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リンパ節の診察

リンパ節の触診は内科医にとって必須のphysical examinationです。これも本によって書いてあることがまちまちなので、混乱を招く要因になっている気もしますがまとめたいと思います。

頸部リンパ節

頸部リンパ節は沢山名前があってややこしいですが、まずは大雑把に胸鎖乳突筋の前/後で分類すると分かりやすいです。ざっくりと胸鎖乳突筋の前(前頸部リンパ節)は咽頭や顔面を、胸鎖乳突筋の後(後頚部リンパ節)は全身性の病態を反映しています。

前頸部リンパ節

・意義:咽頭・口腔~顔面からのリンパ還流を受ける部位であり、咽頭炎などで最もリンパ節腫脹を認めやすい部位
・分類
1:浅頸部リンパ節:胸鎖乳突筋の表層に位置するリンパ節
・触診の方法:そのまま表面から触れればよいため診察は容易
2:深頸部リンパ節:胸鎖乳突筋の裏に位置するリンパ節
・触診の方法:診察する方向(側)へ頸部を回旋してもらう(または頭部を側屈してもらう)ことで、胸鎖乳突筋裏の皮膚が緩むようにすることで検者の指が入れやすく・リンパ節を触れやすくなる(下図)
3:その他
耳介前・後リンパ節:耳介前リンパ節は眼からの還流があり、結膜炎などで腫大する
扁桃リンパ節:下顎角直下に位置して、扁桃炎で腫大する
顎下リンパ節、オトガイ下部リンパ節:口腔内からのリンパ還流を受けるため、歯肉炎・齲歯などで腫大する
*患者さんに顎を引いてもらうと皮膚がたわむため触診しやすくなる

後頸部リンパ節

・意義:全身性の疾患を示唆する所見であり、同じ頸部リンパ節であっても前頸部リンパ節腫大(=局所感染を示唆)と分けて考える必要がある
・解剖:僧帽筋~胸鎖乳突筋~鎖骨により形成される後頸三角に位置する
・原因:伝染性単核球症(圧痛の程度はまちまちで激痛ということは少ない・こちらを参照)、菊池病(ほとんどの場合は激痛)、結核、HIV感染症、梅毒、サルコイドーシス、腫瘍など原因は様々
・触診の方法:そのまま

鎖骨上リンパ節

原因:腹腔内腫瘍、胸腔内疾患に由来する場合(リンパ還流)があるため注意(Virchowリンパ節転移)

腋窩リンパ節

原因:乳がん、悪性腫瘍のリンパ節転移、リンパ腫、上肢の感染症(猫ひっかき病、tularemia、sporotrichosis)、上肢の外傷
触れ方:さらっと触れるのではなく、かなり腋窩の奥まで検者の指を潜り込ませます。腋窩の解剖(前方・外側上腕側・内側胸壁側・後方)を意識しながら、もぐりこませるようにして触診します。

滑車上リンパ節

部位:上腕内果の直上(尺側)のリンパ節腫大(5mm以上を有意と判断)
原因:リンパ腫、メラノーマ、前腕の感染症、梅毒、サルコイドーシス
*情けない話ですが私は蜂窩織炎などでいつも触れようとしていますが、まだ同部位のリンパ節をきちんと触れたことがありません・・・。触れたことがある方コメントいただけますと嬉しいです。

鼠径リンパ節

部位と分類(2cm以上を有意と判断)
1:horizontal node group(鼠径靭帯部):陰部からの還流 原因:STD
2:vertical node group(大腿内側):下肢からの還流 原因:下肢感染症

*lymphomaは鼠径リンパ節腫大をきたしにくい(Cancer. 1993; 71(6): 2062-2071.)

その他のリンパ節

縦隔リンパ節、腹腔内リンパ節、骨盤内リンパ節などは体表上触知することは出来ません。特に不明熱診療などではこれらのリンパ節も重要なので、ここは画像検査に頼らざるを得ないところです。
・この際も「ここのリンパ節は体表上どうしても診察できないから、画像検査をするんだ!」という検査前の臨床的なlogicが重要と思います。同じ造影CTのオーダーやガリウムシンチやPETCTのオーダーでもこのlogicがあるか、ないか?により臨床医の力量が問われます。

リンパ節腫大の原因

“MIAMI”  Am Fam Physician 2002;66:2103-10. より引用

Malignancies:Kaposi sarcoma、白血病、リンパ腫、転移、皮膚腫瘍
Infections
細菌性:ブルセラ、猫ひっかき病(Bartonella)、皮膚軟部組織感染症、lymphogranuloma venereum、梅毒、結核、tularemia、typhoid fever
肉芽腫:berylliosis, coccidioidomycosis, クリプトコッカス、ヒストプラズマ症、silicosis
ウイルス性:アデノウイルス、CMV、肝炎ウイルス、帯状疱疹、HIV、伝染性単核球症、風疹
その他:真菌、寄生虫、ライム病、リケッチア、疥癬、トキソプラズマ症
Autoimmune disorders:皮膚筋炎、関節リウマチ、シェーグレン症候群、成人発症スティル病、SLE
Miscellaneous/unusual conditions:Castleman病、組織球症、川崎病、菊池病、木村病、サルコイドーシス
Iatrogenic causes:薬剤性、血清病
*薬剤性の原因:アロプリノール、アテノロール、カプトプリル、カルバマゼピン、ヒドララジン、ペニシリン、フェニトイン、プリミドン、キニジン、ST合剤、Sulindax, Pyrimethamine

参考文献
・Am Fam Physician 2002;66:2103-10. Am Fam Physician. 2016;94(11):896-903.→いずれもリンパ節腫大に関する素晴らしいreviewで是非読みたい