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伝染性単核球症 infectious mononucleosis

  • 2019年11月5日
  • 2020年6月14日
  • 感染症

1:病態・概要

EBV感染症によるものを伝染性単核球症(infectious mononucleosis)、その他の原因によるものをmononucleosis-like syndromeと表現します。

EBVは唾液から咽頭上皮細胞へ感染し、咽頭のリンパ組織のB細胞へ感染することで全身性の症状(リンパ節腫脹、肝脾腫、皮疹、倦怠感)などを引き起こします。そしてこのB細胞が様々な抗体を産生すると、自己免疫反応としての合併症を引き起こすことがあります。

潜伏期間は2週間~2か月程度と幅広いです。

通常は成人になるまでに感染して免疫を獲得しますが、近年は衛生環境の改善が関係している影響か未感染が増加してきています。 Pathology International 2006; 56: 112
日本においても、 5~9才の既感染率は1990年までは約80%でしたが、1995-1999年では約59%と大きく減少してきています。

小児期に感染する場合は非特異的な上気道炎という臨床像ですが、未感染の10-30台が感染すると伝染性単核球症として特徴的な臨床症状を呈します。

2:鑑別 伝染性単核球症様症候群:”mononucleosis-like syndrome”

伝染性単核球症を初めて診断すると、その後診る疾患の多くが伝染性単核球症にみえてしまい、ついoverdiagnosisになったしまう場合が個人的には多く、安易に伝染性単核球症と診断してしまい反省する場合も多かったです。伝染性単核球症様の症状を呈する疾患、特に急性HIV感染症を中心に鑑別に挙げることが重要です。これらの疾患を下記に列挙しました。

病因から分類すると下記の様になります。
細菌:溶連菌
ウイルス:HAV,HCV,HIV,CMV,Rubella,ParvoB19, adeno, HHV6
その他:Toxoplasma,梅毒
膠原病:AOSD,SLE,菊池病 アレルギー:DIHS
腫瘍:悪性リンパ腫

“ABCDE-TRH”という覚え方も教えていただきました。
A:HAV,AOSD,Adeno
B:HBV
C:CMV
D:Drug,DIHS
E:Endocrine
T:Toxoplasma
R:Rubella
H:HIV

全てではないですが、一部の代表的な鑑別点をまとめます(一部増刊レジデントノート感染症の診断術より参考にさせていただきました)。

3:臨床症状・身体所見

基本的に「咽頭炎」「急性上気道炎」からこの疾患を想起して診断していく場合が多いと思います。診断にあたっては採血検査でのウイルス検査が必要となりますが、急性上気道炎や咽頭炎では通常採血を行いません。臨床的に伝染性単核球症らしさがある場合に確認のために採血をするという流れが一般的です。伝染性単核球症らしさは裏を返すと、「ただの急性上気道炎らしくない」「溶連菌感染症らしくない」という点をどうとらえるかが重要です。

具体的には
・「急性上気道炎と思ったが、4日以上発熱が持続しており長い経過の印象」
・「咽頭炎だが後頸部リンパ節腫脹が目立つ」
・「扁桃腺に白苔付着があるが溶連菌迅速検査は陰性で経過が長い」
といった病歴、身体所見から検査を出す流れになります。

以下に各症状、身体所見ごとに記載します。

倦怠感に関しては多くの文献、教科書でも指摘されている「とっても非特異的な症状」ですが、この疾患では倦怠感が強い特徴があります。確かにclosedに問診すると発症前に倦怠感がある場合(全然ない場合もあります)、急性上気道炎としても倦怠感が強すぎる印象、それから改善においても倦怠感が持続する場合を多く経験します。倦怠感だけから伝染性単核球症の診断をすることは難しいと思いますが、参考所見としてとても重要と思います(特異度は低いが、感度は高い所見)。

扁桃腺の白苔付着軟口蓋の点状出血は重要な口腔内所見です。以下に自験例の扁桃腺の白苔付着を示します(患者さんより承諾済み)。

後頸部リンパ節腫脹全身性のリンパ節腫脹を表しており(局所的な炎症を反映している訳ではない)、やはり特徴的な所見です(個人的には後頸部リンパ節腫脹はこの疾患で勉強したといっても過言ではないです・・・)。後頸部、両側性、縦に数珠状につらなり、圧痛はそこまで目立たない場合が多いです。

眼瞼浮腫が若年者では目立つ場合があると教科書には記載があり、実際私も1例だけ眼瞼浮腫が目立つ症例は経験しました(実はもっといるのかもしれないですが・・・)。

皮疹は アミノペニシリン(アモキシシリン、アンピシリン)の処方での皮疹が有名ですが、その他のセフェム系抗菌薬でも出現します(B細胞が活性化することでの薬剤過敏性を反映しているのかもしれませんが詳しくは分かりません・・・・)。

