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肝肺症候群 hepatopulmonary syndrome

先日はじめて肝肺症候群の症例を経験し(私は普段エコー室で循環器の師匠の先生に教えていただいているのですが、そこでmicrobubble testを一緒に実施させていただきました)、勉強した内容をまとめます。

分類/病態

1:肝肺症候群(hepatopulmonary syndrome) 
病態:肺血管拡張によるシャント血流による酸素化障害
診断:低酸素血症(AaDO2開大)+右左シャントの証明(肺血流シンチ or 心エコー検査microbubble test)
治療:肝移植 *予後不良で肝移植以外に根本的な治療方法は存在しない(酸素投与もシャント血流が多いと反応しないため効果に乏しい)

2:portopulmonary hypertension
病態:門脈圧亢進症に関連した肺高血圧症
診断:右心カテーテル検査で診断
治療:対症療法や肺高血圧症に対する治療

肝肺症候群では肝臓で血管拡張因子のクリアランスが減少することで、毛細血管拡張や典型的には右左シャントが肺内血管で生じることにより、シャントやV/Q mismatchでの酸素化不良を呈します。シャントが主体だと酸素投与に反応しないことが特徴です(低酸素血症の鑑別、機序に関してはこちらをご参照ください)。

またシャントが肺底部に多い場合が多く(肺尖部よりも)、座位でシャント血流が増加し酸素化が悪化し、臥位になると酸素化が改善するという扁平呼吸、“platypnea orthodeoxia syndrome”を呈すことが臨床的には特徴です(これと逆なのが心不全で呈する起坐呼吸“orthopnea”)。POSを呈する疾患は他にも心内シャント(PFO、ASDなど)が挙げられます。これらの右左シャント存在の証明には心エコー検査でのmicrobubble testが有用です。

■Platypnea orthodeoxia syndrome (POS)
原因

心臓由来:心内シャント(PFO>ASD)→体位変換によって解剖学的に血流の流れに変化が生じることで右→左シャントが生じる
非心臓由来:肺内シャント(肺動静脈奇形、肝肺症候群)*今回のテーマ

検査

■右左シャントの確認:心エコーmicrobubble test

生理食塩水に患者さんの血液を少量まぜて10mLのシリンジ2つを三方活栓で接続し、用手的に空気を混ぜることで撹拌されたmicrobubbleを作ることが出来ます(生理食塩水だけだとbubbleが出来にくく、患者さんの血液を少し混ぜることでbubbleができやすくなります)。これを経静脈的に注射すると(microbubbleで肺塞栓症に至ることはないので大丈夫)、エコー上でまず右心系にmicrobubbleが検出されます。通常シャントがなければmicrobubbleは肺の毛細血管でトラップされるため左心系にはほとんど描出されません。この状況下で左心系に大量のバブルを認めれば右左シャントの存在が証明されます。

心内シャント(PFOなど)と肺内シャントの鑑別はmicrobubbleを静注射後「何心拍後に左心にmicrobubbleが検出されるか?」で行います。心内シャントの場合はmicrobubble静注後すぐに左心系に描出されますが、肺内シャントの場合は数心拍遅れてからmicrobubbleが左心系に描出されます。これは実際に現場に立ち会った方がイメージがつかみやすいです。経胸壁心エコー検査でも十分可能ですが、心内シャント(PFO、ASD)の評価は通常経食道心エコー検査で行います(TTEでPFOを見つけることは難しい)。

解釈まとめ
3拍目以内で左心系にbubble描出:心内シャント
5拍目以降で左心系にbubble描出:肺内シャント

また心内シャントの証明では、通常バルサルバ負荷をかけることで右左シャントを増加させ、bubbleが流入するかどうか?を確認します。

■肺血流シンチ 核種:99m Tc-MAA(99mTx-macroaggregated human serum albumin)

心エコー検査(microbubble test)と異なり「どのにシャントが存在するか(肺内シャントか?心内シャントか?)?」の証明は出来ませんが、右左シャントの有無を評価することが可能です。
99m Tc-MAAを静注すると粒子径が肺毛細血管の直径よりも大きいため、一過性に塞栓として肺に集積するため測定することが出来ます(全体の0.1%未満なので低酸素になることはない)。通常は肺以外の臓器に集積しないですが、右左シャントがある場合は肺以外全身に集積し、放射能カウントを測定することでシャント率を計算できる(生理的なシャント率は4-6%程度)。
*下図は肝肺症候群例ですが、通常肺のみに集積を認めるはずがこの症例では脳にも集積を認めており右左シャントの存在が示唆されます。

参考文献
・肝臓 53 巻 6 号 324―328(2012)
・NEJM 2008;358:2378-87 肝肺症候群に関するreviewとして良くまとまったもの
・循環器ジャーナル67巻3号 2019年7月 特集 循環器疾患の画像診断—現状と進歩
Ⅴ.肺循環疾患 肺血流シンチを改めて知る