicineは避ける)、他疾患が除外されるか?呼吸音はどうか?呼吸状態はどうか?など総合的に判断するべきです

重症度評価

・肺炎の重症度ももちろん重要であるが、それよりも背景の身体機能が重要
免疫低下、サルコペニア、併存疾患、栄養不良、Frailty、polypharmacyなどが重要な要素
・CURB65, PSIなどのリスク評価スコアが存在するが、これらが超高齢患者において適応できるかどうかは分からない

起炎菌

同定:高齢になるほど検出率が低下する(これは確かに実臨床でも高齢者の方が乾燥していたり、咳嗽を上手くできないことで喀痰喀出が上手くいかず良質な喀痰検体を得られないケースが多いです)
*起炎菌同定:65-74歳: 43.7%, 75-84歳: 40.7%, 85歳以上: 31.4% (p<0.001)

起炎菌:高齢者も肺炎球菌が起炎菌として最多
以下は65-74歳, 75-84歳, 85歳以上で分類
肺炎球菌: 40.7%, 39.4%, 48.9%
複合菌: 16.0%, 13.1%, 10.6%
非定型菌: 16.0%, 13.1%, 11.3%
ウイルス感染: 8.4%, 14.6%, 11.3%
*その他スペインからの報告で”PES”: P.aeruginosa, ESBL産生腸内細菌, MRSAが市中肺炎の起炎菌同定例のうち4%で検出と報告
*参考:”PES score”
・年齢: <40歳: 0点, 40-65歳: 1点, >65歳: 2点
・男性: 1点
・過去1か月以内の抗菌薬使用: 2点
・慢性の呼吸器疾患: 2点
・慢性腎不全: 3点
・救急 意識障害または誤嚥: 2点, 発熱または悪寒: -1点
→計 low-risk: ≦1点, medium-risk: 2-4点, high-risk: 5点以上(上記の”PES”が起炎菌であるリスク評価)
・今後のvalidationが必要であり現状はまだこのスコアを元に抗菌薬選択するには至っていない

治療

抗菌薬選択誤嚥の可能性(嫌気性)+MRS, 緑膿菌, その他のグラム陰性桿菌のカバーをするかどうか?(リスク因子から評価する)
*超高齢者に特異的な抗菌薬regimenのrecommendationはなし

ステロイド併用に関して:超高齢者に関してどうするべきか?という臨床研究はなし
(ATS/IDSAのガイドラインではステロイドをsevere CAPに対してroutineに使用することは推奨していない)

予防

ワクチン:肺炎球菌ワクチン+インフルエンザワクチン

生活指導:禁煙・アルコール摂取量の削減・歯科衛生+栄養状態