注目キーワード

薬剤性パーキンソニズム drug-induced parkinsonism

精神科の先生方と神経内科医がよく診療するのが薬剤性パーキンソニズムです。原因薬剤を中止してもすっと改善しない場合もあり、背景にパーキンソン病が合併しているのかどうか悩むことも多いですが近年はDAT scanの登場によりこの点に関して判断が少ししやすくなっています。過去の文献での臨床像は純粋な薬剤性パーキンソニズムと、パーキンソン病が背景にある薬剤性パーキンソニズムが混ざっているため解釈には少し注意が必要かなと思います。

原因薬剤/病態

抗精神病薬(定型>非定型):スルピリド、ハロペリドール、リスペリドン、ジプレキサなど多数 *一般的にパーキンソン病患者さんでどうしても使用する場合は最も錐体外路副作用の少ないクエチアピンを使用します
カルシウム受容体拮抗薬:flunarizine(商品名:フルナール)が多かったが日本では現在使用なし・アムロジピン、ベラパミル、ジルチアゼムは報告あり
抗うつ薬:SSRI、アミトリプチン、リチウム
抗てんかん薬:バルプロ酸 CNS Drugs 2016;30:527
消化管関連:メトクロプラミド(有名) *一般的にドンペリドンはパーキンソン病患者さんにも安全に使用可能とされています
H1受容体拮抗薬
その他:アミオダロン、コリンエステラーゼ阻害薬

*下図の通りD2受容体を阻害する薬剤が代表です

臨床像

パーキンソン病と薬剤性パーキンソニズムは臨床像だけで完全に区別することは困難です。唯一口舌部ジスキネジア(orolingual dyskinesia)はパーキンソン病の初期で認めることはまれですが、薬剤性パーキンソニズムでは初期から目立つ場合があります。

1:振戦のタイプでは鑑別困難
・教科書にはresting tremorはパーキンソン病で、postural tremorは薬剤性パーキンソニズムらしいと記載がありますが、両者は十二分に混ざりますのでこれだけで鑑別は通常しきれません。

2:症状が左右対称とは限らない
・教科書には薬剤性パーキンソニズムの特徴は症状が左右対称であり、PDは左右非対称である点が鑑別点になると記載されていますが、既報では30-50%は薬剤性パーキンソニズムで症状が左右非対称であることが指摘されています。なので「症状が左右対称かどうか?」だけでは薬剤性パーキンソニズムとPDの鑑別に有用ではないことがわかります。

3:subclinicalな状態のパーキンソン病合併(薬剤による誘発)
・発症前段階のパーキンソン病が薬剤により誘発される(unmask)場合があります。パーキンソン病は線条体のドーパミンニューロンが60-80%程度減少して初めて臨床症状を呈するとされていますが、軽度の減少では臨床的に明らかではありません。この段階で抗精神病薬などのドパミン遮断薬を投与すると、ベースラインのドーパミンニューロンが減少しているためパーキンソニズムを呈しやすくなります(下イメージ図参照)。

・ここで有用な検査がDAT scanです。DAT scanはpre-clinicalな段階からの障害を指摘できるため両者の鑑別に有用です(純粋な薬剤性パーキンソニズムでは線条体の集積は保たれる)。個人的にはDAT scanの最も良い適応はこの薬剤性パーキンソニズムと断言してよいか?背景にsubclinicalなPDがないか?の鑑別と思っています。

■フランスのレジストリーでの1993-2009年まとめ155例 Mov Disord. 2011 Oct;26(12):2226-31.

原因薬剤:抗精神病薬49%、抗うつ薬8%(21例内訳:SSRI12例、その他9例)、カルシウム受容体拮抗薬5%(Flunarizine (7), cinnarizine (3), verapamil (2), diltiazem (1))、末梢性ドパミン受容体拮抗薬4.6%(メトクロプラミド9例、ドンペリドン3例)、H1受容体拮抗薬4.6%(Alimemazine (5), aceprometazine (5), hydroxyzine (2))、その他28.7%(バルプロ酸10例、リチウム4例、アミオダロン3例、コリンエステラーゼ阻害薬3例など)
疫学:女性60%、年齢10か月~96歳(60-79歳が全体の48%)
症状:rigidity 78.7%、resting tremor 61.9%、akinesia 56.8% *3徴すべてそろう:37.4%
薬剤開始から発症までのタイミング:最初3か月 69%、12か月以降 20%(12か月以降はカルシウム受容体拮抗薬が原因薬剤として多い) *下図参照

治療

1:原因薬剤の中止
・背景にsubclinicalなパーキンソン病を合併している場合は症状が改善しない場合があります(薬剤を中止した直後は進行する場合もある)。
・純粋な薬剤性パーキンソニズムであれば通常は可逆的と考えられますが、症状の改善には薬剤中止から週~月単位改善には時間がかかることが多々あります。
・抗精神病薬の中ではクエチアピンが錐体外路副作用が最も少ないとされています。

2:対症療法薬の追加
抗コリン薬:慣習的によく使用されていますがhigh-qualityなevidenceには乏しいです。また高齢者では認知機能増悪のリスク、前立腺肥大や緑内障の副作用面から使用しづらい難点を抱えています。抗精神病薬を処方する際に最初から抗コリン薬を併用処方されているケースも目にしますが、最初から併用するべきかどうかに関してのevidenceはないと思います。
・Levodopa:使用をトライする場合もありますが、これも精神症状を増悪してしまうリスク、またそもそもあまり効果がない場合もあります。

*抗コリン薬に関して
一般名:トリヘキシフェニジル塩酸塩 商品名:アーテン®
作用機序:パーキンソン病では相対的コリン過剰状態であり、そのバランスを取ることで効果があるとされている
半減期:18hr
製剤:2mg/錠・細粒
<使用方法>2mg 1錠分1など かならず少量から開始する
<適応>薬剤性パーキンソニズムでのtremorに対して
*他剤との比較にて優越性を示したものはなし
<副作用>認知機能障害、幻覚、一般的な抗コリン作用(頻脈、消化管、前立腺、緑内障)
重症筋無力症、緑内障、前立腺肥大症患者では禁忌
<中止方法>基本的に漸減が必要(withdrawal syndromeを引き起こしてしまうため)