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Dropped head 首下がり

首下がりはしばしば「年齢のせいですよ」とされてしまい、器質的な原因が精査されていない場合がありますが、中にはtreatableな疾患もまぎれているため重要です。以下に勉強した内容をまとめました。首下がりは英語文献では様々な表現がされますが、ここでは”dropped head”という表現で統一します。

原因

首下がり病態の原因としては以下の3つが挙げられます。病態1:頸部筋力低下2:錐体外路による異常姿勢3:整形外科的な可動域制限。鑑別を列挙すると下図のように切りがないですが、特に鑑別として重要なのはパーキンソン病、運動ニューロン疾患、重症筋無力症、炎症性筋炎(多発筋炎、皮膚記念、封入体筋炎)が挙げられます。

錐体外路:Parkinson病、ジストニア、遅発性ジスキネジア、MSA
神経原性:ALS、多発性筋萎縮症、ポリオ感染後症候群、CIDP
神経筋接合部:MG、ランバード-イートン症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome)
筋原性:多発筋炎PM、炎症性ミオパチー、封入体筋炎、先天性ミオパチー、糖原病、ミトコンドリア筋症、筋ジストロフィー(顔面肩甲上腕ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー)、頸部伸筋に限局したミオパチー(INEM:isolated neck extensor myopathy)
整形外科:頚椎症、頚髄症
治療関連:放射線治療後の筋炎および前方瘢痕、ボツリヌス注射後
内分泌:クッシング症候群、カルニチン欠乏症、甲状腺機能低下症、低カリウム血症、副甲状腺機能亢進症、ビタミンD欠乏、ポンペ病
薬剤性:DPP4阻害薬、アマンタジン、リコリスliquorice 甘草
その他:Amyloidosis

以下で具体歴を見ていきます。

■首下がりを呈するALS J Neurol Neurosurg Psychiatry 2003;74:683–686

既報では頸部・体幹の筋力低下が初発症状となるのALS患者2%あると報告されています(Acta Neurol Scand 1977;56:194–204)。また一般的には頸部伸筋よりも頸部屈筋の筋力の方が障害されやすいと報告されています。この研究(南インド)ではALS患者全体の1.3%(9/683例)に首下がりを認めたと報告しています(首下がり単独ではなく、経過の中で首下がりを呈した患者も含む)。6/9人では早期に首下がりを認め、また5/9例では頸部屈筋の軽度筋力低下も認めています。首下がりを認めた例では全例びまん性の上位・下位運動ニューロン障害を認めたため診断は容易であったと報告されています。

上図のCase 4の患者さんが下図です。50歳男性で発症から5ヶ月後に(early onset)首下がりを呈し、手で顎を支える姿勢をしています。すでに全身に筋萎縮を著明に認めています。

下図はCase 5の42歳男性で発症後8年して(late onset)首下がりが出現するようになりました。

■首下がりを呈した重症筋無力症の2例の治療とliterature review Neuromuscular Disorders 25 (2015) 429–431

先程紹介したALSではdropped headだけが初発症状ということは極めてまれですが、重症筋無力症はdropped headが初発症状となることが報告されており注意が必要です。

症例1:62歳女性左眼瞼下垂がありテンシロンテスト陽性、抗Ach受容体抗体陽性で2回IAPPを実施後、胸腺摘出術実施。術後2週間で首下がりが出現し、その後MG crisisとなり人工呼吸管理、気管切開実施。IAPP5回(2週間)とPSL50mg、Tac3mgで治療し改善した。

症例2:54歳男性8ヶ月持続する首下がりがあり日内変動はなし。神経学的所見では上下肢筋力低下はないが、頸部屈筋、三角筋、僧帽筋などに軽度筋力低下あり。テンシロンテストで首下がりは改善し、抗AchR抗体陽性で、ステロイドパルス1g3日間実施とIAPP5回実施、その後免疫抑制剤はPSL10mg, Tac3mgを継続し、治療開始2週間後にはcomplete resolution。

症例1、2のそれぞれの治療前の首下がり画像は下図の通り。

以下が首下がりを呈したMG患者のliterature review(既報9例と本症例2例を合わせて報告)。年齢は46-80歳、女性7例、男性4例、テンシロンテストで首下がりは9/10例で改善を認めた。自己抗体に関しては抗AchR抗体7例陽性、抗Musk抗体2例陽性、胸腺腫合併4例。

■首下がりのみを呈した甲状腺機能低下症の症例報告 Neurology 2000;55:896–7.

