脊髄梗塞の中でも後脊髄動脈(PSA: posterior spinal artery)領域の梗塞は「かなりまれ」で報告も限られています(脊髄梗塞全般に関してはこちらをご参照ください)。画像上後脊髄動脈領域を描出することが難しいこともありますし、そもそも後脊髄動脈は血管が這うように分布しており虚血に陥りにくい点(下図参照)などが挙げられます。最近久しぶりに自験例があり(私は今まで2例確定診断例があります)があるため調べた内容をまとめます。
脊髄動脈の分類 | 前脊髄動脈 | 後脊髄動脈 |
血管支配域 | 灰白質+白質前2/3 | 白質後1/3 |
feeder 前髄質根動脈 | 約6本 (Adamkiewicz含む) | 11-16本 |
走行 | 脊髄前面正中を縦走 | 動脈叢(vasa corona)を形成 直線的な走行ではない |
血流の方向 | 吻側(椎骨動脈) ↓ 尾側(円錐部) | 吻側(椎骨動脈) ↓ 上部胸髄までで流れ止まる それより下は尾側の前脊髄動脈から血流が流れる |
■後脊髄動脈梗塞の15例まとめ Neurology 2018;91:414
・脊髄梗塞全体のうち11%(15/133人)で最も大規模な報告(Mayo clinicの20年間retrospectiveな解析)。
・特徴 発症から完成まで≦4時間: 80%、後索障害100%、脱力73%、発症時疼痛60%、髄液蛋白上昇47%、細胞数上昇0%、OCB+ 0%、当初のMRI画像が正常33%、非連続性の病変 60%、long cord lesion 60%、椎体梗塞合併 20%、部位頚髄 53%・胸髄 47%
・(自験例でもそうですが)この報告でも初回MRI検査がnegativeでフォローアップで病変が顕在化することが指摘されています。また頚髄病変が多いことが特徴として挙げられると思います。
以下自験例画像(70歳代男性例)。
自験例でもそうですが、やはり上前腸骨棘まで振動覚が0秒と著明な深部感覚障害を突然発症で呈する点が特徴で(自験例は2例とも上前腸骨棘まで振動覚が0秒という著明な深部感覚障害を認めました)、深部失調による歩行障害が主体になりほぼ歩けない、足を自分で見ないとMMTで力を入れられない(眼で見て行うMMTと見ないで行うMMTに差がある)という病像を呈することが特徴的かと思います。またこの報告の通り病変は頚胸髄に多く、初回画像検査ではまずnegativeであり臨床的に疑う場合はしつこく画像検査をフォローするという点が重要かと思います(私も結局3回画像をフォローしてようやく病変を指摘出来たことがありました・・・)。