注目キーワード

円蓋部くも膜下出血 convexity subarachnoid hemorrhage: cSAH

くも膜下出血で有名なのは動脈瘤が破綻することによる脳底部のくも膜下出血ですが、円蓋部脳表の血管が破綻することにより円蓋部くも膜下出血(cSAH: convexity subarachnoid hemorrhage)をきたす場合があり、これは通常一般的な動脈瘤によらないものです。円蓋部くも膜下出血はその原因がある程度限られており、鑑別疾患を把握しておくと診断を絞りやすくなるためここで解説します。個人的には円蓋部くも膜下出血を見つけると鑑別が絞りやすくなり、診断につながる場合もあるため大切にしている病態です。

cSAHの原因で最も多いものは外傷性です。ここでは非外傷性cSAHの原因に関してまとめます。

原因

・高齢者:CAA(cerebral amyloid angiopathy)
・若年者:RCVS(reversible cerebral vasoconstriction syndrome)
が特に重要な鑑別疾患です。
この他脳静脈洞血栓症、脳動静脈奇形、感染性心内膜炎、解離、血管炎、PRESなども重要な鑑別でこれらでcSAHの原因ほぼすべてを網羅します(このため私は一応すべて暗記しています)。発熱患者さんで頭部CT検査で円蓋部くも膜下出血を認めた場合は必ず感染性心内膜炎を考慮します(微小な感染性動脈瘤が破綻することでcSAHをきたします・感染性心内膜炎の中枢神経合併症に関してはこちらにまとめがありますのでご参照ください)。

以下に機序ごとの鑑別まとめを掲載します。Emerg Radiol 2015;22:181

疫学と臨床像

以下で円蓋部くも膜下出血に関してまとめたいくつかの論文を紹介します。

■非外傷性cSAH29例のまとめ(Neurology 2010;74:893)

・SAH全体の7.45%を占める。
・臨床像は頭痛 62%(今までで最悪45%、thunderclap 34.4%)、持続時間 6.5日(4hour-17日)、TIA様 21%(広がっていく症状のこともあり mimicking a migranious march)。
・部位 片側83%、frontal 15   51%、parietal 6   21%、parietal-occipital 1、temporo-parietal 1、bihemispheric 5
・年齢による比較1:若年 RCVS、2:高齢 CAAが原因として多い。TIA様症状で頭痛がみとめない場合が多い。再発は脳内出血でいずれも高齢者(4例)。

既報と合わせての年齢でのまとめ。

■cSAH41例まとめ(Stroke 2014;451151)

・6%:cSAH(atraumatic):CAA 39%、RCVS 17%、CVT 10%、Atherosclerosis 10%、PRES 5%、no 20%
・63% 一過的な神経症状、49%当初TIAとして誤診されている

このように臨床症状は頭痛を呈するものやTIA様の一過性のfocal neurological signを伴うものなど様々です。少なくともいわゆる動脈瘤に由来する脳底部のくも膜下出血とはかなり異なるpresentationであり、ほぼ無症状で画像上だけで検出される場合も個人的にはよく経験します(頭痛や神経症状が全くなく頭部CT検査でcSAHを認める場合)。このため臨床像だけからはcSAHを疑うことは困難ですが、ついつい見逃してしまいやすい画像でもあるためcSAHの可能性を常に心においておく必要があるとおもいます。

画像検査と原因

頭部CT検査でわかる場合がほとんどですが、頭部MRI検査ではよりより感度良く検出することができるのに加えて、原因の推定にも役立ちます。円蓋部くも膜下出血自体はFLAIRやT2*WI(もしくはSWI)が検出に有用です。原因の同定にはMRA、MRVなども有用なので検討します。

具体例(以下画像はEmerg Radiol (2015) 22:181 – 195より引用)

■CAA: 60才以上のcSAH原因として最多頭痛が主症状ではないことが多い TIAに似る病態

■RCVS:22%においてcSAHを認める 若年者のcSAHの原因といて考慮するべきである

■PRES:15%において出血合併あり

■CNS vasculitis

■解離

■dAVF

感染性心内膜炎での感染性動脈瘤

CVT:凝固障害→基本的にはintracerebral and subdural hemorrhagesである cSAHはまれ

以上cSAHに関してまとめました。発熱と様子がおかしいという主訴で受診した患者さんで頭部CTでcSAHを認めて、感染性心内膜炎の診断に至った例も経験があり重要です。円蓋部の脳溝にきちんと着目して毎回頭部CTで検査を読影するくせをつけたいです。