私は脳梗塞診療で塞栓原不明の脳梗塞の原因検索でTEEを一応自分で行っております。経食道心エコー検査の師匠循環器内科M先生に卒後3年目のときに1年間週1回ご指導いただき勉強させていただきました。はじめのうちはまず解剖学的なorientationが分からずかなりとまどいましたが、ご教授いただいたおかげで田舎の病院へ行ったときも自分で検査が出来たので助かったことと、経食道心エコーをしているとその病院の循環器の先生と自然と仲良くなりIEや心房細動、PFOなどに関してのdiscussionの質を高めることが出来たことが大きな財産になりました。以下にまとめさせていただきます。
1:技術的な側面
・胃カメラと異なり先端にカメラがついている訳ではないため、経食道心エコーのプローベ挿入はblindで行うことになります。私もまだまだ挿入下手で患者さんに負担をかけてしまう場合も多いのですが、スムーズに挿入するためのポイントをまとめます。
ポイント1:右手はプローベから20cm程度のところを軽く持つ
・通常挿入すると16cm前後でプローベの先端が食道入口部に当たります。なのでまず20cm程度のあたりに最初から右手を添えます。あまり強くプローベを握りしめているとこの感覚が分からないこととプローベに無理な力が入ってしまい危険なので、軽く握るようにします。
ポイント2:舌に沿わせるように挿入し(downをかけてながら)、食道入口部にプローベの先端を持っていく +咽頭後壁にプローベの先端を押し当てない
・咽頭後壁に押し当ててしまうと嘔吐反射を強く誘発してしまい検査が進めにくくなってしまい、患者さんの負担も大きいため、挿入してからプローベの先端位置を意識しながら舌に沿わせるようにdownをかけて、そのまま入口部に持っていくようにします。
ポイント3:入口部に当たったらじっと嚥下運動を待つ 不必要にプローベを前後に動かさない
・入口部に当たったら基本的には患者さんにごくっと飲み込んでもらえればそれが理想です(鎮静下で自分でえいっと挿入する場合もありますが)。この時に私も初心者のときによくやってしまっていたことが不用意にプローベを前後に動かして食道に入れようとすることです。これは嘔吐を誘発しやすいですし、患者さんにとって負担になります。
ポイント4:全然入らない場合はプローベの先端が梨状窩の左右に先端がずれていることが多い
・押しても抵抗があり、うんともすんとも入らない場合は梨状窩の左右のくぼみにプローベがはまってしまっていることが多いです(私はこのパターンが多いです)。側臥位だとこの感覚がなかなかつかみにくいので挿入する段階でできるだけ地面に対して水平にプローベが向かうように注意しています
角度表示に関して
・経食道心エコー検査ではエコーの表示する角度を調整しますが、これは心臓を正面からみて反時計回りに切った断面の角度を調整しています(下図参照)。
2:観察すべき項目・解剖
以下普段私が観察させていただいている部分を中心にまとめさせていただきます。
1:左心耳 角度:約30度、90度、(135度)
・心房細動アブレーション前の血栓チェックで最も重要なのが左心耳の観察です(左心耳は特にTTEでは観察が難しい場所なのでTEEが重要です)。
・左心耳にクマジン稜(coumadin ridge)がかかるとそのアーチファクトで観察しにくくなるため(特に30度の観察でかかりやすい)、角度を変えて複数の角度から観察することが必要です。
*参考 クマジン稜とは?:「左心耳と左上肺静脈での心筋隆起(正常解剖構造)」 遠位端:脂肪成分を含み、ボール状球根状に見える 近位:通常は薄い状態
・左心耳内には櫛状筋(しつじょうきん)という櫛(くし)状の筋肉構造があり、これが血栓と見間違えることがあり注意が必要です。
・血栓の有無だけでなく、左心耳内の血流速度(低下すると血栓リスク)も測定します(また最近はWatchmannデバイスなどを検討する場合もあり左心耳の大きさも測定します)。左心耳に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。
*参考:左心耳内血流に関して
・0.5m/sec以上:通常
・0.25m/sec以下:もやもやエコーを反映している(血栓形成のリスク)
2:大動脈弁 角度:短軸約30度、長軸約120度
・次に大動脈弁の形態を評価します。短軸像では開口部(ASの場合直接AVAの測定)の評価や2尖弁などの形態異常はないか?を確認します。患者さんによって大動脈の角度が色々なのであくまで30度という角度は目安で、三尖弁がそれぞれ同じ大きさくらいに表示される像を出します。
・長軸は「短軸の角度+90度」くらいの角度で測定し(150度くらいになることもままあります)、僧帽弁の前尖、後尖と左室、大動脈の3者が同時にきちんと描出される箇所を出します。ここではARの重症度評価(vena contracta)や疣贅の評価、A弁基部やSTJの長さの測定(AVRで大きさを決める際に重要)などを行います。
3:僧帽弁 角度:約120度、交連像約60度
・次にそのまま(大動脈弁に続いて)僧帽弁、左室の評価に移ります(角度はそのままでOKでup/downなどで左室をできるだけ画面中央に)。大動脈弁、左室、僧帽弁がきれいに3者描出されているところでは、僧帽弁の前尖がA2、後尖がP2に該当します。ここではMRの評価(重症度+原因の評価:弁尖のcoaptation不良?prolapse?tethering?検索断裂?atrial MR?)、MSの評価、疣贅の有無、左室収縮能、E/Aの評価などを評価します。
・そして左室をみたまま角度を60-70度くらいにして交連像を描出します。交連像は真ん中が前尖A2、その外側に後尖のP1,P3がありカモメの様な形状(gull wing)をしている像を描出します。
4:心房中隔+右室系 角度:約60度前後
・心房中隔もTTEでは評価が極めて難しくTEEが威力を発揮する場所です。通常の状態でPFOやASDがないかどうかを観察し、さらに追及する場合は後述のマイクロバブル法を行います。
・またここで三尖弁、肺動脈弁の評価も行います。IVCやSVC、冠状静脈洞の入口部の観察なども可能です。このあたりはTEEオーダーの目的に応じて行います。
*オプション:マイクロバブル法(こちらもご参照ください)
・PFO、ASDなどの右左シャントの存在を証明するために行うのがマイクロバブル法です(評価する場合はここで評価します)。マイクロバブル法は1人で実施することは至極困難なので通常2人以上の人手が必要です。
5:大動脈
・最後にプローベをぐるんと用手的に180度ひっくり返して大動脈を観察します。プローベを引いてくる過程で弓部も観察できるためここもプラークの有無(大動脈原性の脳梗塞で重要)などを評価します(途中で気管がかぶるので見えなくなる箇所があります)。
検査の禁忌
1:絶対禁忌
食道:狭窄、腫瘍、破裂、憩室
胃:活動性の潰瘍出血
2:相対禁忌
頸部可動域制限
嚥下障害
出血傾向
放射線治療(頸部、縦隔)
食道:Barret食道、裂孔ヘルニア(症候性)、静脈瘤、食道炎active
胃:手術、出血の既往歴、胃潰瘍active
上記の内容はそのほとんどを循環器内科M先生が懇切丁寧に教えてくださった内容を元に記載させていただきました。循環器非専門医の私にいつも根気強く教えてくださり本当に感謝しかありません。少しでも学んだ内容を還元できるように出来ればと考えております。またipad専用なのですが”TEE standard views”というTEEの断面を動画とシェーマで表示してくれている素晴らしいアプリがあり私はこれでも勉強しておりました。もし参考になりましたら幸いです。