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一過性意識消失 TLOC(transient loss of consciousness)

過去にTLOCに関しては記事を作りましたが、質が低いため今回新しく作り直しました。改訂版としてこちらをご覧になっていただけますと幸いです。

TLOC: transient loss of consciousness

・過去にまとめた通りですが、意識は覚醒(arousal)と認知内容(content)の2つに分類されます。また時間軸で一過性と持続性で分類します。これによって2×2の4通りの分類になります。これらに関しての詳しい解説はこちらをご参照ください。
・ここで取り扱うのはこのうち「一過性」の「覚醒障害」で、一般的にTLOC(transient loss of consciousness)と表現します(下図参照)。代表的な原因は「失神(syncope)」と「発作(seizure)」です(後は「頭部外傷」と「心因性」)。
・よくある間違いとして主訴「失神」というのは医療者の解釈が入ってしまっているので間違いで、必ず鑑別の入り口は「一過性意識消失」となるはずです。ここから「失神らしいか?発作らしいか?」という判断をしていきます。

失神(syncope) VS 発作(seizure) 鑑別

・失神(syncope)の病態は「循環動態の問題による一過性の全脳虚血」です。覚醒の解剖経路は「脳幹網様体→大脳皮質全体」への投射経路です。大脳皮質全体への循環障害が起こるためには、脳のある血管が詰まっただけでは説明出来ません(例えば中大脳動脈だけが詰まったとしても脳全体の虚血になる訳ではない*TIAでTLOCが通常は起こらない根拠として重要)。つまり大脳皮質全体への循環障害が起こるためには「脳血管」ではなく循環全体の問題が一過的に生じる必要があります(脳への血流が6~8秒途絶され、収縮期血圧が60mmHgまで低下すると意識消失を生じる J Am Coll Cardiol 1992; 19: 773-779.)。具体的には、消化管出血での循環血症量減少や、不整脈や器質的心疾患で心拍出量が一過的に低下する病態など挙げらます。

・発作(seizure)の病態は「大脳皮質細胞の過剰興奮」であり、これが大脳皮質全体に広がると覚醒障害を生じます。脳の一部分だけに限局している場合は同部位に対応した神経症状が起こります。

病歴

ポイント1:目撃者から必ず病歴を確認する

・一過性意識消失の原因が「失神?」「てんかん発作か?」を区別するためには病歴が最も重要です。特に発作時病歴が重要ですが、患者さんが病院に到着したときには意識状態が改善している場合が多く、発作時の病歴を本人から聴取することは出来ません。このため目撃者がいれば電話をしてでも必ず病歴を確認することが重要です。

ポイント2:意識消失の前・消失中・消失後の3つの時間軸に分けて問診する

1:意識消失前の状態

・前駆症状
*失神らしい症状:嘔気・発汗・頭がぼーっとする(NMSらしい)・眼前暗黒感(失神)*失神でも心原性では認めない場合が多い
*発作らしい症状:くちもぐもぐ、1点をぼーっと見つめる、上腹部違和感(epigastric sensation)、既視感、幻臭など
・状況:臥位or立位、労作時かどうか?
・声を上げる→発作らしい

2:意識消失中

・持続時間
・顔面:開眼(発作・失神いずれも) or 閉眼(心因性)、眼位(共同偏視→発作らしい、上転やまっすぐ→失神らしい)、頸部回旋(発作)、口から泡(発作)
・運動症状:左右差のある動き(発作)、convulsion(後述の通り)、筋緊張:脱力(flaccid/失神) or 強直(tonic/発作)

3:倒れた後の症状

意識状態改善までの時間 すぐ改善→失神、意識障害遷延・見当識障害→発作 *後述
・呼吸状態:深い呼吸・いびき(発作)
・神経学的巣症状:Todd麻痺・逆行性健忘(倒れる状況を覚えていない)*いずれも発作らしい
*参考:筋肉痛・ぐったり疲労・眠気(発作らしい)

