先日”arachnoid web”術後(術中所見で証明済み)の患者さんを診療する機会がありました。名前だけ聞いたことがあったのですが、具体的な病態など全く知らないため調べた内容をまとめます。Spinal arachnoid webとも文献では記載されていますが、対応する日本語名はまだないように思います。
病態と症状
くも膜下(脊髄外、硬膜内)に膜状のバンドの様な構造物が形成され、このバンドが後ろから脊髄を横断的に圧迫することが病態です。なぜバンド状の構造物ができるのか?に関してはわかっておりません。脊髄が圧迫され無症候性のこともあれば、脊髄症や神経根症を引き起こす場合やsyringomyelia(脊髄空洞症)を呈することもあるとされています。言葉だけだとイメージしづらいですが、実際の術中画像は以下の通りです。私はこの画像をみて初めてイメージが出来ました。
シェーマはこちらからこちらから引用させていただきました(Case courtesy of Dr Matt Skalski, Radiopaedia.org. From the case rID: 49276)。
これもなぜか?はまだわかっていませんが、arachnoid webは上部胸髄後方にできることが圧倒的に多いとされており特徴的な分布となっています。
本疾患は近年認識されてきたこともあり、本当に非常にまれなのかただ認識されておらずunder-reportedなのか?はわかりません。報告はまだまだ少ないですが男女比は1:2と女性に多く、年齢は40-70歳代に多いと報告されています。
画像検査
画像検査でバンドを直接描出することは困難です。画像ではバンドにより脊髄が圧迫された二次的な変化を捉えることしか出来ません。このバンドの圧迫により変形した脊髄の形を表して“scalpel sign”と名前が付いておりarachnoid webに特徴的な所見とされています(下図参照)。
病態のところでも解説しましたが、arachnoid webにより二次的にsyringomyeliaを呈する場合もあります。
画像上の鑑別は「くも膜のう胞」、「脊髄ヘルニア」が挙げられますとなります。くも膜のう胞の鑑別にはCT myelographyが有用です。くも膜のう胞はCT myelographyで造影剤がゆっくりとしか入りませんが、arachnoid webではただバンドが脊髄を圧迫しているだけなので髄液は通常通りに流れます。
実際にはやはり術中所見で確認されているか?が最も重要です。
参考文献
・AJNR Am J Neuroradiol. 2013 May;34(5):1104-10. doi: 10.3174/ajnr.A3432. :arachnoid webの画像と臨床をまとめた報告で素晴らしいです。
・http://dx.doi.org/10.21037/jss.2018.05.08 :arachnoid webのreviewです