注目キーワード

腹部大動脈瘤 AAA: abdominal aortic aneurysms

NEJMから腹部大動脈瘤 AAA: abdominal aortic aneurysmsのマネージメントに関してのreviewが出たため、読んだ内容をまとめたいと思います(N Engl J Med 2021;385:1690-8. 一部昔のAAAに関するNEJMのreviewからも引用します N Engl J Med 2014; 371:2101-2108)。

疫学・リスク因子

大動脈瘤:3cm以上と定義(最大短径で測定)
*AAAは「横隔膜下~総腸骨動脈」の領域 
分類・suprarenal ・pararenal ・infrarenal:95%(最多)
・疫学:50-84歳:1.4%に認める(アメリカ)

■大動脈瘤形成のリスク因子:高齢・男性・家族歴・喫煙歴・脂質異常症・高血圧 *糖尿病はリスクではない
■破裂のリスク因子:大きさ
*大きさ5.0-5.9cm:破裂リスク 男性1%/年・女性3.9%/年
*大きさ6,0cm-:破裂リスク 男性14.1%/年・女性22.3%/年

*参考: N Engl J Med 2014; 371:2101-2108 で紹介されている破裂リスク
-5.5cm:1.0%/年、5.5-5.9cm:9.4%/年、6.0-6.9cm:10.2%/年、7.0cm-:32.5%/年

どのタイミングで手術をするか?

■基準男性:5.5cm、女性:5.0cm *無症候性が前提条件
・5.5cm未満での予防手術 vs 経過観察の前向き研究は、手術の方が成績良くなることを示せなかったため、5.5cm未満は定期的なフォローアップの推奨となっている
*注意点
急速に動脈瘤が拡大するケース(Δ1cm/年=Δ0.5cm/6か月)に関してはデータ不足である点に注意
・5.5cmの根拠となる文献はほとんど西洋男性からのデータである点に注意
・女性は元々の大動脈径が小さいことなどから5.0cmを閾値とすることが推奨されている(また同じ瘤径の場合女性の方が破裂率が高い)
・その他感染性の大動脈瘤は瘤径に関わらず破裂リスクが高いため手術適応になる

*基準未満の大きさでのフォローアップに関して
・大きさ3.0-3.9cmの場合:エコー検査3年おきにフォローアップ
・大きさ4.0-4.9cmの場合:エコー検査1年おきフォローアップ
・大きさ5.0cm-の場合:エコー検査6か月おきフォローアップ

薬剤療法(スタチン、β遮断薬、その他降圧薬)での大動脈瘤の増大抑制効果は証明されていない。このため大動脈瘤増大を防ぐ目的に使用することはない。禁煙が特に重要。

*参考:2020 年改訂版「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」日本循環器学会 / 日本心臓血管外科学会 / 日本胸部外科学会 / 日本血管外科学会合同ガイドラインより以下引用引用
「腹部大動脈瘤の内科治療とフォローアップの推奨とエビデンスレベル」 (推奨クラス・エビデンスレベル)
・禁煙を指導する Ⅰ A
・小径(< 40 mm)の瘤に対し腹部エコー法によりフォローアップする Ⅰ B
・収縮期血圧 130/80 mmHg 未満を目標とした厳格な血圧管理を行う Ⅰ C
・CT または腹部エコー法によるフォローアップを以下のように行う Ⅰ B
  最大短径50~55 mm未満では3~6ヵ月ごと
  最大短径 40~50 mm 未満では 6~12ヵ月ごと
  最大短径 30~40 mm 未満では 1~2年ごと
・フ ォ ロ ー ア ッ プ 時 に 瘤 径 拡 大 速 度 ≧5 mm/ 半年を認める場合に侵襲的治療を考慮する Ⅱa C

「非破裂性腹部大動脈瘤の侵襲的治療の適応の推奨とエビデンスレベル」
・瘤径≧ 55 mm の場合,侵襲的治療を行う ⅠA
・有症状の症例ではすみやかに侵襲的治療を行う.ⅠC
・瘤径≧ 50 mm の場合,侵襲的治療を考慮する.Ⅱa C
・嚢状瘤や急速拡大(≧ 5 mm/ 半年)する瘤には侵襲的治療を考慮する.Ⅱa C

予防手術の術式は開腹手術か?EVARか?

1:開腹血管置換術
2:EVAR: endovascular aortic aneurysm repair
(血管内治療) 1991年から導入され、近年はこちらが主流

■考慮するべきポイント
・大動脈瘤の解剖、周術期リスク、その後のフォローアップなどを総合的に考慮し治療法を選択する
・短期的な成績に関してはEVARの方が開腹手術よりも良い結果である
・長期的な成績(2-3年後)に関しては両者はほぼ同様である(EVARの方が優れている訳ではない)
・再手術はEVARの方が多いが(endoleak, reperfusionによる動脈瘤の拡大)、ほとんどは血管内治療で完結できる
・EVARは生涯の画像のフォローアップが必要であるが、開腹手術では必須ではないとされる

参考文献
・ N Engl J Med 2021;385:1690-8.
・N Engl J Med 2014; 371:2101-2108