注目キーワード

1人診療科

かなり私事ですが、私(管理人)は2022年4月から300床程度の総合病院で神経内科医(Neurologist)1人で勤務し臨床と教育に従事しています。各科の先生方がとてもよくしてくださるので非常に恵まれた環境で助かっています。数年前から「将来1人で診療できるように」とかなり意識して勉強してきたつもりですが、やはり色々と難しい面を感じており、1年間通じて思ったことを自分への忘備録のようなかたちで書いています。

“責任”と”言い訳”は紙一重である

1人診療科では「自分が責任を持って判断しなければ」という責任感と同時に「まあ1人だからしょうがないよね」という言い訳が常に頭をよぎります。私の弱さを反映しているだけかもしれませんが、この両者は紙一重です。「まあ1人だからしょうがないよね」とあきらめるのは非常に簡単です。ただそうすると患者さんを他院へ紹介する一方で全く実力は尽きません。

かといって難しいのは「1人で患者さんを抱えることがその患者さんにとって結果良い医療になっているのか?」という点です。自身の成長のためには責任を持って診療しきるということが重要ですが、それが本当に患者さんのためになっているか?という視点を持つバランス感覚が極めて難しいです。「俺が診る!」という気概ももちろん必要なのですが、同時に「この診療で本当にBESTなのか?」という謙虚さと不安感を抱えながらの診療をしていくことになります。

周囲に医療機関が全然ないような場所では他院へ紹介することがそもそも難しいのでこの点はそこまで問題にならないかもしれませんが、都心部など医療機関が多数ある場所でこの問題は難しいです。

ラーメン屋

ある町Aでラーメン屋が複数軒あれば最もおいしいラーメン屋さんが人気で混雑し、あまり美味しくないラーメン屋さんはお客さんの足が途絶えがらがらになってしまうでしょう。しかし、もしある町Bでラーメン屋が一軒しかなければその町の人はみなそこのラーメン屋に行きます。例えそこのラーメン屋で提供されるラーメンがさほど美味しくなかったとしても町Bにはラーメン屋がそこしかないので行くしかありません。

何が言いたいのかまとめると、1人診療科だと例え実力がなくとも、フィードバックがないため実力がないことに気が付かないという問題があります。先のラーメン屋さんの例えでいうと町Bでラーメン屋が繫盛していたとしても、それはそこのラーメンが美味しいとは限らず純粋にその町にはそのラーメン店しかないから仕方がない可能性があるということです。

この点に相当自覚的でないと良い診療と勘違いしてしまうことになり、診療が我流で固定化していきます。これは他人からフィードバックが入らないので相当危険です。ここが若手が1人診療科として勤務する際に最も注意しないといけない点であると思います(これは自分に対して書いています)。外の勉強会に参加したり学会で発表したりと必ず他者の眼が入るところで活動を続けることが求められます。

情報のupdateを相当意識する必要がある

大学病院などの大きな病院で雑談をしたりカンファレンスをしていると、能動的に意識せずとも自然に神経領域の新しい話が耳に入ってきます。しかし1人で診療しているとこういった自然と新しい情報が入ってくるということはありません。ここが意外とストレスで、「えっ今ってそうなっているの?」となることが恥ずかしながらしばしばあります。Neurologyは扱う範囲が膨大なのでやはり今の時代1人でNeurology全ての領域をupdateしていくことは不可能と思います。もちろん可能な人もいらっしゃるのだと思いますが、私は自分なりに努力しましたが1人では確実に不可能であるという結論に達しました(ましてやその他の内科領域を同時並行でupdateしていくことは全く持って私には不可能です)。このため少しでも遅れをとらないようにかなり意識的に情報を取りに行く姿勢が求められますし、また情報を共有できる仲間を持つことが重要と感じます。

外部に相談できる人が必要

若いころは全く感じなかったのですが、外部の医師との繋がりが非常に重要です。私はたまたま医局に所属しているので、いままでお世話になった先生に色々と相談させていただくことで日々かなり助かっています。外来で紹介させていただく場合もスムーズですし、簡単にフィードバックを貰うことができます。こういった外部との繋がりなしに1人診療科を完結することは相当実力がないと無理だと思います。こうした意味でも後期研修や初期研修で真面目に働いてさまざまな人脈を構築しておくことは本当に重要だと思います。