注目キーワード

本態性振戦 ET: essential tremor

本態性振戦は日常臨床でよく遭遇しますが、「原因のわからない振戦」のごみ箱診断名にならないように注意が必要です。正直初診時は他疾患かどうかわからない場合も多いためフォローでの経過がやはり一番重要なのかと思います(一度カルテに本態性振戦と診断名を記載してしまうとどうしても思考停止してしまうことがあり反省です)。振戦全般の鑑別に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。

臨床像

・左右対称性:片側から発症することはある→経過で両側性になる *自験例でも完全に片側性発症の症例があります。
・部位:上肢(手首、前腕)発症が多い
・経過:緩徐に進行し、他の身体部位にも出現することがある
・他の部位への進展:頸部 縦(yes-yes tremor),横(no-no tremor) 50%, 声のふるえ 30%, 下肢下顎 15%,
・増悪因子:精神緊張・疲労
軽快因子:アルコール摂取(45-60分程度)、その後は増悪する場合もある 摂取量は個人差あり

*参考:パーキンソン病との鑑別点

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: PD-vs-ET-tremor-1024x744.jpg

治療

原則:ADLに支障をきたさない限りは無理に薬物治療を導入しない
*仕事上支障をきたす場合など積極的な治療介入が必要であり、個別のneedsに応じた対応が必要。

1:薬物療法
■1st line:プロプラノロール・プリミドン
・両者間で効果に優越性の差は認めない、振戦を約50%程度軽減するとされているが海外の臨床試験で使用している量は日本で使用する量よりも極めて多い(例えばプロプラノロールは海外では120-240mg/日と非常に多い量)
・初期副作用(8% vs 32%)がプリミドンで多いが、長期副作用(17% vs 0%)がプロプラノロールで多いというtrade-offがある

プロプラノロール propranolol  商品名:インデラル
作用機序:β-blocker
製剤:10mg/錠
投与方法(例)10mg 1T1x→ 10mg 2T2x→10mg 3T3x
・特に高齢者では心疾患の既往があることもあり注意が必要である(海外のデータでは高容量であるが、日本人において検討されたdataには乏しく現状は高血圧などでの適応容量から試して使用している)

プリミドン primidone
作用機序:phenobarbitalには振戦を抑える作用はないため本剤に効果があると推測される
製剤:250mg/錠
投与方法
初期:12.5-25mg/日(副作用の観点から少量から漸増とする)
副作用:dizziness, fatigue,malaise 23-32%にて起こる(1-4日で改善するため忍容性をもって継続することが出来る)
*教科書には忍容性があると書いてありますが、個人的にはプリミドンは結構副作用に悩まされてあまり継続できない場合が多いです・・・。

■2nd line
・1st lineで駄目だった方でない方→combination therapy (NEJM reviewでの記載)
・その他の薬剤:ベンゾジアゼピン系、alprazolam、clonazepam、抗てんかん薬:gabapentin, topiramate

振戦を増悪させる薬剤を避けることも重要(薬剤性振戦に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください)。特にバルプロ酸などは振戦増悪させるため注意が必要。
*有意な改善を示せなかった薬剤(前向き研究で):レベチラセタム、トラゾドン、アセタゾラミド、ミルタザピン、ニフェジピン、ベラパミル Neurology 2011;77:1752

2:集束超音波治療(FUS:Focused Ultrasound Surgery)/DBS

・集束超音波治療は2019年6月より保険収載となり近年注目を浴びているMRIガイド下での先端治療で、日本神経学会学術総会でも大きく取り上げられていました(私は今まで自分の患者さんで本治療を行った方の経験がなく経験上のことを語れず申し訳ないです)。ホームページで確認した限りでは都内ですと新百合ヶ丘病院さん https://www.shinyuri-hospital.com/department/fus/index.html、森山脳神経センターさん http://mr.moriyamaikai.or.jp/department/fus.htmlなどが行っている様です。

参考文献
・NEJM 2018;378:1802 本態性振戦の分かりやすいreviewです。