単純ヘルペス脳炎後に自己免疫性脳炎(特に抗NMDA受容体脳炎)を発症することが指摘されています。この自己免疫応答が単純ヘルペス脳炎により神経組織が破壊され、NMDA受容体が放出されることにより起こるのか?それともヘルペスウイルスのタンパク質と相同性があるのかはまだわかっていません。臨床的観点からまとめます。
単純ヘルペス脳炎一般に関してはこちらを、抗NMDA受容体脳炎に関してはこちらをご参照ください。
■単純ヘルペス脳炎の前向きコホート研究 Lancet Neurol 2018; 17: 760–72
・54例の単純ヘルペス脳炎患者を前向きに追跡(スペインのHerpes Simplex Encephalitis Study Group)し、うち51例を解析しています(3例は3週間以内に死亡してしまったため除外)。患者背景は年齢中央値50歳、4歳以下25%、成人18歳以上65%、女性43%、発熱96%、意識変容69%、行動異常41%、記憶障害72%、失語78%、痙攣発作63%、運動麻痺41%、髄液細胞数77/μL、蛋白60mg/dLとなっています。
・この研究では自己抗体は単純ヘルペス脳炎診断時と3週間後に血清、髄液いずれも測定しており、また臨床的に自己免疫性脳炎を発症した場合にも測定されています。単純ヘルペス脳炎診断時は全ての症例で抗神経抗原抗体を有していませんでしたが、27%(14/51例)で自己免疫性脳炎を発症し、このうち9例(64%:9/14)は抗NMDA受容体抗体を有し、5例(36%:5/14)はその他の自己抗体を有していました。
・単純ヘルペス脳炎から自己免疫性脳炎発症までの期間中央値は32日(7-61日)です(下図赤色の部分が自己免疫性脳炎を発症した時点)。自己免疫性脳炎の発症症状は年齢により異なり、4歳以下は全例choreoathetosisで発症していましたが、4歳より高い年齢では行動異常や精神症状が前景に立っていました。
・脳炎を臨床的に発症しなかった残りの37例のうち30%(11/37例)でも抗体を認めています(抗NMDA受容体抗体n=3 3%:3/51例、その他n=8)。
・自己抗体の検出が自己免疫性脳炎を臨床的に発症するより前に認め、また抗体陽性の患者が全例自己免疫性脳炎を臨床的に発症するわけではないことが分かります。単純ヘルペス脳炎の診断後3週間以内に抗体を認めることが自己免疫性脳炎発症のリスク因子(odds ratio [OR] 11·5, 95% CI 2.7–48.8; p<0·001).として指摘されています。その他の年齢、臨床症状、初期の髄液、初期のMRI画像、治療内容などは自己免疫性脳炎発症のリスク因子として指摘されていません。
この研究からは27%とかなり高頻度で単純ヘルペス脳炎後に抗NMDA受容体脳炎を発症し、かつ時期も概ね2ヶ月以内であることが分かります。