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腎梗塞 renal infarction

昨年度勤めていた病院の研修医の先生方から腎梗塞の症例をシェアしていただきました。私自身は1例しか経験がなく、それも自分で腎梗塞をねらって診断したわけではなく造影CT検査で偶発的に指摘され診断にいたった症例でした・・・。有名な疾患ですが、尿管結石、腎盂腎炎と誤診される場合も多いです。勉強した内容をここでまとめさせていただきます。

1:原因

原因を1:心原性、2:腎血管性、3:凝固障害、4:特発性と4つに分類します。1:心原性の心房細動が最も原因として多いですが、全体の約半分程度であり、心房細動がなくても除外は全くできません。原因を下図にまとめます。

2:症状

一言でまとめると「突然発症の側腹部痛、腹痛で発症し、嘔気や発熱を伴う場合もあり一見尿管結石や腎盂自然と間違えてしまうようなpresentation」となるかと思います。

症状を頻度別にみると、側腹部痛92%、腹痛54%、嘔気/嘔吐60%、発熱47%と報告されています(American Journal of Emergency Medicine (2012) 30 , 1055 – 1060より参照)。

3:検査

■採血検査

LDH単独上昇が有名な所見です(CK上昇を伴わないLDH単独上昇の鑑別は血球・肺・腎臓の組織破壊)。

■尿検査

尿タンパク、尿潜血が有名な所見です。ただこの所見だけで腎梗塞をrule in, rule outする感度、特異度には乏しいです(腎盂腎炎でも出てしまう)。20例をまとめた報告ではタンパク尿を85%、血尿を45%で認めたとされています(American Journal of Emergency Medicine (2007) 25, 164–169 参照)。

■造影CT検査

「楔状の造影欠損」が特異的な所見で、診断においてgold standardになります(しかし、これは腎盂腎炎でも認める所見です)。その他、 cortical rim sign(側副血行路により腎の辺縁を血流が保たれる)所見を50%程度に認め、腎盂腎炎との鑑別に有用な所見となりえます。

下図 American Journal of Emergency Medicine 2012; 30: 1055 より参照。

4:どう診断するか?

2大鑑別疾患は「尿管結石」「腎盂腎炎」というcommon疾患が挙げられます。腎梗塞は非常にまれな疾患ですが、この救急でcommonな疾患と似たpresentationでくることが診断を難しくしています。実際診断が遅れた腎梗塞10例がなぜ診断が遅れたのか?を調べたところ、8例は尿管結石と思ったからだと報告されています(American Journal of Emergency Medicine (2007) 25, 164–169)。

臨床的に注目するべきポイントを下記にまとめます。

突然発症の病歴をとらえる
リスク因子(心房細動など)を把握する
・嘔気、発熱といった随伴症状もありうる(腎梗塞の症状が幅広いことを知る)
2大鑑別は「尿管結石」、「腎盂腎炎」であるということを知る(逆に「尿路結石」「腎盂腎炎」の症例を診たときは、腎梗塞の可能性を考慮する)
・検査でLDH単独上昇に注目する(尿管結石ではそもそも採血をしないため、疑って採血するプロセスが必要となりますが)
尿管結石と合わない所見を流さない(エコーで水腎がない、NSAIDs反応性が悪い)

去年病院での師匠の先生は院内患者さんの発熱で、尿所見とLDH上昇があると腎梗塞をよく鑑別に挙げていらっしゃいました。かなり閾値を低くして疑わないと診断することが難しい疾患と思います。

文献:腎梗塞と尿管結石の鑑別に関しての後ろ向き研究 Am J Emerg Med. 2021 Dec;50:322-329. PMID: 34428730.
・腎梗塞42例:最初の診断(尿管結石40.5%, 消化管疾患 28.6%, 腎梗塞0%)、症状(腹痛 61.9%, 側腹部痛 35.7%)
・尿管結石210例:最初の診断(尿管結石 71.4%、消化管疾患 1%, 腎梗塞0%)、症状(腹痛 24.8%, 側腹部痛 73.8%)
・腎梗塞を示唆する因子(尿管結石よりも):年齢≧70歳、心房細動既往、発熱≧37.5度、LDH≧500 IU/L、Cl≦103 mEq/L、アルブミン≦4.3g/dL、CRP≧0.23mg/dL、尿赤血球なし
・LDH≧500 IU/L Sn 52.4%, Sp 84.8%

■余談:稀な疾患をどのように鑑別から漏らさず診断するか?

これまでみてきたように腎梗塞は稀な疾患ですが、commonな尿管結石や腎盂腎炎と誤診されてしまうことがある疾患です。誤診の原因としては、そもそも腎梗塞を鑑別に挙げていなかった場合が多いと思います。ではこのように稀な疾患を確実に鑑別にいれるにはどうすればよいでしょうか?個人的には絶対に思い付く鑑別診断にひもづけ(尻尾をつける)ようにして覚えるのが良いと思います。

例えば側腹部痛で「尿管結石」が鑑別に挙がらないことはまずないと思います。むしろ「尿管結石」ばっかり考えてしまい、その他の鑑別疾患が眼に入らない場合もあると思います。このような絶対に鑑別に挙がる疾患に稀な疾患をセットで紐づけしておくと、必ず「あれっ腎梗塞ではないよね?」と考えることが出来ます(下図のイメージ)。

このようにそもそも想起することが難しい鑑別疾患は、有名な間違えられやすい鑑別疾患に紐づけしておくと良いかと思います。色々なやり方があると思いますので参考になりましたら幸いです。

5:治療

■血行再建

腎動脈の完全閉塞が発症早期(24時間以内)の場合は血行再建も考慮するとされています。しかし、具体的な適応は分かっておらず定まっていないことが多数あります。

■抗血栓療法

背景の疾患に応じて抗血栓療法を行いますが、これも抗血小板薬がよいのか?抗凝固薬がよいのか?期間がどの程度が良いのか?は定まったものはありません。治療に関して前向きに研究したものはなく、現状は症例報告や後ろ向き研究からの結果を演繹するしかなさそうです。

腎梗塞後の予後に関しては腎機能悪化をきたす場合が指摘されていますが、Creがほとんど変化しない場合もあります。これはやはり残存機能ネフロンが代償的に頑張るためではないかと思います(このため長期的にはCKDリスクが上昇してしまうのではないかと懸念もありいます)。

以上腎梗塞に関してまとめました。治療に関してはまだ確立したエビデンスは乏しく、いかに疑うか?診断するか?の点にフォーカスを当てて書かせていただきました。疾患頻度としてそこまで多いものではないですが、典型的な「心房細動の人が側腹部痛」だけではなく、commonな尿路結石や腎盂腎炎と間違えやすいため注意が必要です。