病態
ベーカー嚢胞は膝窩に位置する半膜様筋と腓腹筋の滑液包が拡大したものです(このように厳密には滑液包なので嚢胞という名称は正確ではありません)。半腱様筋と腓腹筋の間から滑液包が拡大して後方に広がることで臨床的には膝窩の嚢胞として認識します。この滑液包は通常膝関節の関節腔と連続しています。下図にイラストをまとめました。

以下に自験例のベーカー嚢胞の画像を掲載します(膝後面を写したものです)。

疫学的には35~70歳程度に多いとされ、関節リウマチ、OA、半月板損傷といった膝疾患と関連があるとされています。嚢胞は一般的には内側・下方へ拡大しやすく外側・上方へは拡大することは比較的まれとされています。嚢胞の大きさも患者さんが気ずかず画像で指摘できるくらい小さなものから大きなものまでさまざまです。
評価にはエコー検査が有用です。
もともとの構造が滑液包なのでベーカー嚢胞は滑膜構造を持ち、滑膜腫瘍との鑑別が重要になります。その他半月板嚢胞、膝窩動脈瘤、血腫、軟部組織腫瘍などが鑑別となります。
合併症
・ベーカー嚢胞破裂:嚢胞が破裂することで下腿の腫脹・疼痛をきたします。臨床的にDVTと区別が難しいです。しかしDVTの治療となる抗凝固療法をすると、ベーカー嚢胞破裂の場合は血腫によりcompartment症候群を引き起こしてしまう場合もあるため注意が必要です。Primary careや救急領域で臨床的に最も重要なのはこのDVTとの鑑別と思います。

・嚢胞感染
・嚢胞拡大による神経圧迫
・嚢胞拡大による膝屈曲制限
治療
基本的には保存的治療が選択されます(血管や神経の圧迫がなければ最低6か月は保存的治療をするべきと記載があります Sports Health. 2015 Jul;7(4):359-65)。
また背景の膝疾患の治療(例えば関節リウマチの場合はそのコントロール)が重要とされています。手術をする場合も嚢胞自体に対してではなく、背景の膝疾患に対して先に行うことを考慮する。結局いくらベーカー嚢胞自体を手術で治療したとしても、背景の膝疾患の治療がないと高率にベーカー嚢胞が再発してしまうためとされています。
このほか関節内ステロイド注射は嚢胞縮小に有用と報告されており保存的治療の期間に実施することもあるようです。
外科的治療の適応となる場合もありますが、記載の通り背景の膝疾患の治療がなによりも重要です。

参考文献
・Clinical radiology 2002;57:681:ベーカー嚢胞の画像reviewです。
・Sports Health. 2015 Jul;7(4):359-65:ベーカー嚢胞の治療に特に焦点を当てたreviewです。