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特発性縦隔気腫 pneumomediastinum / spontaneous mediastinal emphysema

救急外来をやっていて、若年者の胸痛や頸部痛、呼吸困難でときどき遭遇するのが「特発性縦隔気腫」です(自分の記録を振り返ると3例経験がありました)。先日もERで経験しましたが、今まできちんと文献で調べられていなかったため一度調べてみました。

病態と臨床像

・肺胞の空気が胸腔内に漏れてしまう現象が気胸、肺胞の空気が肺胞の間質に漏れてしまい、縦隔へ広がる現象が縦隔気腫と私は理解しています。
・外傷があるものと非外傷性に分けて考えることが一般的で、ここでは後者の非外傷性/特発性の縦隔気腫に関して取り上げます。特発性縦隔気腫は若年者に多く、誘因として有名なのは怒責を伴う行為で管楽器の演奏、大きな声などが有名ですが実際には原因が特定できない場合も多いとされています。
・気腫は下図の様(American Journal of Emergency Medicine 35 (2017) 1150–1153より引用)に縦隔だけにとどまらず、縦隔から連続する咽頭後間隙など頸部へも波及していくため、頸部痛嚥下時痛を訴える場合も多いです。胸痛は胸骨裏の正中に疼痛を訴える場合が多いです。胸部レントゲン検査は約30%で異常を指摘できない場合もあり、当たり前ですが胸部CT検査の方が感度が優れています。

・分類(J Thorac Dis 2015;7(S1):S44-S49より引用)

アプローチ

食道破裂に伴う二次的な縦隔気腫でないかどうか?がまずmanagementの上で極めて重要です。食道破裂に伴う二次的な縦隔気腫のリスク因子としては年齢(>40歳)、嘔吐、腹部圧痛、白血球数上昇、画像で胸水・胸水などを認める点が挙げられます(J Am Coll Surg 2014;219:713e717.より引用)。これらのリスクに該当する場合は食道破裂の原因を精査するべきとされており、該当しない場合は特発性縦隔気腫として対応します。

治療

・通常は保存的対応で軽快します。先ほどの通り食道破裂などが鑑別に挙がる場合は入院が必要ですが、入院が必須の疾患という訳ではなさそうです。
・縦隔炎の予防目的に抗菌薬を使うか?という意見もあるようですが、確立したものはありません。

既報のケースシリーズまとめ

■日本からの後ろ向き34例報告 American Journal of Emergency Medicine 35 (2017) 1150–1153
・年齢:19.7歳(5-36歳)、男性76.5%
・症状:胸痛61.4%、呼吸困難29.4%、咽頭痛29.4%
・誘因:指摘できず44.1%、運動 11.8%、咳嗽 11.8%、喘息発作 11.8%、大声でさけぶ 5.9%、鼻をかむ 2.9%、出産 2.9%
・対応:入院32.4%、外来67.6%、入院期間3.4日
・予防的抗菌薬投与:2例で実施(AMPC/CVA3日間)
・合併症:なし0例

■49例まとめ”Spontaneous Pneumomediastinum: An Extensive Workup Is Not Required” American Journal of Emergency Medicine 35 (2017) 1150–1153
・年齢:19±9歳(5-57歳)、男性:53%、BMI:23±7
・初発症状:胸痛65%、息切れ51%、嚥下障害8%、頸部痛29%
・誘因:咳嗽29%、嘔吐16%、運動/性行為6%、薬剤6%、パニック発作2%、特定できず41%
・併存疾患:呼吸器疾患/喘息 41%、不安障害14%、その他12%、なし33%、喫煙22%
・身体所見:crepitus(捻髪音)31%

参考文献
・American Journal of Emergency Medicine 35 (2017) 1150–1153