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Ocular neuromyotonia: ONM

極めてまれな疾患ですが(神経眼科領域では有名かもしれませんが、対応する日本語の病名はまだ存在しません)、私は1年間で2例診断したことがあり、きっと未診断例が多く存在するのではないかと思っています。非常に特徴的な臨床像から臨床診断が可能なので、「本疾患を知らないと診断できないけれど、本疾患を知っていればsnap diagnosisが可能な疾患」です。

病態

「外眼筋(1つ以上)が自発的に攣縮し、発作的な複視、斜視をきたす疾患」として1966年 Clarkらが初回症例報告し(Br Orthop J 1966;23:116)、1970年 Rickerらが”Ocular Neuromyotonia”と初めて名付けました(Klin Monatsbl Augenheilkd 1970;156:837)。その後も症例報告が散見されますが、現在でも明確な診断基準はなく、特徴的な所見での臨床診断可能な疾患とされています(Strabismus 2018;26:133)。つまり、「発作的な複視・斜視」の鑑別として臨床的には本疾患を疑うことになります。
*参考:発作的な複視・斜視の鑑別疾患
・重症筋無力症
・脱髄疾患(多発性硬化症)
・血管圧迫病変
・甲状腺眼症
・Ocular Neuromyotonia (ONM)
・cyclic oculomotor nerve paresis and spasm (COPS)
・superior oblique myokymia (SOM)

原因放射線治療後 57例(約60%:最多)>血管による圧迫 7例>特発性・原因不明 6例>甲状腺眼症 4例>動脈瘤 3例>Tolosa Hunt syndrome 1例、脳静脈洞血栓症 1例、脳梗塞 1例、ビタミンD欠乏1例、外傷後1例、重症筋無力症 1例、ボツリヌス注射後 1例、CIDP 1例 *その他原因記載なし

本疾患は上記の通り頭頚部領域の放射線治療後(特に下垂体腫瘍や上咽頭癌)に起こることが原因として最も多いです。なぜこのようなことが起こるか?の病態に関してですが、放射線治療などにより外眼筋を支配する脳神経に局所的な脱髄が生じ、電気刺激がとなりの軸索に伝わる(ephaptic transmission)ことで、局所的な電気のサーキットが形成されてしまい持続的な電気刺激が伝わることで、外眼筋の持続的な収縮が起こってしまい斜視を呈する機序が推定されています(下図参照)。

臨床像

・男性:女性 = 1:2.3 年齢:7~79才 (中央値:50.5才)
・両側 or 片側:片側がほとんど (両側は過去の報告4例のみ)
・放射線治療から発症まで期間:2か月~20年(平均:7年)
・障害を受ける脳神経 Ⅲ(最多):51例、Ⅵ:35例、Ⅳ:6例 *(記載なし2例)
1回発作での症状持続時間:約1分 (最短5秒~最長3-4分)
誘発因子:注視誘発(その他:アルコール、疲労、過呼吸など)

臨床的に最も重要なポイントは「注視により斜視の発作が誘発される」という点です。実際の動画が分かりやすいのですが、図で解説します。例えば左眼が発作的に内転してしまう場合(左動眼神経)では右側方注視を数十秒行うと左眼の内転発作が誘発された状態になります。これは病歴上でも「人込みで発作が起こりやすい」「商品棚で陳列されている商品を探すときに発作が起こりやすい」といった病歴が聴取できる場合があり、注視が誘因となっていることがうかがえます。患者さんは「眼がひっぱられるような感じがする」と表現し、鏡をみてはじめて自分の眼の位置がずれることに気が付く場合もあります。この発作は通常約1分以内に自然と元に戻ります

臨床経過としては放射線治療から数年後から最初は注視で誘発されときおり認める程度の発作が、徐々に頻度が増していき、その後明らかな誘因がなくとも発作が出現するようになることが典型的な自然歴です(下図参照)。

検査・診断

本疾患に特異的な検査、バイオマーカーは存在せず、上記の特徴的な臨床像からの臨床診断を行います。自験例では動眼神経に造影MRI検査で造影増強効果を伴った例も経験しており、やはり放射線治療後の局所的な脱髄によるBBB破綻が関係している可能性があります。

治療

・機序で特に”ephaptic transmission”が指摘されてり、この電流を遮断することで抑制が可能と考えられNa遮断薬が一般的には最もよく使用され、効果があるとされています。特に既報ではカルバマゼピンが最も一般的に使用されています。
•多くの症例(使用例のうち88% 38/43症例)で症状改善し、1週間以内に著効する場合が多く、寛解が得られる場合もありますが薬剤を中止すると再度症状出現する場合多いとされています。自験例でもNa遮断薬で基本的はコントロール可能です。
・その他Na遮断薬としてフェニトイン、ラコサミド、メキシレチンが効果あったことが報告されています。

以上”Ocular neuromyotonia”に関してまとめました。稀な疾患ではありますが、非常に特徴的な臨床像であり一度見れば強烈な印象が残るため知識として知っておいて損はないと思います。