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胸髄病変の神経診察

頚髄領域、腰髄領域はそれぞれ手、足があるので運動障害によるレベルの同定がやりやすいですが、胸髄領域は運動からのレベルの同定が難しいです。ここでは胸髄病変によるレベルの同定に役立つ神経診察を紹介します。

Beevor徴候

Beevor 徴候とは,「仰臥位になった患者の頭部を挙上させると臍が上方へ移動する現象」を表します。正常では頭部を挙上させようとしても臍の位置は変わりません。これは上部腹直筋と下部腹直筋が共に収縮することで臍に位置が綱引きの関係で動かないイメージです。しかし、下部胸髄(Th10レベルを中心とする)での病変があると下部腹直筋が収縮せず、上部腹直筋のみが収縮するため臍が上部に引っ張られ上部に移動するということです。耳学問ですが、1cm以上の移動を有意と解釈するそうです。
*腹直筋上部:Th8,9髄節支配、 腹直筋下部:Th10,11髄節支配

原因
・脊髄病変(下部胸髄病変)
・腹直筋下部優位障害:顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー *胸髄病変以外での原因として挙げられています。

参考文献:脊椎脊髄 28 ⑷:348-350,2015

*これは逆に上部腹直筋の筋力低下があると臍が下に移動する”inverted Beevor sign”も報告されています(”Teaching Video NeuroImages: Inverted Beevor sign in facioscapulohumeral muscular dystrophy.” Neurology. 2020 Nov 10;95(19):e2714.より引用 こちらを参照)。

腹壁反射

方法:腹筋をリラックスさせた状態(膝関節を屈曲、深呼吸で吸気から呼気に移行するタイミングなど)、腹壁をルレットやピンなどで外側から内側へこすると(肋骨下縁のみ内側から外側へこする)、刺激された方向に腹壁が収縮し臍や白線が動く現象が腹壁反射です。腹壁の上(Th6-9)、中(Th9-11)、下(Th11-L2)の3か所で行います。*肋骨縁のみ内側から外側にこすり、それ以外は外側から内側へこすります(すみません昔の図がずっと間違っていました申し訳ございません)。

解釈:生理的には両側で左右差なく認め、腹壁反射が出ない場合は錐体路障害を示唆するとされています。しかし、生理的に両側出現しない場合(特に高齢者や肥満患者さん)もあります。左右差がある場合は診断に有用ですが、両側消失している場合は生理的に出ない場合もあるため診断意義がなかなか難しいです。

具体的な動画がNEJMにあるため掲載させていただきます(N Engl J Med 2014; 370:e29)。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1308153

胸髄病変へのアプローチはなかなか難しいですが、これらを参考にしてアプローチします。このほかにも有用な診察方法がもしございましたら教えていただけますと幸いです。

改訂記録:2021/3/4 腹壁反射の肋骨縁の内側と外側が逆であったため訂正