病態
・壊死性ミオパチーは「炎症細胞浸潤が乏しいのに比して、壊死再生が主体である」ことを意味する病理学的な分類です。その名の通り病理学的には筋症(myopathy)と名付けられており筋炎(myositis)ではありませんが、臨床的には筋炎の経過と区別は困難です。壊死性ミオパチーは原因は不明のものや腫瘍関連のものもありますが(seronegative IMNMは25-40%程度とされている)は、ここでは免疫介在性の抗SRP抗体・抗HMGCR抗体関連を取り上げます(筋疾患一般へのアプローチ方法に関してはこちらをご参照ください)。下図はN Engl J Med 2016;374:664-9.より引用。
・特に抗HMGCR抗体関連IMNMはスタチンとの関与が有名ですが、スタチンを内服していない場合ももちろんあり報告によってばらつきが大きいです(15-72.7%と)。
・IMNM自体はかなりheterogeneousな疾患です(そもそも筋炎・筋症自体の分類が様々な抗体の検出が可能になったことで現在は非常に難しくなってきていますが)。Seminars in Arthritis and Rheumatism 49 (2019) 420429
疫学
・年齢は40-60歳代、女性>男性に多いとされています。
・IBMを除いた炎症性筋疾患(IIMs: idiopathic inflammatory myopathies)のうち抗SRP抗体陽性例は18%、抗HMGCR抗体陽性例は12%と報告されています。以下は発症年齢とスタチン暴露の関係を示したグラフです。
・小児例もあり、小児例は慢性経過だと筋ジストロフィーと誤診されてしまい(以下の症例では9例中5例が当初筋ジストロフィーと診断されていた)、治療のチャンスを逸してしまう可能性があります(Rheumatology 2017;56:287)。必ずしも急性経過ではなく、慢性進行性の経過もありうるため注意です(この点は後の筋病理のところでも述べます)。やはり筋生検と抗体検査が鍵になります。
臨床症状
・四肢近位部の左右対称性の筋力低下が特徴(特に下肢>上肢)で亜急性の経過をたどることが多いです(下図赤字が筋力低下の分布:Autoimmunity Reviews 18 (2019) 223–230より引用)。進行性の非常に強い筋力低下を呈する場合が多く、筋萎縮を呈する場合もあります。臨床像だけでは他の筋炎との区別は困難です。IBMの深指屈筋と大腿四頭筋ように特徴的な筋力低下、筋萎縮の分布は免疫介在性壊死性ミオパチーに関しては指摘されていません。
・抗SRP抗体関連IMNMの方が抗HMGCR抗体関連IMNMより筋力低下は一般的に重度で、体幹筋障害による首下がり(首下がりに関してはこちら参照)や嚥下障害(嚥下障害に関してこちら参照)を認める場合も多いです。
・筋外症状:IMNMではいずれも頻度は少ないとされていますが、間質性肺炎や関節炎、心筋障害合併があります(抗SRP抗体>抗HMGCR抗体)。
・悪性腫瘍合併:抗HMGCR抗体関連IMNMは悪性腫瘍との関係が指摘されています(上図も参照)。
・抗HMGCR抗体、抗SRP抗体それぞれに関するIMNMの臨床像の特徴をまとめたものが下図になります。
・下図は日本での症例をまとめた報告になります。抗SRP抗体は抗HMGCR抗体例よりも重度の筋力低下、頸部筋力低下、嚥下障害、呼吸障害、筋萎縮が有意に多いと報告されています(有意差あるものを赤字で表現)。
検査
CK値
・基本的にほぼ全例でCKは著増し(1万前後まで上昇することが多い)、1000 IU/L未満のことはまれです。抗SRP抗体、抗HMGCR抗体例でのCK値に有意差は認めていません。
・CK値は病勢を反映するマーカーとして使用されます(下図の様にlinearではなくlogでCKを見た方が相関関係にあると報告されています)。臨床経過では筋力低下よりもCK上昇が先行するとされており、「原因不明の高CK血症」をフォローしていると筋力低下が顕在化してくる場合があるため注意が必要とされています。逆に高度に進行している症例では筋肉の脂肪置換が起こりCKがあまり上昇しないケースもあります。治療効果をみる場合はCKの改善より数週間~数か月遅れて筋力が改善してくる場合があります(下図参照)。
MRI
・MRIは生検部位を決定するのには有用ですが、MRIでの筋肉障害のパターンからIMNMを鑑別することは困難とされています。傾向としてはIMNMはDM/PMと比較して浮腫・萎縮・脂肪置換を高頻度に認め、抗SRP抗体陽性例の方が抗HMGCR抗体陽性例よりもより筋萎縮や脂肪置換を認め、大腿外旋・臀筋・大腿の内側と後方コンパートメントに障害を強く認める所見でした(Ann Rheum Dis 2017;76:681:患者背景 IMNM101例、PM176例、DM219例、CADM17例、IBM153例)。*IBMは大腿前面なのと対照的に大腿後面が障害されることが特徴。
