以下の内容は”Neurological Complications of Acute and Chronic Sinusitis. Curr Neurol Neurosci Rep. 2018 Feb 5;18(2):5.”PMID: 29404826.を参照させていただきました。頭部CTを撮影すると副鼻腔炎は偶発的によく認めますが、念のため骨条件で骨破壊などの所見がないかを毎回チェックすることが重要だなと感じました。
・神経合併症をきたしやすい副鼻腔は前頭洞>蝶形骨洞、篩骨洞>>>上顎洞とされています。副鼻腔炎での合併頻度は入院を要する副鼻腔炎患者の3.7%と報告があります。
・感染経路は①静脈(弁がない)を介した逆行性感染,②骨感染の経由が挙げられます。
・副鼻腔炎の起炎菌としてはS. pneumoniae, H.influenzae, M.catarrhalis,その他Streptpcoccus milleri, S.aureus, その他Streptococcus属が挙げられます。嫌気性菌の関与や複数菌の関与も可能性はあります。ただ抗菌薬カバーでは嫌気性菌も含むべきとされています。
病態分類
脳膿瘍
・前頭葉が解剖的に副鼻腔(前頭洞と篩骨洞)に近いため膿瘍形成をきたしやすい。
硬膜下膿瘍 subdural empyema
・前頭洞または篩骨洞が原因
・硬膜下膿瘍の原因最多は副鼻腔炎
・長期予後が不良なのは感染が硬膜下腔をより速やかに波及する機序の関与が想定されている(硬膜外膿瘍は限局するが)
*参考:硬膜下膿瘍まとめ(細菌性髄膜炎全体の2.7% 28/1034例) Neurology 2012;79:2133–2139.
・背景因子:93%, 中耳炎副鼻腔炎 75%
・合併症:意識障害 68%, 巣症状 54%, 難聴 39%, てんかん発作 50%, 血管障害 14%, 脳膿瘍 7%, 水頭症 4%
・髄液所見:細胞数2133/μL, 糖(CSF/血液) 0.04
・血液培養:陽性83%
・培養:S.pneumoniae 93%(26/28), S.pyogenes 3%(1/28), 陰性 3%(1/28)(グラム染色陽性 92%)
・神経後遺症:46%
・硬膜下膿瘍合併がない細菌性髄膜炎との比較(有意差ある項目 硬膜下膿瘍合併 vs 非合併):中耳炎副鼻腔炎の背景 75% vs 31%, 神経学的巣症状 54% vs 20%, てんかん発作 50% vs 10%, 予後不良 68% vs 38%
硬膜外膿瘍
・前頭洞由来が最も多い(前頭洞の後壁の骨髄炎からの感染経路が多い)*前頭洞の前壁の骨髄炎は後述の”Pott’s puffy tumor”である
・副鼻腔炎由来の硬膜外膿瘍患者の60%が前頭洞の骨髄炎を合併と報告
pott’s puffy tumor
・前頭洞の副鼻腔炎から前頭洞前壁の骨髄炎→膿瘍形成に至る病態です。急性経過のこともあれば慢性経過のこともあるとされています。
・前額部の腫脹、頭痛、発熱を呈し、頭蓋内の合併症を60-85%に合併するとされます。
*以下open accessのため図をそのまま掲載。Ball SL, Carrie S. Pott’s puffy tumour: a forgotten diagnosis. BMJ Case Rep. 2015 Sep 29;2015:bcr2015211099. doi: 10.1136/bcr-2015-211099. PMID: 26420694; PMCID: PMC4593294.
髄膜炎
・蝶形骨洞の副鼻腔炎由来が最も多い(>前頭洞、篩骨洞)
脳静脈血栓症(特に海綿静脈洞血栓症)
・副鼻腔炎に合併する脳静脈洞血栓症として最も多い解剖部位が海綿静脈洞であり、上矢状静脈洞やsignoid静脈洞は稀。
・抗菌薬治療に24-48時間以内に反応性がない場合外科的なドレナージ術が必要。
・抗凝固薬が静脈血栓症予防になるかに関してはcontroversialである。
*参考:真菌性副鼻腔炎
病態
①fungal ball:免疫正常者で無症候性・上顎洞>蝶形骨洞に多い・周囲に石灰化を伴う・治療は内視鏡的除去であり抗真菌薬の併用は不要
②アレルギー性副鼻腔炎:Ⅰ型アレルギー反応であり、アトピー患者に認める
③侵襲性真菌性副鼻腔炎:免疫抑制者に認める
治療
1:抗菌薬
・セフトリアキソン+メトロニダゾール±バンコマイシンを推奨としている(ガイドラインはなし)
2:ドレナージ
・外科的ドレナージが必要