東アジア人は白人と比較して血栓症が少なく、出血合併症が多い傾向があり、2012年Jeongがこの現象を”East Asian Paradox”と表現しています。背景には凝固因子(遺伝性のFactor Ⅴ Leidenなど),食事,肥満,炎症など様々な因子の関与が想定されます。我々臨床医が抗血栓薬に関する大規模臨床試験を読む際は「臨床研究の患者背景がアジア人かどうか?」という点が日本人への日常臨床にそのまま適応できるかどうか重要なポイントです。ここでは代表的な論文の内容を元にまとめていきます(Thromb Haemost. 2021 Apr;121(4):422-432.)。今後これらの知見を踏まえてよりアジア人におけるtailored therapyが行われるかもしれません。以下はCaucasianに対して白人という訳語を当てています。徐々に追記していく予定です。
薬物代謝の違い
チエノピリジン系薬剤に関して:CYP2C19
・CYP2C19のloss-of-function alleleを有する割合:東アジア人~65% vs 白人~30%
・*2, *3, *4, *5, *6, *7, *8がAlleleであるが、そのほとんどが*2, *3のalleleの問題
下図:Clin Pharmacol Ther. 2011;89:455-9.より作成
*intermediate metabolizer:*1/*2, *1/*3 *poor metabolizer: *2/*2, *2/*2, *3/*3
CYP2C19 Loss-of function allele | *2 | *3 | Intermediate metabolizer | Poor metabolizer |
白人 | 0.14 | 0.0 | 24% | 2% |
アフリカ系アメリカ人 | 0.18 | 0.008 | 30% | 3.5% |
アジア人 | 0.27 | 0.09 | 46% | 10.0% |
各薬剤のアジア人での薬効(白人との比較) Thromb Haemost. 2021 Apr;121(4):422-432.より作成
P2Y12受容体阻害 | DOAC | ||
クロピドグレル | ↓ | ダビガトラン | ↑ 20~25% |
プラスグレル | ↑↑ 30~47% | リバロキサバン | ↑ 20~25% |
チカグレロル | ↑↑ 40~48% | アピキサバン | – |
エドキサバン | ↓ 20~25% |
虚血は東アジア人で低い
・心筋梗塞は東アジア人で少なく、またPCIステント(DES第1世代)留置後の再狭窄も東アジア人で低い結果
出血は東アジア人で高い
・東アジア人のリスク因子(vs白人):H.pylori感染(50-70% vs 30-50%), 頭蓋内動脈硬化(30-50% vs 15-30%), 出血性梗塞転化(hemorrhagic transformation)
・アスピリンによる脳梗塞2次予防での出血合併症:脳出血 1.0% vs 0.2%/year(東アジア vs 白人)
*心房細動患者DOAC内服での年間脳出血発症率(アジア人 vs 非アジア人)Journal of Stroke 2016;18(2):169-178より引用(free accessのためそのまま引用)

VTE(venous thromboembolism)
人種:AfricanはAsianの約5倍リスクがある
リスク因子:肥満(BMI>30は2倍以上)、凝固因子(FactorⅤ Leiden~10%, prothrombin G20210A ~3% ヨーロッパ *ヨーロッパ以外ではまず認めない)
下図:”Racial differences in venous thromboembolism”J Thromb Haemost 2011; 9: 1877–82.より引用(free accessのためそのまま引用)

参考文献
“The East Asian Paradox: An Updated Position Statement on the Challenges to the Current Antithrombotic Strategy in Patients with Cardiovascular Disease.” Thromb Haemost. 2021 Apr;121(4):422-432. doi: 10.1055/s-0040-1718729. Epub 2020 Nov 10. PMID: 33171520. 最もまとまったreview articleでこのテーマについて読むのであればこの文献が良いと思います