筋病理
・壊死再生が主体で、炎症細胞浸潤はほとんどない(あったとしても軽度)であることが特徴です(病理的な壊死とCK値は相関関係にあるとされています)。壊死繊維の分布は散在性で、抗SRP抗体関連IMNMでの壊死繊維は全体の3.2%、抗HMGCR抗体関連IMNMでは1.8%と報告されています。免疫治療による病理像への影響はIMNMではまだ十分にわかっていないとされています。筋病理全般に関してはこちらもご参照ください。
・この様な筋病理所見なので、特に慢性経過や小児例では筋ジストロフィー(特にFSHD)との鑑別が問題となります(FSHDに関してはこちらを参照)。慢性進行性のIMNMは20-30%程度あるとも報告されています。
*筋ジストロフィー(特にFSHD)との鑑別点:家族歴がない・顔面筋罹患がない・左右対称性であることが多い(FSHDとの鑑別)・嚥下障害がみられる・針筋電図で豊富な安静時電位・Beevor徴候がない
■慢性経過の抗SRP抗体陽性免疫介在性壊死性ミオパチーに関して Arch Neurol. 2012;69(6):728-732.
・27例の抗SRP抗体陽性ミオパチー患者さんのうち19%(5例)は慢性経過を辿ったと報告されています(慶応大学医学部附属病院の鈴木重明先生がご報告されています)。下図がその5例の具体的な内容ですが、慢性経過のものは典型的な亜急性経過のものと比較して若年発症であり、神経学的予後が厳しいことが指摘されています。
治療
・前向きのランダム化比較試験は存在しません。一般的にはステロイド(プレドニゾロン1mg/kg/日)を使用し治療反応性をみて、筋力低下が重度の場合やステロイド単独でコントロールが難しい場合はIVIGを追加(抗HMGCR抗体例ではステロイドを使用せずIVIG単独でCK値、筋力ともに改善を認めたという3例報告もあります N Engl J Med . 2015 Oct 22;373(17):1680-2.)することが多いと思います。
・ステロイド単剤管理は現実的ではなく早期から免疫抑制剤を併用して管理する場合が多いと思います(MTXの報告が多い、その他アザチオプリン、MMF、シクロスポリン、タクロリムス、シクロフォスファミドなど)。例えば、間質性肺炎がなければMTX、間質性肺炎合併がある場合日本では特にカルシニューリン阻害薬が使われる場合が多く、その他アザチオプリン、これらの薬剤の効果に乏しい場合はMMFなどが使用されることがあるかもしれません(もちろん前向き臨床試験があるわけではないため経験に基づいての治療になります)。シクロフォスファミドは元々筋炎で悪性腫瘍合併の可能性が多い点では使いづらい側面があります。
・ENMC international workshop(日本人としては唯一西野先生が参加されていらっしゃいます)では以下の治療方法が提案されています。ここでも治療導入はステロイド1mg/kg/日(重症例はIVMP)に加えて1ヶ月以内にMTX or リツキシマブ or IVIGを併用とされています。
以下抗体ごとの治療方法例です。
以下は日本からの報告での治療薬剤例です。日本からの報告ではやはりカルシニューリン阻害薬併用の報告が多いです。
・リツキシマブが抗SRP抗体陽性の治療抵抗例で使用され効果があったとする報告も多い(Arthritis Care Res (Hoboken). 2010 Sep;62(9):1328-34.)ですが、日本では保険適応の問題があります。先ほどのENMCは抗SRP抗体陽性例の治療抵抗例はリツキシマブ導入を推奨しています。
予後
・筋力低下の予後は悪いことが知られています。抗SRP抗体もしくは抗HMGCR抗体陽性例の約半数程度が治療開始2年経過しても重度の筋力低下を示したままとされています。
参考文献
・Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry 2016;87:1038-1044 日本からの報告でほとんどのデータを参照させていただきました。
・Current Rheumatology Reports (2018) 20: 21 IMNMの素晴らしいreviewです。
・Autoimmunity Reviews 18 (2019) 223–230 こちらもIMNMの大変分かりやすいreview
・Seminars in Arthritis and Rheumatism 49 (2019) 420429 またまたIMNMの素晴らしいreview
・Neuromuscular Disorders 28 (2018) 87–99