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RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる  著:David Epstein

最近読んで最も面白かった本です。原題は”Why generalists triumph in a specialized world”で、直訳すると「なぜ専門的な世界でジェネラリストが勝つのか?」となります。スポーツ、音楽、勉学などを含めて幅広い領域で「早期から専門的に集中した教育を行うべきか?」それとも「専門特化せずに時間をかけて幅広い知識を身に付けた方が良いか?」という問いに答える作業を具体例を挙げながら(びっくりするくらい具体例が豊富で必ず自分の興味ある分野の具体例に出会えることも本書の優れた点と思います)検証していくのが本書の内容です。単なる自己啓発本やビジネス書に枠にははまらない非常に深い内容と思います。

本書の結論を一言で表現すると「急がば回れ」つまり「ほとんどの領域で専門的な(specialized)早期教育よりも色々寄り道や実験、試行錯誤をしながら幅広く(general)学んだ方が長期的に良い結果をもたらす!」というものです。本書では様々な研究結果や具体的な実例を取りあげながらこのことを証明していく内容です。以下にポイントを列記します。

・早期教育”head start”が効果が高い場合があるが、それは限られた領域(閉じた秩序の中で明確なルールが設定されており、フィードバックが明確なジャンル 例えば:ゴルフ、チェスなど)だけの話である。本書ではこのような状況を「親切な問題」と表現しており、その他ほとんどの現実世界で遭遇する「不確実な環境と意地悪な問題」では有用ではないとしている。

・新しいアイデアを生む際に重要なのは専門知識を詰めることではなく、他分野を総合的に考えアナロジーを使用することである。そのような他分野の考えを積極的に取り入れる姿勢”active open-mindness”が最終的に良い結果をもたらすことが証明されている。

・学習においては「望ましい困難(desirable difficulty)」を設定するべきである。具体的には「勉強の間隔をあける」、「テストをする」、「関係性を認識する」などが該当する。これは直感や学習者の満足度と反するが、長期的には成績が上がることが証明されている。例えばあるジャンルだけを短期集中で勉強するブロック型授業は一見学習効率がよさそうであるが(学習者の満足度も高いが)、長期的には色々なジャンルをごちゃ混ぜにした学習法よりも知識の定着率が悪いことが証明されている。
*(管理人のひとこと)これは教育する側としては非常に耳が痛い話で「レクチャー受講者の満足度が必ずしも教育効果と相関しない」ことを意味します。学習効果を高めるためにはある程度の「負荷」が必要で、ただ「すらすら納得できて満足度が高い話を展開すればよい」訳ではないことになります。難しいですね・・・・。

・試行錯誤を繰り返すなかで「自分の適性」”matching quality”を見極める作業が重要である。先に計画を立てるよりも行動して色々実験することで初めて学ぶことができる。
*(管理人のひとこと)医学では研修医になる前から志望科を決めている先生もおられますが、研修医で一度色々な科を経験することで自分の適性を見極めるという作業を経ることができるため、個人的には初期研修制度は良いシステムと思っています。

何かを始めるのに遅すぎるということはなく、他人に遅れをとってしまったと思う必要はない。自分と他人を比較する必要はない。

このテーマは多分どの分野の方でもどこかで疑問に感じると思います。例えば企業で「部署替え」がありますが、「せっかく今まで学んで慣れてきたのに違うことを扱う部署に変えてしまったらまたゼロからのスタートになってしまい意味がないのではないか?」、また高校生なら「大学受験で文系を選択してしまったけれど、理系は受験で使用しないから勉強しなくてよいのか?」など色々な場面で「専門性に特化し突き進むべきなのか?」「遠回りであっても幅広く色々な経験をした方がよいのか?」という疑問を持つと思います。

医学においてもこの点は難しいなと感じています。まずそもそも医学自体が相当専門的な分野で自分自身も医学以外のことは医者になってからほとんど学べていないです・・・。医学以外のジャンルですらそうなのに、医学内の知識でもすでに各科が相当専門的になっており、”general”を維持することの難しさを痛感しております。私は一応generalistを目指しているのですが、この本で改めて急がば回れでgeneralに幅広い知識を身に付ける姿勢の重要性が確認でき背中を押してもらったので、遅れをとったと焦らず、他人と比べず、今学べることをgeneralにゆっくりと学んでいこうと思います。

以下がamazonのリンクです!もしよければぜひ読んでみてください。