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組織での酸素消費

前に「組織への酸素供給」を解説したが、今度は「組織の酸素消費」を説明する。酸素を与える側の話が前回で、今回はもらう側の話と思っていただけるとわかりやすいと思う。

「酸素供給が少しでも減ると、組織は酸素不足になるのか?」という疑問にこれから答えていく形で話をすすめる。

いきなり答えを言うと、「酸素供給が減ってもすぐに組織は低酸素とはならない」。これをグラフで確認してみる。下図は横軸が酸素供給量(DO2)、縦軸が組織の酸素消費量(VO2)を表現している。このグラフをみると分かる通り、酸素供給がある程度ある状態のときは、酸素供給が減っても組織の酸素消費量は横ばいのままだ。

ところが、ある限界点(図で線が「かくっ」と傾くところ)に達すると、酸素供給量が減少するにつれて組織の酸素消費量も減少する。つまり、この限界点に達するまでは酸素供給が減っても酸素不足にはならないが、この一線を超えると酸素不足となってしまうのだ。具体的に通常の状態、酸素供給が減少した場合で考える。

0:通常状態

下の図で通常状態での酸素供給、消費を考えてみよう。酸素という荷物(黄色い丸)をヘモグロビンという船(赤い台形)に乗せて組織まで届ける。最初船4隻、荷物がそれぞれ1つずつ乗り計4個届ける状況を考える。組織は通常はこの状況で荷物を1つしか受け取らない。実際には4個届けているがこれは十分な量である。

行きの船は4隻全てに荷物が載っているため、Saturationは100%(これは動脈なのでSaO2=100%)となる。そして帰りの船は荷物を1つ届けて、荷物の数は3個、船の数は変わらず4隻ののため、Saturationは75%(=3/4)となる(これは静脈血なのでSvO2=75%と表現する)。

これを先の酸素供給と酸素消費のグラフでみてみよう。

下図赤丸の部分がこの状態を表している。ここから酸素供給が少し減少しても、予備のある状態に入っており酸素消費量は減少しないことが分かる。
通常状態で体ではこのように必要量よりも多く酸素を供給しており、予備がある。

1:酸素供給が減少した場合(予備ある場合)

次に酸素供給が減少した場合を考える。
下図では出血により船が4隻から3隻に減少した状況を表している(ヘモグロビンが減少した状態)。酸素量は変化がないため、荷物の数は変わらないが、船が少なくなった分船で届けることが出来る荷物は3つになってしまった。

この場合でも組織は酸素を1つしか受け取らない。つまり、まだまだ供給が十分であり予備がある状態なのである。

これを再度先の図で表現すると下図になる。
先ほどよりも酸素供給量は減少したため、赤丸は左にシフトしているが、組織の酸素消費量は減っていないのである。

2:酸素供給が減少した場合(予備がない場合)

先ほどよりもさらに出血により船の数は減少し、2隻となってしまった。これを表現すると下図になる。

この状態を再度グラフで表現する。
これ以上供給が減少すると、組織の酸素消費量も減少する。つまり、組織低酸素の状態となってしまうことがわかる。

ここまで簡単に「組織での酸素供給と消費の関係」に関して解説した。

通常の状態では少し酸素供給が減少したくらいでは、組織は酸素不足にはならない。限界点になると、そこから酸素供給が減少するに応じて組織は酸素不足になる。このようにまとめられる。

この事実を治療にどう生かすか?
酸素供給が減っているが酸素不足ではない状態で輸血をする、酸素投与をするといった行為は意味がないかもしれないし、はたまたそれらの副作用による害のほうが大きい可能性を示唆している。今後輸血、酸素療法のところでこのことを解説していく。