知らないと鑑別に挙げることができない疾患の代表で、私はよく鑑別から漏らしてしまい先日も寝る直前に「あっあの今日コンサルトをもらった患者さんは脂肪塞栓症では・・・?」と思ったことがあります。
機序
骨折や整形外科手術により骨髄内の脂肪が血液中に放出され、脂肪が物理的に塞栓症を引き起こす”mechanical theory”と、生化学的な機序の”biochemical theory”が機序として挙げられます。
1: mechanical theory
・損傷した骨髄や脂肪組織から遊離した脂肪滴が血流に入る
・脂肪塞栓が全身循環に移行する機序
①卵円孔などの解剖学的シャントを通る
②微小脂肪滴(<7-20um)は肺毛細血管を通過する
2: biochemical theory
・mechanical theory ではFESが24-72時間後に起こることが説明できない
・脂肪が血液中で酵素により加水分解され、遊離脂肪酸が産生され炎症を引き起こす機序
以下は骨折部位別のリスクの違いに関して(Am J Med Sci. 2008 Dec;336(6):472-7.)。
臨床像
骨折などの原因から24-72時間以内にこれらの症候群を呈するとされています。以下「肺」・「脳」・「皮膚」の3臓器に症状を呈することが典型的とされています。
1:肺塞栓症・低酸素
・10-20%はARDSの基準を満たすとされています(3徴全てが同時にそろうのは半数もないとされています)
2:脳塞栓症・意識障害
・80-85%に認めるとされ、上記の低酸素と同時もしくはそのあとに認める場合が多いとされています。
・意識変容やfocal neurological sign、また痙攣発作を呈する場合もあります。一過性のことが多いとされます。
3:点状出血
・50%程度に認めるとされ、部位としては眼瞼結膜や腋窩、上半身に認める場合が多いとされます(重力と関係ない分布である点が特徴と思います)。下図はN Engl J Med 2011; 364:1761より引用。
画像
■FESの頭部MRI画像に関して AJNR Am J Neuroradiol. 2014 Jun;35(6):1052-7.
type 1: scattered embolic ischemia/ cytotoxic edema 通称”starfield pattern” DWIが重要 引用:Stroke 2001;32:2942–44
type 2A: confluent symmetric cytotoxic edema in white matter(癒合性の白質病変)
type 2B: vasogenic edema(subacute)
type 2C: petechial hemorrhage of white matter(白質の点状出血) T2*WI, SWI
・type 2Aの白質病変と同じ分布
・DAI(diffuse axonal injury)が鑑別であるが、DAIは前頭側頭葉の皮質灰白質境界領域や脳梁に病変を認めることが多い点が鑑別点になる(つまり分布で鑑別)。
type 3: chronic sequelae (atrophy, demyelination change)
■診断基準:以下はいずれもきちんとvalidationを受けていないため(このため感度、特異度もありません)あくまで暫定的な診断基準という扱いになります。
“Gurd’s criteria for diagnosis of FES”
1:大基準
・低酸素血症:PaO2<60mmHg±肺浸潤影
・意識変容:MRIで多数の塞栓症
・点状出血:眼瞼結膜・上半身
2:小基準
・頻脈(HR>100/min)
・発熱(BT>38℃)
・血小板減少(Plt<10×10*4/μL)
・説明できない貧血
・乏尿
・網膜塞栓症
*大基準2つ以上 もしくは 大基準1つ+小基準4つ該当
*大基準1つ以上+小基準3つ または 大基準2つ+小基準2つ該当
“Schonfeld’s criteria for FES diagnosis”:以下5点以上該当
・点状出血:5点
・胸部レントゲン浸潤影:4点
・低酸素血症:3点
・発熱:1点、頻脈:1点、頻呼吸:1点、意識障害:1点
治療
脂肪塞栓症に対しての特異的な治療法は存在せず、supportive careが中心。
ステロイドに関しても有用性は確立していない。
参考文献
・Neurocrit Care (2018) 29:358–365