*私勘違いしていたのですが調べると失神でも開眼が多いとのことでした。

ポイント3:意識状態がすぐ改善するか?意識障害が遷延するか?に着目する

・救急隊到着時の意識状態/来院時の意識状態/自分で診察時の意識状態の3ポイントの推移を確認います。
・「失神」:倒れて循環血漿量が復活するとすぐに意識状態が改善します(~20秒以内)
・「てんかん発作」:発作後に意識がもうろうとする期間(postictal state)があるため、改善までに時間がかかることが多い(例えば救急隊到着時にJCSⅠ-2で、病院到着時にはJCS-0といった具合)。*高齢者ではよりこの傾向が顕著

*この経過を把握するために必ず「救急隊現地到着時の意識状態」、「病着時の意識状態」、「自分が診察したタイミングの意識状態」の3ポイントを確認する。

スコアリング

以下が有名なスコアリングです( J Am Coll Cardiol 2002;40:142–8 )。

文献:J Am Coll Cardiol 2002;40:142 TLOC539人の検討
・発作群 102人:FIAS 50人・generalized epilepsy 52人*脳波検査でてんかん性放電がある患者のみをincludeしている
・失神群 437人:NMS 267人・心室性不整脈90人・その他CAVBなど80人

身体所見

舌咬傷:発作に極めて特異的な所見で重要です。発作の場合は舌の側面に認めるため、きちんと挺舌して観察することが重要です。

点状出血:GTCSを呈すると怒責により組織圧が低い部位で点状出血を認める場合があります。これも失神では通常認めないため発作が起こったヒントとなります。

尿失禁:発作>失神
*個人的にはかなり信頼していましたが、報告では失神でも-25%に失禁を認めたと報告されており舌咬傷の方が重要性が圧倒的に高いとされています。不勉強でした。

検査での鑑別

乳酸値上昇・アンモニア上昇・CK上昇は発作を示唆する採血所見です(失神では認めない)。

・注意が必要なのはこれはconvulsionを伴っている発作を示唆しますが、これらの値が上がっていなくてもnon-convulsiveな発作を否定することにはなりません。たとえばFIAS(focal impaired awareness seizure)はconvulsionを伴わずに意識減損だけを認めることがありますが、この場合はconvulsionがないので乳酸値・アンモニア・CKはいずれも上昇することはありません。

失神でも不随意運動を呈する場合がある

・”convulsive syncope”や”syncopal convulsion”など様々な言葉が使用されていますが、失神でも痙攣(convulsion)の様な不随意運動を伴う場合があります(頻度は報告により様々で12%~46%:いずれも献血患者さんのNMSでの報告Ann. Neurol. 11, 525–528 (1982). Transfusion 41, 1475–1479 (2001))。基本的ですが重要なのは「痙攣(convulsion)は発作(seizure)にとっての十分条件ではない」という点です。
・一般的な臨床像としては「意識消失後に倒れて横たわり、そこ後に数秒だけぴくっぴくっmyoclonic jerksを認める経過」が典型的です(律動的rhythmicではなく・同期的synchronousでもない)。まれに強直を呈する場合もあります。
・機序に関してです。脳の還流が低下すると最初に大脳皮質の虚血が起こり、次に脳幹の虚血が起こります(大脳皮質の方が虚血に弱いのは低酸素脳症の患者さんなどの診療があればすぐにわかると思います)。失神でもまず大脳皮質の虚血により意識消失がおこり(脳波”slow”)、次に大脳皮質の抑制が消失することによって”myoclonic jerks”が起こり(脳波slowing/not flattening)、更に虚血が強くなると次に脳幹の虚血により”tonic(強直)”や”roving eye movements”や”stertorous breathing(いびき呼吸)”が起こる(脳波 flattening)とされています(引用:Brain 2014: 137; 576–585)。(*個人的にはこれは除皮質硬直と除脳硬直をイメージしてもらえばよくわかると思います)これを図にしたのが下図になります。
・limb shaking TIAも皮質由来のmyoclonusとされており、失神での不随意運動も皮質由来が機序として想定されます。
・程度によって脳幹虚血まで及ぶ場合もあれば及ばない場合もあります(後者の及ばない場合の方が多い)。