53歳男性4年の経過で緩徐進行性の首下がりを呈し当初はジストニア疑いでボツリヌス注射を実施も改善がなかった。採血ではCK:4800 U/Lと上昇、TSH:448mU/L上昇、T4:3.0pmol/L低下。甲状腺機能低下症に対してレボチロキシンを投与開始したところ4ヶ月後で首下がりも自然と正常化したことから甲状腺機能低下症が首下がりの原因と判断。

■首下がりのみを呈したネマリンミオパチーの症例報告 Neurology. 2005 Nov 8;65(9):1504-5.

72歳男性が10年経過の首下がりを主訴に受診。家族歴はなく、四肢に筋力低下はなし。検査ではCK値正常、抗AchR抗体陰性、傍脊柱起立筋生検でnemaline小体指摘あり、同診断。当初は頚椎カラーをつけていたが本人に合わず、脊柱固定術を実施しその後も患者は満足しており、仕事を継続している。

■首下がりのみを呈したアミロイドーシスの症例報告 Muscle Nerve 43: 905–909, 2011

77歳男性(既往:NHLが7年前にありR-CHOPと放射線療法実施し寛解状態)が首下がりを主訴に受診。神経学的所見では頸部伸筋がMMT3/5、頸部屈筋はMMT5/5でその他の筋もすべて問題なし。血液検査でIgG-κのmonoclonalな増加を認め、尿中free light chainでもκ型を認めた。画像は傍脊柱起立筋に高信号を認め(下図)、同部位針筋電図は筋原性変化。

傍脊柱起立筋の生検を実施したところ、アミロイド沈着を認め、免疫染色でIgG-κ型の免疫グロブリン沈着を認めた。TTR遺伝子変異は認めておらず、骨髄検査の結果と合わせてALアミロイドーシスによる頸部伸筋へのアミロイド沈着による首下がりと診断。

■INEM4例最初の報告 Neurology 1996;46:917

後頚部筋に限局した筋力低下のみを呈するミオパチーが独立した疾患概念として提唱されており、INEM(isolated neck extensor myopathy)と称されています。60歳以上の高齢者でCK上昇は伴わず、針筋電図では筋原性変化、筋生検では非特異的な筋原性変化、画像検査では傍脊柱起立筋の萎縮を認めます。具体的な病態機序に関してはまだわかっていません。全身の筋疾患ではないことが重要で、わずかに肩甲帯、上肢に広がることもあるようです。難しいのは首下がりにより二次的に筋損傷をきたし首下がりが悪循環で悪化しているのか?という点です。

12例の首下がり症例を精査したところ4例がINEMに合致する(その他8例の内訳:MG4例、ALS1例、IBM1例、PM1例、MyD1例)と判断(下図が詳細内容)。年齢は64-85歳、頸部筋力低下は1週間から3ヶ月かけて発症。検査では抗Ach抗体陰性、NCS正常、RNSTでdecrement認めない、針筋電図では傍脊柱起立筋でFib, PSWを全例で認めた(四肢には異常なし)。筋生検結果は非特異的な筋原性変化のみ。

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症状

首さがりは日常生活ADLに大きな影響を与えます。鑑別の上で重要なのは日内変動や日差変動があるかどうか?やその他の筋力低下を示唆する所見があるかどうか?といった点になります。患者さんは下図のように顎を自分の手で支える場合もあります。

また首下がりにより嚥下障害を呈する場合もあります。

診察

診察で着目する点としては下記のものが挙げられます。

・前傾部筋の筋緊張
・頸部を他動的に戻すときの筋緊張
・振戦
・頸部の可動域
・臥位で改善するかどうか:dystonia, 筋力低下はいずれも臥位にて改善(脊椎変性の場合は改善せず臥位でも頸部屈曲位)

検査

採血:Chemi7,炎症(CRP, ESR),CK、アルドラーゼ、HbA1c、cortisol, ACTH, 甲状腺、抗Ach, Msuk抗体、筋炎抗体(ANA,Jo-1,ARS)

■電気生理検査
・表面筋電図:前頸部の筋収縮が起こっていないか?どうかの確認に有用
・RNST:特にMGの鑑別において重要(ALSでもdecrementは起こるため注意)
・神経伝導速度検査
・筋電図:特に原因が神経原性か?筋原性か?の鑑別において重要です。

■画像検査:多くの場合正常で原因がわかる場合は多くありません。

参考文献

・Pract Neurol 2016;16:445–451 首下がりに関するreviewでよくまとまっており、わかりやすいです。