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進行性核上性麻痺 PSP: progressive supranuclear palsy

病態

4R tauの沈着が病態で、そのtau蛋白の沈着分布により臨床像には幅があります(下図参照)。もともとは1964年に指摘され、その後PSP-Pが2005年に指摘(2000年以前の報告は基本的にPSP-RSのものである点は注意が必要である)、PSP-PAGFが2007年に指摘されるようになりました。

解剖学的対応関係

臨床像

PSPで古典的に最も有名なのはRichardson’s syndromeですが、実際にはその他の病型もあり、Richardson’s typeだけの臨床像を当てはめようとするとPSPの診断は出来ません。以下が病型ごとの症状のまとめ図になります。

以下に具体的な症候の頻度などを示しますが、問題点としては剖検で病理学的に確認されたPSPはごく少数で、そのほとんどが臨床的な診断によるため必ずしも正確な臨床情報を反映していない可能性があるという点が挙げられます。

■核上性眼球運動障害

・眼球運動障害が核上性か?核下性か?どうかの鑑別にはVOR(vestibulo-ocular reflex:前庭動眼反射)が保たれているかどうか?が重要です。
・特に上下方向が制限(下方視制限>上方視制限)が目立ちます。
saccade persuit(眼球のサッケード運動)が障害されることが特徴です。
・眼球サッケード運動の開始が遅れることも特徴で、眼球運動の評価を使用としても全く患者さんが指標を眼で追いかけてくれず「あれっ・・・もしかして患者さん聞こえていない・・・?」と感じてしまったり、「十分集中できていないのかな・・・?」とつい感じてしまう場合もありますが、実際にはサッケード運動がうまく出来ないことによります。逆に他の指示はすべて入るのに眼球運動だけ指示が入らない場合も核上性眼球運動障害を疑います。
・非常に有名な所見ではありますが病初期には認めない場合も多く、全病期の半分以上経過してから(発症時期から中央値3.9年)認めると報告されています。病初期の段階では、核上性眼球運動障害がないからといってPSPを除外することは出来ません。

■眼瞼運動の問題

瞬目の回数が著しく低下することも特徴で、PSP5回/分、PD10-15回/分、正常20-25回/分と比べた報告もあります。瞬目は通常患者さんは訴えず家族も気が付かないので、普段の診察時に着目する必要があります。
開眼失行“apraxia of eyelid opening”もparkinsonismを呈する疾患の中ではPSPに特徴的な所見です。

パーキンソニズム

あるreviewには“There is nothing ‘atypical’ about PSP: it is typical of PSP, and readily distinguished from Parkinson’s disease. “と記載があり(Rowe JB, et al. Pract Neurol 2021;0:1–9.)、そもそもPDと臨床像は全くことなるという主張もありますが、実際には両者の鑑別で迷う場合も多いです。PSPとPDの臨床像の違いをまとめたものが下図になります。

■ジストニア

PSPはその他にも様々なジストニアを併発し、こちらもご参照ください。頸部のジストニアは嚥下にも障害をきたすため注意が必要です。

■筋固縮

パーキンソン病は遠位、特に手首から始まる事が多く、左右は非対称で、遠位>近位・体幹での筋固縮が特徴的です。一方で、PSPでは左右対称、近位・体幹>遠位での筋固縮を認めます。項部後屈位”Retrocollis”が特徴的な徴候として有名ですが、感度は10%以下と低いです。

■姿勢反射障害・転倒

PSP-RSでは約2/3で姿勢反射障害が初発症状となります。パーキンソン病のMDS diagnostic criteriaには「病初期からの頻回の転倒(-3年以内に1年に2回以上の転倒)」がred flagとして記載されており、これはPSPを意識しての記載になっています。

■hesitation

動作の開始が障害されるhesitationがPSPでは目立ち、この症候が主体でその他のparkinsonismが目立たない一群をPSP-PAGF (pure akinesia with gait freezing)と表現します。PAGFに関してはこちらにまとめがありますのでご参照ください。

■嚥下障害

誤嚥性肺炎の原因となりPSP患者さんのADLを損なう重要なものです。発症から嚥下障害の出現までは報告により48ヶ月、42ヶ月などと報告されています。

■認知機能障害

Parkinsonismを呈する疾患ではPDに合併する認知症、LBD、そしてPSPが特に重要で、MSAは通常認知機能障害を併発しないことに注意が必要です。PSPでは特に前頭葉機能障害による遂行機能障害apathy失語症を合併する場合(PSP-PNFA)もあります。また抑うつを呈する場合もあります。apathyや抑うつが目立つと仮面認知症で認知症テストの結果が極めて悪くなる場合もあり注意が必要です。

拍手徴候”applause sign”は患者さんに拍手を3回するように指示して、勢いで間違えて4回以上たたいてしまう場合を陽性と判断します(Neurology 2005; 64: 2132-2133.)。当初PSPとその他のparkinsonismを呈する疾患の鑑別に有用と報告されていましたが、その後必ず有用ではないという見解も出てきており(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2011; 82: 830-833.)、失行(apraxia)というよりは前頭葉機能障害を示唆した所見ととらえられています。

画像検査

中脳被蓋の萎縮による”penguin silhouette sign, humming bird sign”、中脳外側の萎縮による”morning glory sign”(こちらを参照)、上小脳脚萎縮、第3脳室拡大などがPSPに特徴的な所見として挙げられます。また決して特異的ではないですが、前頭葉の萎縮も高頻度に認めます。脚間窩~中脳水道までの距離を測定し9mm以下を異常(正常は10mm以上)と判定します。