“10/20 rule”というものが報告されており不随意運動の数が10回未満であれば「失神」、20回以上であれば「発作」と判断する方法も提唱されています(Neurology ® 2018;90:e1339-e1346)。とても素晴らしいscoreなのですが、実際に目撃者の方がここまで冷静に不随意運動の数を数えていることは現実的ではなく、ビデオで録画された発作の観察や医療従事者が現場に居合わせた場合などで有用な情報と個人的には思います。

目撃者の情報はどこまで信頼してよいのか?

「目撃者からの情報が最も重要」なのは今までも強調した点です。来院時には意識状態が改善してしまっている場合が多く、本人も意識を失っている間の記憶はないためです。
・では目撃者の情報は一体どこまで正確な情報なのでしょうか?実臨床でも目撃者の方に問い合わせても内容を意外と覚えていないという場合が多いかと思います。
・先に重要な点を強調すると「眼は開いていましたか?閉じていましたか?」と2択で質問するのではなく、「眼が開いていたか?閉じていたか?覚えていますか?」と覚えていないことも許容する質問にすることです。これはこの後紹介する臨床試験の結果からわかる通り、「目撃者は意外と内容を覚えておらず」「実際にはきちんと覚えていないことを間違った回答をしてしまう場合もあるため」です。これは意図的に嘘をついているという意味ではありません。誘導尋問になってしまわない点に注意が必要です。

■目撃者の情報は正確なのか? Neurology ® 2008;71:1713–1718

・素晴らしいclinical questionで、医学論文としては衝撃的な内容です。心理学の大学生さんに対して突然いずれかのビデオ(失神ビデオ群104人/発作ビデオ群125人)を見てもらい(事前説明一切なし・1回だけ)、その後ビデオの内容に関して質問票12項目に答えてもらうという研究です。医学論文ではあまりこういうのはないですよね!

・結果
1)失神ビデオ群
・観察可能な項目:44%正答、28%間違い、29%分からない と解答
・観察不可能な項目:77%分からないと正しく解答・23%は観察できないにも関わらず解答
・持続時間:20秒(本当は21秒)正確

2)てんかん発作群
・観察可能な項目:60%正答、18%間違い、22%分からない と解答
・観察不可能な項目:78%分からないと正しく解答・22%は観察できないにも関わらず解答
・持続時間:60秒(本当は67秒)正確

・ただ非常に多くのlimitationがあることも容易に想像がつきます。そもそも大学生ですし、実際の目撃者は目の前で実際の人が倒れるのでもっと同様した心理状態です、またここではビデオを見た直後に質問に答えることになっていますが実臨床では救急車を呼んで病院に到着してから問診をうけるのでかなりの記憶がより抜けていることになります。
・それでもこの研究結果の重要な教訓としては「臨床的に明らかな徴候も結構見逃されている」「見ていないものを見たと間違えてしまう場合がある」といった点です。
・これらの点からやはり目撃者の情報に注意することと、見ていないものを見たと答えてしまう状況を避けるために「どちらですか?」という二択で迫るのではなく、「覚えていますか?」という質問にすることが有用かと思います。

参考文献
・Brain 2014: 137; 576–585 失神にともなう不随意運動と脳波の関係に関して最も詳細に検討した神論文
・Neurology ® 2018;90:e1339-e1346 “10/20 rule”についての有名な論文
・Neurology ® 2008;71:1713–1718 目撃者の情報は有用なのか?を調べた衝撃的な論文
・J Am Coll Cardiol 2002;40:142–8 失神vs発作のスコアリングを提唱した超有名論文
・Nat Rev Neurol. 2009 Aug;5(8):438-48. TLOCに関してのまとめ