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橈骨神経麻痺 radial nerve palsy

解剖

・橈骨神経(radial nerve)は腕神経叢の後神経束から分岐し、上腕骨のまわりを巻き付くように走行し(橈骨神経溝)、肘周囲で深枝(後骨間神経:運動神経)浅枝(浅橈骨神経:感覚神経)に分岐します。内在筋は手背には存在しないため、内在筋は支配していません。

指伸筋(C8・下神経幹)はMP関節の伸展を担います。PIP関節、DIP関節の伸展は手内筋(虫様筋、骨間筋)が主に作用するため、指伸筋の作用は弱いとされています。指針筋のMMTを評価する際にはPIP関節、DIP関節を屈曲位の方が評価しやすいとされています(脊椎脊髄 31 ⑸:467-478,2018「腕神経叢の臨床解剖」より引用させていただきました)。

・腋窩~上腕のところでは三角間隙(大円筋、上腕三頭筋長頭、上腕骨)の間を通過します。

浅橈骨神経(superficial radial nerve)の遠位はanatomical snuffbox(下図黄色の三角)から長母指伸筋腱を乗り越えて手背に分布します。同部位では浅橈骨神経をこりこりと触れることが可能です。

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臨床症状

■運動障害

手内筋が障害されているわけではないですが、手関節を背屈できないため手指の屈曲がしづらくなり(屈筋腱がたるんでしまうため)「ものがつかみづらい」という症状をきたします。

・このように手指の屈曲には「手関節の背屈位での固定」が土台として非常に重要です。このため橈骨神経麻痺の患者さんの握力は著明に低下しますが、手関節を他動的に固定して握力を図るとしっかり握力が保たれるという特徴があります。

・手関節の伸展(橈側手根伸筋)と手指の伸展(複数の手指伸筋)が障害されるため、“drop hand”(下垂手)を呈します。

■感覚障害

・橈骨神経麻痺では感覚障害がはっきりしない場合もありますが、感覚障害を認める場合はちょうど第1指と第2指の間背側部分(水かきの部分)に認めます(下図参照)。

他の末梢神経障害とおおまかに比較すると下図の通りです。

橈骨神経麻痺と中枢性病変の鑑別方法

橈骨神経麻痺と脳血管障害の鑑別は知識がないと難しくその理由は下記の通りです。

■発症様式:睡眠時の圧迫が原因の橈骨神経麻痺とすると、睡眠時の脳血管障害と病歴からの区別が困難です。

■上肢Barre検査は橈骨神経麻痺でも陽性となる:橈骨神経麻痺では回外筋が障害されるため前腕は回内し、手指伸筋が障害されるため手指は屈曲します。このため上肢Barre検査では脳梗塞のときと非常に似た手指屈曲と回内というパターンを呈します。
*ちなみに前腕の回外を担うのは「回外筋(橈骨神経支配)」と「上腕二頭筋(筋皮神経支配)」の2つ。

ではどうすれば橈骨神経麻痺と中枢性病変(脳血管障害が代表)の区別ができるでしょうか?

■連合運動の有無による判断

通常ものを掴むときに手指を屈曲すると手首は自然と背屈します。これは連合運動の一種です。中枢性病変では手首は自然と背屈しますが(連合運動は保たれるため)、橈骨神経麻痺では背屈しません(撓骨神経麻痺ではかえって掌屈してしまい、これを”Pitresのこぶし徴候”と表現します)。下の動画をご参照ください。(話題はそれますが中枢性と末梢性の鑑別で重要なのは動眼神経麻痺、顔面神経麻痺、下垂手での撓骨神経麻痺と脳血管障害の3つですかね)

後骨間神経麻痺(posterior interosteosseous nerve palsy)

・後骨間神経は回外筋のトンネル(”Frohse arcade”と表現:下図参照)を抜けて純粋運動成分の橈骨神経深枝として手指伸筋を支配します。
後骨間神経麻痺:同部位(”Frohse arcade”で外傷、腫瘍などで圧迫することで手指の伸展障害をきたします。橈側手根伸筋は後骨間神経支配ではないため保たれるため、手関節の伸展は保たれ、手指だけが垂れる“drop finger”を呈します。感覚障害は純粋運動神経なのでありません。

例:ガングリオンによる後骨間神経麻痺の症例(Intern Med 58: 1661-1662, 2019より引用)

*伸展筋の腱損傷/断裂でも手指の伸展障害が起こります。手関節を他動的に屈曲させて手指が伸展するかどうか?を確認することで腱損傷/断裂か(=手指は他動的に伸展しない)?そうではないか(=手指は他動的に伸展)?の鑑別が可能です。

検査

神経伝導検査:橈骨神経の神経伝導検査に関してはこちらに記載しましたのでご参照ください。

*以下は調べた内容ほとんど自分用ですみません

■後骨間神経麻痺に類似した”focal myopathy” Muscle Nerve 2001;24:969

25歳男性、2年間かけて徐々に手指伸展の筋力低下をきたした(疼痛は上腕、前腕、頸部いずれにも認めていない)。腱損傷はなし。EMGではEDC、EIPで筋原性変化(early recruitment, short-duration, low-amplitude, polyphasic MUP)を認めた(障害部位はpatchyであり刺入部位によっては正常所見もあったとのこと)。その他の領域の筋肉(上腕二頭筋、腕撓骨筋、EPL, EPB, VL, Iliopsoas,反対側など)はいすれも正常範囲内。EDCで筋生検を実施、筋繊維は大小不同を認め、内在核に16%。CK値は正常範囲内。13ヶ月後のフォローアップでは臨床的には変化なし。