注目キーワード

Zoster paresis 帯状疱疹後運動障害

皮疹の髄節範囲を超えた運動障害を呈する”zoster paresis”は存在するのか?という臨床疑問から調べています。まだまとまっておらず論文を読んだものの羅列になってしまい恐縮ですが少しずつまとめていきます。

臨床像・病態

・帯状疱疹患者さんが「皮疹出現後、多くの場合PHN(post-herpetic neuralgia)を伴う有痛性の皮疹と同じ髄節での運動障害を呈する」ことが典型的な臨床像 *”acute painful motor weakness of limbs”の鑑別に入れるべき
・帯状疱疹ウイルスは後根神経節dorsal root ganglion(または脳神経節)に潜伏・存在するが、どのように運動神経へ波及するか?(脊髄内?神経を直接乗り越える?CSFを超える?神経根部で波及?)に関しての病態はまだ不明
・頻度としてはまれであり、0.57%という報告もある(BMC Neurology2018; 18:121.)
・Ramsay-Hunt症候群もこの範疇に含まれ、同病態が最も頻度としては多い
・上肢の場合はC5-7髄節障害が多いとされている
・胸髄領域の場合は運動障害が目立ちにくいが、腹部の膨隆で腹壁ヘルニアと間違われるような症例も報告されている
・障害部位と対応する臨床症状は下図参照(Pain Physician 2021; 24:253-261)


・帯状疱疹患者さんのうち「どのような人が運動障害を合併しやすいか?」というリスク因子はまだ同定されていません

検査・診断

・特異的なbiomarkerが存在する訳ではない
・障害を臨床的+電気生理的(神経伝導検査+針筋電図検査)±画像的(MRI検査)に評価する *直接的な証明はできないが
・提唱さえているまたは確立した診断基準は存在しない

→上述の通り特異的なbiomarkerが存在しないため、現実的には帯状疱疹後にdermatomeと同じ髄節領域に運動障害を随伴する+他疾患の除外になると思います

治療

・Zoster paresisに関して確立した治療方法なし

機能予後

・報告上はself-limitedであり、比較的予後は良好とされ、1~2年単位で緩徐に改善していく報告が多い

参考文献
・Pain Physician 2021; 24:253-261 最も秀逸かつcomprehensiveなzoster paresisに関するreview

*zoster paresisに管理などに関するguidelineは存在しない

文献紹介

■帯状疱疹158例前向きの臨床電気生理検討 Arch Physi Medici Rehabil 2002;83(9):1215-1221

帯状疱疹158例の前向きケースシリーズで神経合併症を臨床と電気生理学的に検討(胸髄領域, S2-4領域とC2-4, L1,L2は神経伝導検査で評価困難であるため除外されている)
患者背景:平均64歳
部位:頭部36%(n=57), 上肢30%(n=47), 下肢34%(n=54)
皮疹のdermatome:1領域 40.5%, 2領域 39%, 3領域 18%
最も多いdermatome:頭部はV1領域 45/57例, 上肢最多はC6 20/47例, 下肢最多はL4 24/54例
神経合併症:PHN 31%, segmental zoster paresis 19%, polyneuropathy 2.5%

zoster paresisに関して 19%(n=26) *これは臨床的に認めたもの(臨床的には認めず電気生理のみでsubclinicalに認めたものは17%あり、全てあわせると17%+19%=36%)
麻痺が皮疹のdermatome領域を超えた広がり:35%(9/26例)
皮疹→運動障害までの期間:平均13日(0-60日) *50%以上の症例で皮疹出現から1週間以内に運動麻痺が出現 *運動障害が皮疹に先行した例は全くない
重症度:完全麻痺 n=6, 重度 n=9, 中等度 n=11
改善(部分もしくは完全): 55%
運動障害は感覚障害の程度と相関し、皮疹の範囲とは相関しない結果

下図が電気生理で指標にした髄節との対応関係

結果のまとめ


■Zoster associated limb paresisの49例臨床電気画像所見まとめ Muscle Nerve 50: 177–185, 2014

Mayo clinicの49例まとめ
患者背景:発症71歳、男性67%
障害部位:上肢45%, 下肢55%
皮疹から麻痺までの期間:平均5.8日
postherpetic neuralgia発症:1か月後92%, 3か月後65%
背景疾患:糖尿病22%, 免疫不全12%
病態:radiulopathy 37%, plexopathy 41%, mononeuropathy 14%, radiculoplexus neuropathy 8%
髄液検査(7例実施・皮疹から平均95日後):タンパク6例上昇平均97.1mg/dL 26-208mg/dL, 細胞数2例上昇(38/μL, 508/μL*いずれも単核球優位)、VZV-PCR+5/6例陽性
電気生理:節前性(限局)37%, 節後性(限局)55%, 混在 8%
*上肢22例:前角~神経根 2/22(9%), 神経叢 13/22(59%), 末梢神経 4/22(18%)
*下肢27例:前角~神経根 16/27 59%,
画像:MRI所見 64%(9/14例) 神経肥大9/9例、T2高信号6/9例、Gd造影効果1/9例
*節前性に限局した病変:脊髄などの画像異常0%(0/12例)

下図は病巣が神経節より「近位の病変(神経根や前角)か?: preganglionic」「遠位の病変(神経叢や末梢神経)か?: postganglionic」によって比較検討したものになります。注目するべき点は以下の点です。
上肢障害:近位11% vs 遠位65% *
下肢障害:近位89% vs 遠位35% *
皮疹→運動症状までの期間平均:近位1.7日 vs 遠位11.6日 *

特徴まとめ:重症度は中等度・長期間・PHN随伴が極めて多い

Clinial Question

皮疹の髄節を超えた運動障害を呈する場合があるのはなぜか?

・確かに既報でもこのような皮疹の髄節を超えた運動障害を呈する症例が報告されており、このような病態も存在するのだと思います。ただどのように波及するのか?が気になるところです。考察していきたいです。

・同一高位の前角でも複数の筋肉を支配している可能性はどうか?