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Long insular artery infarction

先日”Long insular artery infarction”がカンファレンスで話題になり、今まで全く調べたことがなかったため調べた内容をまとめます。ついついLSA領域の梗塞と判断してしまいがちな点が落とし穴です。脳血管障害も日常診療でよく遭遇しますが、奥が深いですね。

解剖

島”insula”を支配する血管は中大脳動脈のM2から主に分枝し、“short”, “medium”, “long”の3つに大きく分類されます(下図)。島皮質のほとんどはこのうち”short insular artery”から栄養され、”long insular artery”は島皮質とさらに深部の白質構造(放線冠まで)を栄養します。今回の主役はこの最後の”long insular artery”です。

シルビウス裂上端と側脳室前角の部分を結んだライン」”A-I line: anterior horn – insular cleft”がちょうど”long insular artery”の走行・還流領域と合致するとされています(下図のcoronal図を参照ください)。そしてこの”long insular artery”の還流領域より下の領域がLSA還流領域上の領域がWMMA領域と区別することが可能という特徴があります。
*WMMA: white matter medullary artery 脳表から穿通する髄質動脈

micro-angiographyの画像と対応させると下図青色部分が該当します。

long insular artery梗塞

■”long insular artery infarction”に関してまとめ AJNR Am J Neuroradiol 2014;35:466-471.

本報告が”long insular artery infarction”に関してまとめたほぼ唯一の報告です。LIA梗塞は脳卒中全体の2.2%(n=8)を占めていました(LSA梗塞は14.0% n=50)。
ポイント1:DWI coronal画像が鑑別に有用(過去の報告では多くがLSA梗塞と分類されてしまっている可能性がある 下図の通りaxial像だけだと区別はなかなか困難)
ポイント2:臨床像はLSA梗塞と似る(LIAは解剖的にはWMMAに分類されるが)→臨床像からLSA梗塞とLIA梗塞を鑑別することは困難
ポイント3:LIA梗塞の機序は塞栓症のことが多い(LSA梗塞がアテローム機序なのに比して)

“long insular artery”は髄質枝のため、脳梗塞(髄質枝梗塞)機序としては塞栓症にも十分注意が必要ですが、MRIのaxial像だけだと容易にLSA梗塞と誤認してしまいアテローム機序に対した治療が行われてしまう場合があります。このため”long insular artery infartion”をまず認識し、特にまぎらわしい場合はDWI coronal像を参考に解剖的アプローチをすることが望ましいと思います。私も今まで認識が甘かったので注意しながらアプローチしたいと思います。

先日”long insular artery”の梗塞を早速経験したため、自験例のMRI画像を掲載します(管理人:2021/8/14追記)。

「顔面>上肢>下肢」の順に障害が強くなるパターンが臨床的には多い印象を受けます。