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下垂体炎 hypophysitis

免疫チェックポイント阻害薬の登場により注意が必要なのが下垂体炎です。最近下垂体疾患が多くまとめます。

分類

  1. 原発性:リンパ球性下垂体炎
  2. 続発性
    ・薬剤性(免疫チェックポイント阻害薬・IFNα・Ustekinumab, Daclizumab)
    ・自己免疫性(甲状腺疾患・Ⅰ型糖尿病・polyglandular syndrome・原発性胆管性肝硬変)
    ・結合組織疾患(シェーグレン症候群・SLE・その他)
    ・炎症性腸疾患
    ・サルコイドーシス
    ・組織球症(ランゲルハンス細胞組織球症・Erdheim-Chester病)
    ・IgG4関連疾患
    ・血管炎(巨細胞性動脈炎・GPA・その他)
    ・感染性(結核・梅毒)
    ・傍腫瘍症候群(抗Pit-1, 抗ACTH/POMC)

鑑別疾患

・トルコ鞍腫瘍:Craniopharyngiomas(二峰性の年齢<20歳・50-70歳), Germinomas(若年男性・尿崩症→AFP, βhCG), Astrocytomas, Meningioma, その他
・転移性腫瘍(肺・乳がん・前立腺がん・腎がん):下垂体茎単独の腫大を呈することはまれ
・下垂体卒中:こちらを参照
リンパ増殖性疾患:形質細胞腫・リンパ腫 下垂体が初発症状のことあり・脳神経障害多い・尿崩症多い
・急性Sheehan症候群:汎下垂体機能低下(尿崩症なし)・周産期

臨床像

・頭痛(約半数)・視野障害(10-30%*mass effectによる)
・下垂体機能不全:副腎(cortisol, ACTH)・甲状腺(TSH, FT4)・プロラクチン・性腺(LH, FSH, estradiol, testosterone)・IGF-1, 浸透圧(血清・尿)

リンパ球性下垂体炎 lymphocytic hypophysitis

・女性は30歳代妊娠や周産期に多い・男性は40歳代自己免疫性疾患合併が多い
・下垂体前葉障害が多く、尿崩症は少ない
・画像:下垂体腫大+下垂体茎肥厚→進行期はempty sella
自己免疫疾患合併多い
・治療:経過観察(軽症~中等症)・ステロイド(中等症~重症)・ステロイド治療抵抗性の場合は免疫抑制剤・手術・放射線治療・予後比較的良好

肉芽腫性下垂体炎 granulomatous hypophysitis

・原発性下垂体炎の約20%を占める・男女比=1: 2.5・40歳代に多い
・臨床像:リンパ球性下垂体炎と同様だが程度が強く・頭痛の頻度も多い

サルコイドーシス
・サルコイドーシスによる下垂体障害の頻度 <1% *46%(11/24例)は過去にサルコイドーシスの診断がなく下垂体症状が初発症状の場合がある
・他臓器合併:肺 71%, 神経 58%, 眼 31%
・ホルモン:性腺ホルモン障害が最多, 尿崩症は約半数に認める
・MRI:視床下部下垂体と下垂体茎の腫大をほぼ全例で認める

GPA (Granulomatosis with polyangiitis)
・GPAのうち頻度 <1%
・他臓器症状と随伴するが、下垂体障害が初発症状が約半数という報告もある
・若年女性に多く、尿崩症がほぼ認められる

結核

組織球症 Histiocytosis

・病型:LCH(Langerhans cell histocytosis) , ECD(Erdheim-Chester disease)
・LCHの方がECDよりも下垂体障害の頻度は高い
・下垂体後葉を障害しやすく、尿崩症が最も多い初発症状(診断に先行する場合もある)
・ホルモン障害:尿崩症・成長ホルモン障害(最多 15-50%)>性腺ホルモン障害(34%)>副腎不全(15-21%)>甲状腺機能低下症(16-23%)

IgG4関連疾患

・IgG4関連疾患の4-5%を占める
・下垂体炎のみが初発症状:10-30%, 特に女性
・ホルモン障害:前葉障害+尿崩症 20-40%
・血清IgG4 15-25%で正常範囲内

