酸塩基平衡:血液ガスの読み方 原則編

酸塩基平衡を解析する方法は実は大きく3通りあります。僕たちが普段医学生の時に学ぶ方法はそのなかのphysiologic approachというものであり、この方法についてここでは説明します(その他Base excess approach, Stewart approachがありますがここでは省略)。

Physiologic approachでは次のStep5つを進めていきます。

Step 1:pH

Step2:1次性変化

Step3:代償変化

Step4:AG計算

Step5:補正HCO3-計算

Step 1:pH アシデミア(acidemia) or アルカレミア(alkalemia)?

まず言葉の定義を確認します。 pHが7.35以下の状態をアシデミア(acidemia) 、pHが7.35以上の状態をアルカレミア(alkalemia)と表現します(アシドーシス、アルカローシスではない点に注意!)。これは病態ではなく、純粋に結果です。アシドーシス(acidosis)、アルカローシス(alkalosis)という言葉はpHの状態ではなく、体を酸性や塩基性に傾ける原因の病態を表現しています。

これは綱引きに例えると分かりやすいです。綱を引っ張る参加者・力が「アシドーシス」・「アルカローシス」で、その結果の綱の位置が「アシデミア」・「アルカレミア」になります。綱を酸性方向に引っ張る力がアシドーシス、塩基性方向へ引っ張る力がアルカローシスです。その結果、綱の位置がpH<7.35の酸性にいる状態を「アシデミア」、pH>7.45の状態にいることを「アルカレミア」と表現しています。下図を参照してください。

酸塩基の状態は必ず1つなので、アシデミア、アルカレミア、どちらでもないのいずれかの状態になります。アシデミアかつアルカレミアという状況はあり得ません。

しかし、アシドーシスとアルカローシスは背景の病態を表現しているので複数の病態が同時に存在することが十分あり得ます。先ほどの綱引きで例えると綱引きに参加制限はないということです。よく「AG開大性代謝性アシドーシス」があると、「AG正常代謝性アシドーシス」はないと勘違いしてしまっているケースを目にしますが、これは間違いです。このようにアシドーシス・アルカローシスはあくまで病態を表現しているので複数が同時に存在することがありえます(呼吸性アシドーシスと呼吸性アルカローシスのみ相反関係にあるため同時に存在しえない点に注意)。

例えば1型糖尿病患者さんが敗血症でDKAになり嘔吐、下痢をしてると、敗血症で呼吸性アルカローシス、DKAでAG開大性代謝性アシドーシス、嘔吐で代謝性アルカローシス、下痢でAG正常代謝性アシドーシスとなります。

血液ガス初学者に多い間違えとして、下記の2点が代表的です。
間違い1:× pHが正常だから、酸塩基平衡に異常はない。
pHが正常でも背景に酸塩基平衡異常をきたす病態はありうる。例えば、代謝性アシドーシスと代謝性アルカローシスが共存していれば、結果としてpHが正常範囲内のことがありうる。綱引きの結果、綱の位置が正常にある場合(動的平衡状態)もある。

間違い2:× 代謝性アシドーシスがあるから、代謝性アルカローシスはない。
→複数の病態は合併しうる。アルカレミアとアシデミアは共存しないが(pHの状態を表す言葉のため)、アシドーシス、アルカローシスは共存しうる(これは背景の病態を表すため)。綱引きに参加制限はなく、いくらでも合併しうる。

Step2: 1次性変化

1次性変化とは体液の酸塩基平衡に1番影響を与えている病態を決めることです。例えば、HCO3-が低下していれば代謝性アシドーシス(ここではAG開大の有無は問わない)、上昇していれば代謝性アルカローシス、PaCO2が低下していれば呼吸性アルカローシス、上昇していれば呼吸性アシドーシスです。

ここまではあまり難しくない内容かと思います。問題は次のStep3です。

Step3: 代償性変化

例えば代謝性アシドーシスの病態がある場合、体ではpHを正常にしようとするため、CO2の出し入れで調節を行います。これを代償性変化と表現します。代謝性アシドーシスの場合はCO2を出す(PaCO2を低下させる)ことでpHを保とうとします。この代償によって「実際どのくらいPaCO2は下がるか?」を予想することが代償性変化で行うことです。一般に以下の対応関係にあります。

