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感染性心内膜炎 IE: infective endocarditis

内科医にとって絶対に見逃したくない疾患が感染性心内膜炎です。最終的には心臓血管外科や循環器内科の先生方が診療する機会が多いですが、最初受診する段階で閾値を低くきちんと疑い・診断するようにしたいところです。最近もたまたま感染性心内膜炎を診療する機会があったため改めて勉強した内容をまとめます。

病態

菌血症から二次的に心内膜・弁に感染をきたし、以下の病像を呈します。
1. 免疫反応:炎症反応、関節炎(発熱が関節炎に先行し、疼痛の程度と比較して関節腫脹が目立つ)、筋痛、腰痛、免疫複合体形成(補体減少・腎糸球体腎炎)、 Osler結節(有痛性)、脾腫
2. 弁破壊:心不全
3. 塞栓症/膿瘍形成:脳塞栓症(神経学的巣症状)、手掌足底:Janeway lesion(無痛性)、爪下線状出血(指腹にペンライトを当てると見つけやすい) *塞栓症は無痛性

原因菌

*グラム陽性球菌で全体の約80%を占める
S.aureus:約35-40% *S.aureus菌血症に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。
Streptococcus spp:約30-40% 内訳:Viridans Streptococcus:30%, S.bovisとその他のStreptococcus spp:15%
Enterococcus spp:約10%
・CNS: S.lugdunensisS.aureusに臨床像が似るため注意が必要
・その他:HACEK、真菌、グラム陰性菌など 

*血液培養陰性の起炎菌まとめ

臨床像

・経過:急性の弁破壊により心不全を呈する激烈な経過の場合もあれば、亜急性経過の体重減少や発熱で不明熱を呈する場合もあり臨床像の幅が広い。臨床像が幅広いが、治療介入が遅れると予後に大きく影響するためかなり閾値を低く感染性心内膜炎を疑う必要がある。
・塞栓症状は自覚症状に乏しいことが多いため、医療者が積極的に探しに行く必要がある(普段から発熱患者で皮疹や軟口蓋点状出血、眼瞼結膜の点状出血を探しているかどうかの臨床姿勢が求められます。普段から意識的に診察していないと必ず見逃します)。下図の写真はいずれも自験例です。
・年齢も幅広い:若年者でも先天性二尖弁や心室中隔欠損症などがリスクとなりうる。若年者の発熱や塞栓症でも必ず鑑別に挙げる必要がある。
・中枢神経合併症に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。

感染性心内膜炎を疑うポイント(私案)
フォーカス不明の発熱/不明熱:必ず除外が必要
発熱+筋骨格系の症状(関節痛・腰痛・頸部痛など) *個人的には結構ポイントと思っています
発熱+皮疹
発熱+神経症状(特に脳梗塞) *特に「数日発熱のみが持続して、その後意識障害や性格変化などを来し、脳炎髄膜炎疑いとして受診するケース」を個人的にはよく経験します。この数日発熱が先行して、ある日から脳塞栓症により急激に意識変容やfocal neurological signを呈する場合はよくあります。
発熱+心不全・新規心電図変化 
血液培養検査から疑う:GPC(S.aureus, Streptococcus spp, Enterococcus sppなど)が血液培養検査から検出された場合は常にIEを想起する

*特にS.aureusによる感染性心内膜炎は激烈な経過をたどる場合が多くあり、前日までTTEで弁逆流を認めないにも関わらず翌日は逆流を生じる場合もあるため注意が必要です。

診断/検査

菌血症の証明(血液培養)+疣贅の証明(心エコー検査)が感染性心内膜炎診断のGold Standardです。

1:血液培養検査
・感染性心内膜炎を疑う場合は3セット提出する。
・治療後は血液培養をフォローアップし(3セット提出する必要はなく、2セット提出で十分)、血液培養検査の陰性化を確認する必要がある。

2:心エコー検査
・経胸壁心エコー検査は感度が50-60%程度と十分ではないため、経胸壁心エコー検査で否定できない場合は経食道心エコー検査(感度<90%)まで行う必要がある(特に人工弁の場合は経胸壁心エコー検査で検出が困難であり、経食道心エコー検査が必要)。

参考:Modified Duke基準 

*その他の検査:診断に直接的に役立つ訳ではないが、間接的に有用な検査

採血検査:補体低下、RF陽性など間接的な所見もあります。
尿検査:糸球体腎炎により糸球体性血尿を認める場合があります。私は過去にRPGN疑いとして入院予約を組まれていた方が実は感染性心内膜炎であった症例の経験があります。このように血管炎のmimicsとしても感染性心内膜炎は重要と思います。
頭部CT検査:これは持論ですが私は「円蓋部くも膜下出血+発熱」では必ず感染性心内膜炎を疑うようにしています。通常の動脈瘤が形成されない部位(円蓋部)にくも膜下出血を認める場合は鑑別が限られるので重要な情報になります(円蓋部くも膜下出血に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください)。

治療

1:抗菌薬治療
・血液培養陰性化した日が治療開始1日目
*各菌の抗菌薬選択/治療期間は今後また記載していきます。

2:手術 
・施設毎に循環器内科位、心臓血管外科、感染症科医と相談が重要です。一般的な手術適応は以下の3点です。
*手術適応
1:心不全合併 *大動脈弁の弁輪部膿瘍などは急激に房室ブロックを来たす場合があるため注意が必要です
2:感染コントロール不良(source control目的)
3:塞栓症予防 *抗凝固療法に塞栓症予防効果はなく、出血合併症を増やすため禁忌→この点に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。

その他経過での注意点

*IE患者さんが経過で胸痛を呈した場合考慮すること
1:疣贅が飛んで冠動脈に詰まりACSになった可能性
2:弁輪部から伸展してpyopericarditisを呈した可能性

参考文献
・日本循環器学会 感染性心内膜炎ガイドライン 2017年
・N Engl J Med 2020;383:567-76. N Engl J Med 2013;368:1425-33.