免疫治療関連下垂体炎 immunotherapy-related hypophysitis

・Ipilimumab 8-10%(-17%), Tremelimumab 0-2.6%, Nivolumab 0-3%, Pembrolizumab 0-5%, Nivolmab + Ipilimumab 8-13%
・Ipilimab(抗CTLA-4モノクローナル抗体)治療中の約10%に認めるとされている・腫大は軽度で前葉が主体に障害される

検査

画像所見

ポイント1:下垂体茎の腫大(偏移なし) *下垂体腺腫は通常下垂体茎が偏移する点が異なる
±下垂体腫大:約半数に認める(原発性の下垂体炎) *下垂体腺腫と似る場合もあり生検で診断がつく場合もある
ポイント2:造影増強効果:強く・均一が多い(不均一は少ないがあり)*下垂体卒中は通常不均一(heterogeneous)な造影効果
ポイント3:慢性期は辺縁部がT2WI低信号を呈する(“parasellar T2 dark sign”: 線維化を反映)
・トルコ鞍:障害されない(下垂体腺腫では障害される場合あり)
・その他:下垂体後葉の信号消失 75%・硬膜 “dural tail sign”
*進行すると下垂体は萎縮する・”empty sella”を呈する場合もある
*下垂体後葉は正常でT1WI高信号(神経分泌顆粒を反映)であり、T1WI高信号消失は病的
*画像検査は必ずしも特異的ではないため臨床像と総合しての判断が必要

*文献紹介:”Parasellar T2 Dark Sign on MR Imaging in Patients with Lymphocytic Hypophysitis” American Journal of Neuroradiology Nov 2010, 31 (10) 1944-1950(”parasellar T2 dark sign”を初めて報告した日本からの論文)

患者:リンパ球性下垂体炎20例(生検4例) vs 下垂体腺腫22例(MRI画像所見に関して後ろ向き検討)
・下垂体後葉のT1高信号消失:下垂体炎 85%, 下垂体腺腫 14%
・下垂体茎肥厚:下垂体炎85%, 下垂体腺腫 0% *下垂体炎2例, 下垂体腺腫 4例で下垂体茎が不明瞭
・下垂体左右対称:下垂体炎 85%, 下垂体腺腫 9%
・均一(homogeneous)な造影効果:下垂体炎 65%, 下垂体腺腫 9%
・dural tail:下垂体炎 65%, 下垂体腺腫 77%
“parasellar T2 dark sign”(下垂体周囲や海綿静脈洞内のT2低信号): 下垂体炎 35%, 下垂体腺腫 0% *下垂体炎と下垂体腺腫の鑑別上感度は低いが、特異度は高く有用(ただサルコイドーシス、リンパ腫、Tolosa-Hunt症候群などは同じような所見を呈する可能性あり注意)
*炎症による線維化を反映している可能性があり、病初期には認めない可能性もある

採血検査など

・採血検査:IgG4, ANCA, ANA, LDH, β2ミクログロブリン, AFP(α-fetoprotein), hCG, IGRA
・髄液検査:細胞診・フローサイトメトリー・培養(これらを疑う場合)
・FDG-PET:サルコイドーシス・結核・GPA・腫瘍・IgG4関連疾患などの全身病変検索に有用

生検は必要か?

・目的:組織型の同定+他疾患(腫瘍など)の除外
・明確な生検の適応基準はなし

治療

・背景疾患がある場合は準じる
・原発性の場合:ステロイド投与もしくは経過観察(自然と改善する場合もある) *前向き臨床研究ないためステロイドが改善を促進するのかどうか?は分かっていない
*mass effectなどがある場合は初期からステロイド投与または生検などを考慮するべき
・経過観察中は定期的な画像フォローとホルモン・その他の臓器症状(サルコイドーシス, LCH, IgG4関連疾患などを示唆する所見)フォローアップが必要
・ステロイド投与の際の適切な投与量や期間は定まっていない

参考文献
・The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 2022, Vol. 107, No. 1, 10–28 素晴らしいreview・写真は全てこの論文から引用