注目キーワード

TPP(thyrotoxic periodic paralysis) 甲状腺中毒性周期性四肢麻痺

周期性四肢麻痺の原因は様々ですがその中で最も多いのが甲状腺機能亢進症に伴う二次性の周期性四肢麻痺です。自験例も周期性四肢麻痺はTPPしかないのですが、勉強した内容をまとめます。臨床的に非常に興味深い疾患です。

周期性四肢麻痺の分類

■K値による分類
1:高K性周期性四肢麻痺
・2次性:K保持性利尿薬・副腎不全・腎不全など
・遺伝性AD(SCN4A遺伝子) ミオトニーを認める場合がある→針筋電図で確認
2:低K性周期性四肢麻痺
・2次性:甲状腺機能亢進症*今回取り上げるのはここ・原発性アルドステロン症・Bartter症候群/Gitelman症候群・腎尿細管性アシドーシス・慢性下痢/嘔吐・利尿薬など
・遺伝性(CACNA1S, SCA4A遺伝子)
3:その他
Andersen-Tawil症候群:周期性四肢麻痺・不整脈/心電図異常(増高U波)・先天小奇形(眼間解離・耳介低位・幅広い鼻・下顎低形成・歯牙異常・第5指湾曲指)を3徴としたAD(KCNJ2遺伝子変異)*K値は様々(正常の場合もあり)

病態

・Kの細胞内シフトを助長し、低K血症になることで脱分極が起こりNaチャネル不活化が起こることで麻痺が生じる機序です(引用元: Endocrine (2013) 43:274–284 )。Na+/K+ ATPaseを活性化させる要因がこの機序を助長するため増悪要因となります。

■誘因炭水化物摂取(insulin上昇)、運動後(カテコラミン上昇)、上気道感染症
*testosteroneは動物実験においてNa/K ATPase活性させることが指摘されているため、男性に多い原因かもしれない
(TPP患者ではtestosterone値がそうでない人よりも高いという報告もあり)

■甲状腺機能亢進症:ほとんどの背景疾患はBasedow病であるが、その他の甲状腺機能亢進症でも指摘あり

■疫学:0.1%(欧米)-1.9%(日本)
・年齢:20-40台、基本的に男性
・地域:東アジア 男性22-76倍 *西洋ではほとんど認めず、地域性が非常に高い点が特徴
・時間帯:夜間から明け方に多いため”nocturnal paralysis/night palsy”などとも呼ばれ、1:00-6:00時に発症した例が84%という報告もあり(Arch. Intern. Med. 159(6), 601–606 (1999))

臨床像

繰り返す脱力が特徴で、下肢近位からの発症が多い(80%程度にて全ての四肢が影響を受ける)、筋痛が初発症状となる場合もある
*感覚障害、意識障害:なし
*眼筋麻痺、球麻痺、呼吸麻痺はまれとされている
・深部腱反射:2/3の症例ではアキレス腱反射消失(この点でギランバレー症候群との鑑別が初回時には難しくなる)
・基本的全例で発作後間欠期には寛解する
・76%がそれまで甲状腺機能亢進症の診断を受けていない場合がある→甲状腺機能亢進症の初発症状の可能性あり
(55%は甲状腺機能亢進症の症状を認めないsilentなcaseである→early stageの状態の可能性が高い)

臨床経過:血清K正常化とともに36-72hrにて自然消失する

*自験例は20歳代男性が前日朝牛丼特盛り、昼チキンカツカレー、夕豚丼、夜食におにぎり2個を食べた翌朝に四肢筋力低下で近医でギランバレー症候群疑いで搬送となり、K=1.5 mEq/L、甲状腺機能亢進症の状態であり診断となった症例の経験があります。

検査

甲状腺機能甲状腺機能の程度と症状の程度は相関しない(むしろそこまで上昇していないことも多くearly stageの病態の可能性もある)
電解質:低K血症 *K=1.1-3.4 mEq/L (基本的に3.0 mEq/L以下)、尿電解質検査(細胞内シフトが機序なので尿中K排泄は抑制されているはず)
*K正常例もごくまれに報告されているが良くなった経過を見ている可能性もある
心電図:monitor管理が必要
*遺伝子検査:KCNJ18 gene(Kir2.6) 0-33%に認めるとされる(国内は報告なし?)
針筋電図検査:ミオトニー疾患との鑑別が必要な場合
神経伝導検査:発作中はCMAP amp低下を認め、K値の上昇と共にCMAP ampが増加すると報告されている (Ann Indian Acad Neurol 2014; 17(1):  100-102)

“prolonged exercise test”:運動後に時間が経過してから麻痺がおこることを評価
・被験筋:ADM*ベルクロなどできちんと固定することが重要
・刺激部位:尺骨神経手首(十分に最大上になることを確認*特に刺激位置がずれる可能性もありかなり最大上刺激にゆとりをもたせることが必要)
<手順>
1:基準のCMAP記録
2:運動負荷 ADMに抵抗を加えて20秒外転、1-2秒休憩を繰り返す(計5分間行う)
3:時間経過のCMAP測定:負荷直後~負荷40-60分後まで測定する(1-5分おき)
<判定>
・人種により基準が異なり日本人では20%以上のCMAPamp低下を有意とするとされている。

治療

■急性期の対応
・K補充:細胞内シフトの問題であるため、体内のK量が不足している訳ではない。このためリバウンドによる高K血症に注意が必要であり頻回にモニターする必要がある。
・β遮断薬:交感神経刺激によるNa+/K+ ATPase活性を抑制するためにβ遮断薬を使用する場合があります。

■根本的な対応
・甲状腺機能亢進症の治療 甲状腺機能が正常化しなかった場合には3ヶ月以内に62%再発したとの報告(European  Jornal of Neurology 2008, 15:559-564)
・誘因除去

参照文献
・Endocrine (2013) 43:274–284 TPPに関する非常に分かりやすいreview
・筋チャネル病 遺伝子性周期性四肢麻痺・非ジストロフィー性ミオトニー症候群 診療の手引き  →特に電気生理のところなどを中心に参照させていただきました。