注目キーワード

肺の聴診

前回心臓の聴診に関しての記事をupしましたが、肺の聴診に関してもCOVID19の影響で発熱患者さんの診療で自分の聴診器が持ち込めなくなる関係もあり、聴診技術を向上させる機会が減少しているように感じます。呼吸器のphysical examinationを初期研修のうちにきちんと身に付けておくことが呼吸器科をローテートする際に最も重要と思います。耳学問が多いですが、勉強した内容を簡単にまとめたいと思います。これも心臓の聴診と同様ですが、改めて身体所見の本を手にとってみるとかなり本によって記載が異なるところがありますのでご容赦ください。

聴診にあたり必要となる解剖知識

■体表上でメルクマールとなる解剖構造
胸骨角(angle of Louis:ルイス角):同部位に第2肋骨が付着する(その下が第2肋間)・椎体高位Th4/5前後(同部位は気管分岐部の高さに該当)*最重要
肩甲骨下端:椎体高位Th8前後

■肺底部はどこまであるか?(吸気と呼気で変動あるが)
・肺前面:剣状突起(だいたい第6肋骨の高さに該当)の高さ
・肺後面:椎体高位Th10前後

どこで聴診するか?

・一般的には以下の前面8か所・後面8か所(=計16か所)を聴診するとされています。しかし、実際には毎回これを行うことは時間的にも難しい場合もあるため特に聴診したい部位にしぼっておこなうこともあります(私も毎回この16か所を聴診している訳ではまったくありません)。
・聴診器は通常「膜型」を使用し、しっかりと胸壁に押し当てて患者さんの協力が得られる場合は「深呼吸」をしてもらうことが極めて重要です(通常の呼吸では異常音を検出できず、深呼吸ではじめて異常音を検出できる場合が多々あります)。深呼吸もできるだけ「口呼吸」でやってもらいます。

■前面:8か所
・頸部(左右):気管呼吸音を聴取します・上気道狭窄を示唆するstridorの聴取などが目的です
・胸骨角周囲(左右):ここは気管分岐部に該当し気管支呼吸音を聴取します
・第4-5肋間周囲(左右):右肺は中葉、左肺は舌区に該当するため気管支拡張症や肺MAC症などで特に重要な聴診部位です
・肺底部前面(左右):肺胞呼吸音を聴取します・

■後面:8か所
・上2か所・左右):肩甲骨と椎体棘突起の間部分を聴診します・肺の上葉に該当します
・肺底部(左右):間質性肺炎や無気肺などを認める部位としてとても聴診上重要です・臥位の患者さんでも側臥位にするか聴診器を潜り込ませるようにして必ず聴取します

肺音の分類

A:呼吸音

1:正常呼吸音の分類
・気管呼吸音(tracheal sounds) 高い音 吸気:呼気=1:1 頸部で聴取・高音でざーざーと荒々しい音(個人的にはStarWarsのダースベイダーの呼吸音に似ていると思います)
・気管支呼吸音(bronchial sounds) 吸気:呼気=2:1 胸骨角の周囲で聴取
・肺胞呼吸音(vesicular sounds) 吸気:呼気=3:1 上記以外の部位(=末梢肺野)で聴取 *呼気ではほとんど聴取されないことがポイント 吸気努力を強めることで聴取可能 *肺胞呼吸音は「肺胞」で生じた音ではない点に注意

2:異常呼吸音:減弱、消失、呼気延長、気管支呼吸音化
*「肺胞呼吸音の気管支呼吸音化」:肺炎や無気肺などによって、音の減衰が小さくなることによって本来は肺胞呼吸音を聴取するはずの部位で気管支呼吸音が聴こえる現象→特に本来肺胞呼吸音は呼気ではほとんど聴取されないはずが、呼気で高音が聴取される点がポイント

B:副雑音 adventitious sounds

1:ラ音 肺内病変由来の音
1.1:断続性ラ音 discontinuous sounds
coarse crackles:気道内分泌物の破裂する音
*early(気道中枢での炎症), early to mid(気道病変・肺炎回復期), late(間質性肺炎、間質性肺水腫の初期), holo (or pan)(肺炎急性期・肺胞性肺水腫)とcracklesが聴取できる時間帯を表現します

fine crackles:含気不良や気道閉塞が吸気で急速に開く(再開通する)ことによって生じる音

1.2:連続性ラ音 continuous sounds
wheezes:狭窄した細くて硬い気道壁の振動により生じる高調な音で、呼気によく認めます(かならず強制呼気で聴取されるかを確認する・wheezesはJohnson分類が有名)。原因は喘息だけではなく、心不全でもよく聴取されます(間質浮腫による気道抵抗上昇が機序として推定)。
*喘息では最初は強制呼気の終末のみ、その後悪化するにつれて呼気→吸気でも聴取されるようになりますが、最重症ではそもそも換気不全になりwheezesを聴取しない”silent chest”を呈することに注意が必要です。
*参考:Johnson分類
0度:聴取しない、Ⅰ度:強制呼気で聴取、Ⅱ度:通常呼気で聴取、Ⅲ度:吸気呼気いずれも聴取、Ⅳ度:silent chest(呼吸音減弱)

rhonchi気道内の粘稠な分泌物の振動により生じる低音の音です。原因は喀痰貯留により生じる場合が多いです。体位や排痰後に音が変化することが特徴です(触診で触れる場合は“rattling”と表現する)

squawk:狭窄もしくは軽度閉塞した細い末梢気道壁が振動することで生じ、吸気終末期に認めます。

stridor:上気道狭窄や閉塞での緊急性の高い音です

2:その他 胸膜摩擦音

参考文献
・「読む肺音 視る肺音」 著:岡三喜男先生
・杏林大学病院呼吸器内科皿谷先生のレクチャー