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CMV感染後のギラン・バレー症候群

ギランバレー症候群一般に関してはこちらにまとめがあるためご参照ください。Campyrobacter jejuni感染後は抗GM1抗体は分子相同性の機序によって末梢神経障害を引き起こす機序が推定されています。抗GM2抗体(IgM)がCMV感染後GBSで患者の血清から認めることは有名ですが、これが本当にpathogenic(病原性があるのか?)は証明されていません。その経緯をみていきたいと思います。

CMV感染による直接的な多発神経根症もありますが、これは通常免疫抑制状態(特にAIDS)で問題となるためここでは取り上げません(こちらに多発神経根症とCMV神経根炎に関しての記載があるためご参照ください)。

臨床像

CMV感染後GBSの特徴に関して NEUROLOGY 1996;47:668-673

・CMV感染後GBS 20例、C.jejuni感染後GBS 43例、その他GBS 71例
・臨床的な特徴としては若年・呼吸筋障害を併発しやすい・脳神経麻痺合併が多い(45→80%)・重度の感覚障害を呈しやすいといった点が挙げられます。
・以下はCMV vs C.jejuni vs その他 で記載しています
・年齢:36歳 vs 51歳 vs 48歳
脳神経麻痺:45→85% vs 40→49% vs 52→65%(初診時→経過中)
・人工呼吸器管理:65% vs 44% vs 37%
・症状がnadirまで達する日数:10日 vs 7日 vs 8日
・感覚障害に関して下図

ステロイド有効例の報告 臨床神経 2015;55:339

・こちらの文献内にステロイド治療に反応性があったCMV感染後のギランバレー症候群例がまとめられたtableがあります。通常ギランバレー症候群に対してステロイド治療は無効ということが知られていますが(ギランバレー症候群の治療に関してはこちらをご参照ください)、このような一群がいることは注目に値します。

→このCMV後ギランバレー症候群のステロイド反応性に関しては私も耳学問で良く大学病院に勤務していたときに聞いていました。まだこの点に関してのまとまった研究は私は見つけられませんでしたが、今後気になるところです。

抗GM2抗体に関して

■CMV感染とギランバレー症候群・抗GM2抗体に関して JNNP 1997;62:641-643

■CMV感染後のギランバレー症候群に関して Clinical Infectious Diseases 2011;52(7):837–844

・ギランバレー症候群を前向きに506例調査。12.4%(63/506例)がCMV-GBSと判断(CMV-IgM +, CMV-IgG -から判断)。
*臨床像
・年齢32歳(18-66歳)
・男女比 M/F=0.85 vs その他の原因GBS 1.41 *P<0.001
・CMV DNA(血漿)62%(36/58例)
・感覚障害(なんでも):CMV-GBS 72% vs その他の原因-GBS 59.7% P=0.090
顔面神経麻痺:CMV-GBS 49% vs その他の原因-GBS 24.9% *P<0.001
・球症状:CMV-GBS 30% vs その他の原因-GBS 19.5% *P=0.09
肝逸脱酵素上昇:CMV-GBS 51% vs その他の原因-GBS 11.6% *P<0.001
・抗GM2-IgM:CMV-GBS 29%(14/48例)、その他の原因-GBS 0%(0/296例) *P<0.001
*神経学的症候を呈さなかった純粋なCMV感染では53%(9/17例)に抗GM2-IgMを認めた

・CMV初感染後のGBS発症は0.6-2.2/1000例(参考:Campyrobacter jejuni感染後GBSの発症率は0.25-0.65/1000例)

→この結果からは神経症候を合併しないCMV感染でも抗GM2-IgM抗体は検出されることから、必ずしも抗GM2-IgM抗体がpathogenic(病原性がある)とは言い切れない(つまりただ感染で検出されるだけであって、神経症候との対応関係はない)ことが分かります。

抗Moesin抗体に関して

■抗moesin抗体とCMV感染後AIDPに関して ”Moesin is a possible target molecule for cytomegalovirus-related Guillain-Barré syndrome”  Neurology ® 2014;83:113–117

・AMANはCampyrobacter jejuni感染後の抗GM1抗体の様に標的分子(糖蛋白)が同定されてきているが、AIDPに関して標的分枝の同定は未でありそれを評価することが目的。
・GBS40例、他の炎症性疾患31例(CMV感染で神経合併症なし5例、CIDP16例、MS10例)、正常コントロール46例
・結果
 GBS全体:17.5%(7/40例)
 CMV(+)AIDP:83%(5/6例)
 CMV(+)のみ(GBSなし):0%(0/5例) *その他の炎症性疾患でも全て認めず(ここが上記抗GM2-IgM抗体と違う点!!)
 コントロール群での抗moesin抗体陽性率:4%(2/46)

■抗moesin抗体陽性のサイトメガロウイルス感の症例報告 臨床神経 2018;58:385

Ranvier絞輪部のERM(Ezrin, Radixin, Moesin)のうちモエシンに対する抗体を認めたと報告があります。抗moesin抗体のpassive tansferによる病原性の確認は未なので、まだどこまで病原性がある抗体なのか?ただのepiphenomenonなのか?はまだ分かっていないようですが、気になります。

今までのことをまとめると、やはり抗GM2-IgM抗体に関してCMV-GBSにとって病原性があるとはいえず(純粋にCMV感染で誘導される抗体)、新規にこの抗moesin抗体が病原性のある抗体の可能性として脚光を浴びているといえるかと思います。今後の研究結果が気になります。