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筋病理

解剖

筋病理の所見を述べる際にまず筋肉のどの部分に関する話なのかを明確にする必要があり、解剖用語を理解する必要があります。

筋肉自体は最も小さい構成単位が筋線維(muscle fiber)であり、それらが集まって束になったものが筋束(muscle fascicle)となります。またこれら筋肉組織の間に位置する間質にも名前がついており、筋繊維同士の間は内鞘(endomysium)と称し、筋束同士の間は周鞘(perimysium)と称します。具体的には下図をご参照ください(正常例ではありません)。

・endomysium(内鞘):筋線維(muscle fiber)と筋線維の間の間質(通常線維組織は認めない→認める場合は病的な線維化を意味し、”endomysial fibrosis”と表現する)
・perimysium(周鞘):筋束(muscle fascicle)周囲の間質で、血管、神経などを含む

HE染色で観察する項目

1:全体の構成
2:形態の評価
・筋線維の大小不同 *筋線維の大きさは通常60-80μm
・小角化線維(small angular fiber):筋繊維の角化 神経原性変化
・群萎縮(group atrophy):筋束内の線維すべての萎縮 神経原性変化(脱神経を反映している)
・perifascicular atrophy:筋束辺縁の線維が萎縮する所見で、皮膚筋炎に特異的所見
3:性質・異常構造の評価
・壊死・再生:筋原性変化の所見(下で具体例を提示する)
・核:通常0-3個(5個以上を異常とする:筋強直性ジストロフィーに多い)
・空胞:
・炎症細胞浸潤:特に炎症細胞が内鞘(endomysium)へ浸潤し、非壊死性線維を取り囲み、同線維内に浸潤することが炎症性筋疾患では特徴的所見である。周鞘(perimysium)の血管周囲のリンパ球浸潤は特異性が低いとされている。多発筋炎、封入体筋炎ではCD8+細胞が主体である。
・線維化:通常endomysiumに線維組織は認めないが、その部分が拡大している場合は線維化を疑う。

以下で具体例を確認していきます。

(正常例:下図)

小角化線維 下図

壊死・再生 下図

Duchenne型筋ジストロフィー例 下図:筋ジストロフィーでは一般的に壊死再生が主体となり、endomysial fibrosisを伴うことが多い。

免疫介在性壊死性ミオパチー 抗HMGCR抗体陽性例 下図:免疫介在性壊死性ミオパチーは壊死再生が主体で、炎症細胞浸潤はほとんとみとめない(あっても軽度)であり、慢性経過や小児例では筋ジストロフィーとの鑑別が問題となる。

中心核 centronuculear myopathy例 下図

endomysiumの線維化 (endomysial fibrosis) 下図

perifascicular atrophy:筋束周辺部の筋線維が萎縮する所見で皮膚筋炎に特異的な所見として重要(下図)

Gomoriトリクローム変法(mGT: modified Gomori trichrome)で観察する項目

以下の様な異常構造物が赤く染色され、これらを調べるのに有用な染色方法です。
・ネマリン小体:ネマリンミオパチー
・細胞質小体(cytoplasmic body)
・tubular aggregates:周期性四肢麻痺
・rimmed vacuole(縁取り空胞):封入体筋炎、眼咽頭筋ジストロフィー、遠位型ミオパチー
・ragged red fiber(RRF):ミトコンドリア増加を反映(ミトコンドリアは筋線維周辺部で増加する)
*末梢神経の有髄線維も赤く染色される

NADH-TR(tetrazolium reductase)で観察する項目

筋原線維間網(intermyofibrillar network)の異常を観察します(type1線維はtype2線維よりも濃染される)。特異的な所見は以下の様な名称がついています。
・虫食い像”moth-eaten appearance”
・core
・target/targetoid構造
・peripheral halo
・分葉線維 lobulated fiber

ATPase

筋線維のタイプ分類を観察します。
・本来筋線維はtype1,2線維がモザイク状に分布していますが、神経再支配が起こると同じtype線維が集族するfiber type grouping(筋線維タイプ群化)が起こります。これは筋線維のtypeはその筋線維を支配する神経線維によって変わること(神経再支配を受けた筋線維のタイプは再支配を行った脊髄前角細胞によって規定される)を反映しており、1つの神経が多数の筋線維を支配することで同じtypeに変化します。
・例えると神経が上司、筋肉が部下の関係にあり、もともといた上司がいなくなってしまい(脱神経)、その後新しい上司が来ると部下が新しい上司の指示に従う(神経再支配)ようなイメージです。

例:ATPase pH=4.6

例:fiber type grouping(本来正常ではモザイク状に分布する) 写真はhttps://neuropathology-web.org/chapter13/chapter13bDenervation.htmlより引用させていただきました。

その他の染色方法

PAS(periodic acid Schiff):糖原病の診断に用いる。

Oil red O:脂質代謝異常によるミオパチーの診断に用いる。

COX:cytochrome c oxidase(チトクロームc酸化酵素)/SDH(コハク酸脱水素酵素):ミトコンドリア病の診断に用いる。

筋病理に関してまだまだ不勉強であり、色々ご指摘いただけますと幸いです。

参考文献

・J Neuropathol Exp Neurol Vol. 79, No. 7, July 2020, pp. 719–733  具体的な写真はほぼすべてここから引用させていただきました。
・The J Histotechnol 31:101, 2008 こちらの文献からも写真を多く引用させていただきました。
・臨床神経 2011;51:669-676 おそらく最も多く読まれている筋病理の基本に関するまとめです。
・臨床のための筋病理第4版 著:埜中征哉先生