現在「不明熱+典型的な比較的徐脈+頭痛の20歳代男性、動物接触歴あり」の症例で悩んでいます。改めて”relative bradycardia”に関して学び直した内容をまとめたいと思います。教科書によって書かれている内容がまちまちで混乱するので、今回の記事はあえて完全に原著文献basedの記載にしたいと思います。以下は全てCunha先生の”The diagnostic significance of relative bradycardia in infectious disease”Clin Microbiol Infect. 2000 Dec;6(12):633-4. より引用しています。
原因
■感染症:レジオネラ症・オウム病・Q熱・チフス・腸チフス・バベシア症・マラリア・レプトスピラ・黄熱病・デング熱・ウイルス性出血熱・RMSF(Rocky Moutain Spotted fever)
■非感染症:β遮断薬・中枢神経病変・リンパ腫・詐病による熱・薬剤熱
*Cunha先生のコメント
・Mycoplasmaは既報(J Infect. 1996 Nov;33(3):185-91.)で比較的徐脈を相関関係なしとされている(この研究ではグラム陰性の細胞内寄生菌のみが比較的徐脈を呈するとされている)
・Cunha先生はLegionellaは比較的徐脈を呈する点がMycoplasmとの相違点と指摘している
・Brucella(ブルセラ症)はrelative bradycardiaを呈さない 以下の文章は本文より引用:”Brucella is an intracellular Gram-negative organism but is not associated with relative bradycardia.”
*参考:ハリソン内科学(第20版)のChapter115″Approach to the patient with an infectious disease”のrelative bradycardiaの原因一覧(Table 115-1)は以下の通り
■感染症
1:細胞内寄生菌
・グラム陰性菌:Salmonella typhi, Francisella tularensis, Brucella, Coxiella burnetii, Leptospira interrogans, Legionella pneumophila, Mycoplasma pneumoniae
・ダニ媒介:リケッチア・ツツガムシ病・バベシア
・その他:ジフテリア・マラリア
2:ウイルス 黄熱病・デング熱・ウイルス性出血熱・ウイルス性心筋炎
■非感染症
・薬剤熱・β遮断薬・中枢神経病変・悪性リンパ腫・詐病熱
*ちなみにハリソン内科学のChapter154″Legionella infections”では”Relative bradycardia has been overemphasized as a useful diagnostic finding; it occurs primarily in older patients with severe pneumonia.”と記載があり、Cunha先生の主張とは異なった記載になっています。
*ちなみにちなみにハリソン内科学のBrucella症のChapterには”relative bradycardia”に関する記載はありません。
定義
・以下を満たす 1:成人13歳以上、2:38.9度以上、3:心拍数と体温が同時に測定されている
・以下を除外 1:洞調律(徐脈性不整脈などなし)、2:β遮断薬内服なし
・通常の対応関係 41.1度: 150/分 40.6度: 140/分 40.0度: 130/分 39.4度: 120/分 38.9度:120/分 38.3度: 110/分 →この関係を逸脱した場合に比較的徐脈と判断する
*Cunha先生のコメント
・比較的徐脈の概念は102°F(摂氏38.9°以上)でのみ適応されるべき(それ未満の体温では相関関係不十分)
(以下管理人の思った点)
・さらっとMycoplasmaは比較的徐脈を呈すると教科書には書かれていますが(私も今までそうだとずっと思っていました)、ここではバシッと否定されていて驚きました・・・。
・ブルセラ症も比較的徐脈と習った記憶がありましたが(自験例はないです)、Cunha先生はバシッと否定されています。これも驚きました。ハリソン内科学の記載とは解離がありすね・・・超大物同士でも見解が分かれるところなんですね・・・。
皆様はrelative bradycardiaに関して日常臨床でどのように利用されているもしくは感じていますか?