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診断

元々PSPは典型的なPSP-RSに関する診断基準としてNINDS-SPSP診断基準が用いられてきました。この診断基準は特異度は高いですが感度は低く、またその他のPSPの病型の広がりに対応出来ない問題点があることから、2017年Movement disorder誌に“MDS-PSP criteria”が提唱されました(Mov Disord 2017;32:853)。

1. 必須項目: 孤発性・発症年齢が40歳以上・緩徐進行性

2. 除外項目
1)ADを示唆するエピソード記憶障害
2)MSAやDLBを示唆する自律神経障害
3)DLBを示唆する幻視や認知機能の変動
4)運動ニューロン疾患を示唆する上位・下位運動ニューロン徴候
5)脳血管疾患、自己免疫性脳炎、代謝性脳症、プリオン病を示唆する突然発症や段階的進行、急速進行
6)脳炎の既往
7)小脳失調
8)重度の白質脳症、水頭症、脳梗塞、脳出血、虚血性変化、脳腫瘍、奇形などの構造的異常

3. 主要臨床項目:眼球運動(O)・姿勢反射障害(P)・無動(A)・認知機能障害(C)(この4項目に関してそれぞれcertaintyのlevelをつけます)

4. 支持基準
1) 臨床項目:CC1: Levodopa反応不良・CC2: 無動・痙性構音障害・CC3: 嚥下障害・CC4: 羞明
2) 画像所見:IF1: 中脳萎縮・IF2: DAT-scan集積低下

5. 病型と診断基準

・PSP with Richardson’s syndrome(PSP-RS)
・PSP with progressive gait freezing(PSP-PGF)
・PSP with predominant parkinsonism(PSP-P)
・PSP with predominant frontal presentation(PSP-F)
・ PSP with predominant ocular motor dysfunction(PSP-OM)
・PSP with predominant speech/language disorder(PSP-SL)
・PSP with predominant CBS(PSP-CBS)
・PSP with predominant postural instability(PSP-PI)

この新しい基準の問題点は複数の亜型に該当してしまう症例が存在することです。ここで優先順位をつける方法として”MAX rule”というものがあります(Movement Disorders, Vol. 34, No. 8, 2019)。

MAX(Multiple Allocations eXtinction) rules
MAX 1:診断精度 Probable>possible>suggestive of
MAX 2:診断時期 1番目>2番目>3番目(ただし後の臨床像が主体の場合はMAX2は棄却できる)
MAX 3:病型 PSP-RS>PSP- OM/PI>その他
MAX 4:MAXの序列 MAX1>MAX2>MAX3

下のグラフは主要臨床項目からどの病型のどの診断精度(probable,possible, suggestive)に該当するか?をわかりやすくしたものです(MOVEMENT DISORDERS CLINICAL PRACTICE 2020; 7(2): 240 – 242より引用)。こちらのほうが圧倒的に使いやすいです。

これを下図を具体例で考えてみます。下図では発症1年目ではSuggestive of PSP-Pのみ該当するため、MAX ruleを該当するまでもなく、suggestive of PSP-Pに該当します。発症2年目はSuggestive of PSP-P, PSP-PI, Possible PSP-PGFの3つが該当してしまうため、MAX ruleを適応してみます。MAX1は診断精度が最も高いものなのでPossible PSP-PGFが該当します。MAX ruleはMAX1>2>3の順に優先度が高いため、この時点でMAX1が適応されPossible PSP-PGFが該当します。
次に発症5年目は下図の通り多数が該当してしまいます。MAX ruleを適応すると、MAX1はProbable PSP-RS,P,PGF,Fの4つが該当します。これだと絞りきれないためMAX2へ移行し、MAX2はPSP-Pから始まったことになりますが、MAX2は上のカッコ内で記載しましたが臨床像次第で棄却できます。この場合はよりPSPに典型的なPSP-RSが主体な臨床像となるため、MAX2は棄却されMAX3よりPSP-RSとなります。

これらは極めてややこしいため、岐阜大学の下畑先生が診断ツールを日本語でホームページに掲載してくださっております(MDS-PSP基準に基づいた進行性核上性麻痺の診断補助ツール https://psp-assist.com/)。大変参考になりありがたいです。

MDS-criteriaではPSP-RSが過剰に診断されてしまう可能性がある Annals of Clinical and Translational Neurology 2020; 7(9): 1702–1707

下図は左が専門家の診断で、右がMDS criteriaに当てはめた際の診断です。見て分かる様に多くがMDS criteriaによるとPSP-RSに行き着いてしまうことが分かります。

治療

根本的な治療方法は存在しないのが現状です。

対症療法としてのL-DOPAは投与開始初期にはごく軽度反応を示す場合もありますが(31%ではmild, 7%ではmoderate効果があったと報告されている。特にPSP-Pでは50%効果があり、RSの14%よりも多いと報告がある。)、その後すぐに(数ヶ月程度で)効果がなくなる場合が多いです。

抗コリン薬が効果があるかもしれないという報告もあり、トライする場合もありますが、認知機能障害を助長をしてしまうリスクもあるため注意が必要です。

参考文献

・Semin Neurol 2014;34:151–159. PSPの症候などに関して詳しくまとめられている。
・Lancet Neurol 2009; 8: 270–79 PSPのreview
・Mov Disord 2017;32:853 MDSの診断基準
・Rowe JB, et al. Pract Neurol 2021;0:1–9. とても熱いPSPのreviewでかっこいい文献。

管理人記載 2021/7/21改訂