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PNES: psychogenic non-epileptic seizures 心因性非てんかん性発作

PNESはややハザマの分野になってしまい、上手くmanagementすることが極めて難しい病態です。先日も難渋する症例があり改めてまとめます。

背景・病態

・まず「本人は決してわざと行っている訳ではなく、患者さん自身は困っている」という点がポイントです。この点で詐病(意図的に病気を演じている)とは全くなる点に注意が必要です。かつては「偽発作(pseudoseizure)」という言葉がありましたが、この言葉は「意図的に演じている」という意味にとらえられかねないため使われなくなってきています。このためPNES(psychogenic non-epileptic seizures 心因性非てんかん性発作)という表現に落ち着いた経緯があります。この点を医療従事者は十分に理解していないと、患者さんのケアに多大な支障をきたします。

・多くの場合患者さんには過去に幼少期の虐待、暴力、PTSDなどの心理的ストレスの背景があり、転換性障害の一種としててんかん発作と似た症状を呈する(過度なストレスに対する防衛反応)ということがポイントです。そしてこれは脳の異常電気活動に由来するものではありません。ただ厳密な神経経路や病態は解明されていません。

臨床像

救急外来を受診した場合などに最も非専門医にとっても気になることは「どんな症状であればPNESらしいのか?」という点です。参考:Epilepsia, 54(11):2005–2018, 2013

PNESらしい臨床像

発作時間が長い:通常の発作は2分程度で自然頓挫することが多いですが、10分以上ずっと持続する場合
発作時閉眼状態:他動的に開眼させようとすると抵抗する
左右非同期の動き:通常脳細胞の異常興奮に由来する症状は電気的に同期するはずです。これが非同期でバラバラの場合はPNESを疑います
発作様式が毎回異なる:これも発作(seizurez)は通常同じ焦点由来とすると、毎回同じ発作形式を呈します。(例外:焦点が複数ある場合は確かに発作様式が異なる場合もあります)
腰を前に突き出すような動き/頭や体を左右にゆるような動き:これも通常の発作では認めない動きです
発作中に泣く
発作中の記憶が保たれている
発作後のpostictal stateがない:(例外:前頭葉由来の発作)

抗てんかん薬が全く効果がない:逆に増量により発作頻度が増悪する場合もあります

*上記所見を1つ認めるからといって即PNESとはならない点に注意が必要です(単一の所見をもって十分な特異度を有するものではない)。

PNESらしくない臨床像

夜間就寝中の発作:これはPNESでは原則的に認めません
発作後に深いいびき様の努力呼吸:真のGTCSでは混合性アシドーシスを呈し、その後補正するために代償性に過換気になります。この際に意識障害を伴うと舌根が落ちて気道抵抗が高まり、そこに大きな換気が入るため「ごーごー」と大きないびき様の努力様呼吸を呈します。PNESではこれらを認めず静かな呼吸が持続します。

診断:臨床像+ビデオ脳波

・臨床像だけからPNESと診断することは出来ず、また逆に脳波所見だけをもってPNESと診断することもできません。必ず臨床所見+脳波の2つにより診断する必要があります(片手落ちにならないように)。
・前者に関してはある単独の臨床像だけをもって診断できません。例えば発作後のpostictal stateがないことは前頭葉てんかんではまま認める場合があります。あくまで複数の臨床像を総合して判断する必要があります。
・また脳波所見も深部電極ではない頭皮上電極の脳波ではやはり限界があるため、脳波所見単独でも診断はできない点に注意が必要です。
・発作時は筋電図が混入するため脳波所見は判断しづらいですが、デジタル脳波計ではDSAがついているとそこでα帯域の周波数が持続しているか?が参考になります(音成先生の教科書から勉強させていただきました)。
・またよりややこしい点としては本当のてんかんとPNESが合併する場合もあります。このため安易に全てをPNESと片付けてしまうことには常に注意する姿勢が求められます。

治療

私自身がPNESの治療を主導したことは恥ずかしながらありません。疑い診断をつけて導くというところまでしかできていません。今まで色々なDrの話をききましたが、PNESのフォローは非常に多職種の協力を必要とする+長期間のフォローが必要になります。

精神療法

この点は私が主導できたことはないため具体的な内容は省略させていただきますが、既報でも精神療法がやはり治療のkeyとなることは間違いないと思われます。

抗てんかん薬は中止する

PNESの患者さんは多くの場合過去にてんかんの診断が間違ってついており(実際にてんかんを合併している場合もあるのですが・・)、抗てんかん薬を多く処方されている場合があります。ただ抗てんかん薬継続は予後悪化に関しても報告があり(Epilepsy Behav 2021; 120:108004.)抗てんかん薬を原則中止することが重要です。

まだ記載途中ですが、今後もupdateしていければと思います。是非経験豊富な先生からご意見うかがいたいところです。

参考資料
・心因性非てんかん性発作へのアプローチ 監訳:兼本浩祐先生、訳:谷口豪先生
・谷口 豪先生のご講演内容