そしてこの代償性変化を予想する式があり、下記の通りです。(この予想式は代謝性アシドーシスの場合、呼吸性アルカローシスの場合などそれぞれ決まったものがありますが、覚えるのは大変なのでメモして持ち歩けるようにしておくとよいです)

これだけだとまだわかりにくいと思うので、例を挙げて考えます。例えばHCO3=20 mEq/L(正常値は24mEq/L)となる代謝性アシドーシスの病態がある場合を考えます。この場合呼吸性代償によりPaCO2は低下するはずです。

ここで「代償によりどのくらいPaCO2が下げるのか?」を予想する式が上の一覧になっているものです。今回は代謝性アシドーシスなので、予想の値は“予想PaCO2 = 実際HCO3- + 15”となり、“予想のPaCO2=20+15=35 mmHg”となります。実際にはこれとぴったり同じ値でなくても予想値±2 mmHg であれば代償変化の範囲内とします。つまり今回の代償による予想PaCO2 = 35 ± 2(つまり33~37 mmHg)となります(下図参照)。

この状況で例えば実際のPaCO2=33mmHgの場合(実際の値を下図は緑で表現しています)はどうでしょうか?予想のPaCO2=35±2mmHg範囲内なので代償範囲内と判断します(下図参照)。これは問題ないですね。

問題なのはこの予想範囲から逸脱する場合です。例えば”実際のPaCO2=20mmHg”であった場合を考えましょう。この実際のPaCO2値は予想のPaCO2よりもかなり低い値である。このことは代償変化だけではなく、さらにPaCO2を下げる病態(つまり呼吸性アルカローシス)が存在することを意味します。つまり、元の代謝性アシドーシスに加えて呼吸性アルカローシスが病態としてあることを意味しています(下図参照 緑の点が血液ガスでの実際値を示しており、代償範囲を超えてPaCO2を下げる病態が背景にあることを意味しています)。

このように必ず代償範囲内なのか?代償を超えた病態が存在するのか?を確認することが必要です。

Step 4: AG(anion gap)の計算

Step4のAGの計算はやや今までの独立しています。重要な点ですが、AGの計算を省いてよい状況はなく、常に計算する必要があります。なぜかというと、AGが上昇している場合は必ずAG開大性代謝性アシドーシスが存在するからです。今まで紹介したStep1, 2, 3で特に異常所見がなかった場合でも必ず計算する必要があるため注意しましょう(ここも血液ガス初学者がよく間違えてしまう点です)。

Step 5: 補正HCO3-の計算

このStepはStep 4でAGが開大している場合にのみ進み、AG正常の場合はStep5は省略します(今までの過程で唯一省略されることがあるStepです)。”実際のHCO3-値+ΔAG値”を計算し、更に合併している病態がないかどうかを確認します。

これまでのstep5つを行うことでどの病態があるかを判定することができます。この説明だけで理解しきることは難しいと思うので、実際に練習問題を解くことで理解をすすめられればと思います。

最後に血液ガス初学者がよく間違えてしまうポイントをまとめます。
・アシデミア、アルカレミアはpHの状態を表す言葉で、アシドーシス、アルカローシスは病態を表す言葉で混ぜない。

・このためアシデミアかつアルカレミアはあり得ないが、アシドーシスかるアルカローシスは病態が共存している状態でありうる(呼吸性アシドーシスと呼吸アルカローシスだけ共存しえない)。

・AGはStep1~3で異常がなくても必ず計算する(AGが開大している=AG開大性アシドーシスがある)。

・代謝性アシドーシスはAG開大性とAG非開大性があり、両方存在している場合もある(これもくどいですが病態なので共存しても良い 例えばDKAかつ下痢は、DKAによりAG開大性代謝性アシドーシスで、下痢でAG非開大性代謝性アシドーシスのように)。

参照:「極論で語る腎臓内科」

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