肝脾腫に関しても身体所見で確認するべき項目です(具体的な方法はここでは省略します)。

以下に各身体所見での感度、特異度をまとめて示しました。

4:検査

ウイルスを直接検出するのではなく、抗体EBV-VCA-IgM, IgG抗体, 抗EBNA抗体を提出して、既感染、初感染かを判断します(下記にまとめました)。
抗EBNA抗体は6-12週で陽性となり終生陽性です。

CMVとは臨床的に区別が難しい場合もあるため、抗CMV-IgM, IgG抗体はEBVの検査と一緒に提出するようにしています。その他臨床的に上記のmononucleosis-like syndromeで疑わしいものがある場合はその検査提出も検討します。

先にも述べたように溶連菌感染症と思って抗菌薬を処方すると皮疹が出現してしまうため注意が必要です。溶連菌迅速検査の閾値は低く設定してもよいのではないかと思います。

通常の採血では血液像の目視も確認して異型リンパ球がないかどうかも重要です。ちなみに異型リンパ球は伝染性単核球症に特異的な項目ではなく、その他のウイルス感染症などでも出現します(以下が具体的な目視像です)。

以下に異型リンパ球の出現と、リンパ球比率と異型リンパ球の合わせ技で感度、特異度がどうなるかを示しています。

血球減少をきたしている場合に注意が必要な点としては「血球貪食症候群」の合併がないかどうかです。基本的に伝染性単核球症で命にかかわることはないですが、唯一「血球貪食症候群」を合併すると致命的になりえます。フェリチン、TGなどの補助検査も提出し、必要あれば骨髄検査も検討することになります。

4:合併症

血球貪食症候群:血球異常の合併(特に白血球減少)は25-50%程度に認めるとされますが、その中でも血球貪食症候群は致命的になりうるので注意が必要です。

神経合併症 1-5%:Guillain Barre syndrome、顔面神経麻痺、脳炎、無菌性髄膜炎、横断性脊髄炎、小脳炎などが挙げられます。私はまだGBSしか経験がないです・・・。

上気道閉塞 1%:reviewには1%とありますが正直自分であまり疑えたことはないのと、疑う状況に遭遇したことがありません・・・。

脾破裂 0.5-1%:脾破裂は致死的になりうるので重要な合併症として有名です。
脾破裂85例を後ろ向きにまとめた論文( injury 2016;47:531 おそらくこれが最も多くをまとめいる)では、 発症から脾破裂までの日数は中央値14日(最長8週間まであり)、このうち84%は4週間以内の発症、原因は86%で外傷のない特発性で、14%のみ外傷歴あり。症状としては腹痛がもっとも多く88%, Kehr sign(出血による横隔膜刺激による左肩放散痛)が33%, shock が27%、死亡は9%認めその全て症例で発症から10日以内の脾破裂症例であったと報告されています。(以下は伝染性単核球症の発症日から脾破裂までの日数と脾破裂症例数の対応関係)

脾破裂予防の具体的な対応として決まったものはないですが、
1:腹痛、左肩疼痛(横隔膜への刺激での放散痛)が起こった場合はすぐに救急を受診する。(実際外傷歴がないものが86%と多く発症してからの対応も重要)
2:発症から4週間以内は破裂リスクが高く、その後はリスクは下がるが報告上最大8週間まで起こりうることを説明する。そのうえで個別にコンタクトスポーツの制限期間を設定する。
という対応になると思います。

スポーツ復帰に関しては以下のようなrecommendationもあり参考までに添付します。Sports Health. 2014;6:232

5:治療・対応

基本的に対症療法で合併症がなければ入院適応は基本ありません。抗ウイルス薬も対応するものはなく使用しません。

感染対策もほとんどの人が既感染のため特別な感染対策は必要ありません。

上記の合併症に注意することと、その対応が主体となります。

以上伝染性単核球症に関してまとめました。私自身内科で外来をするようになってから多く遭遇することになりましたが、一度診断すると救急外来でも「あれっこれは伝染性単核球症かな?」という症例を多く目にするようになりました。救急外来ではウイルス検査は出せないので内科外来でフォローすることになりますが、ついつい「これも伝染性単核球症では?あれも伝染性単核球症では?」とoverdiagnosisに陥りやすい疾患でもあるように感じます。特に急性HIV感染症を中心とした鑑別をきちんと行い、伝染性単核球症と安易にゴミ箱的に診断しないよう注意したい自戒の意味もこめて書きました。

参考文献

N Engl J Med 2010;362:1993-2000

Am Fam Physician. 2004 Oct 1;70(7):1279-87.