「肺炎」は実臨床でよく遭遇しますが、なんでもかんでも「肺炎」とくくってしまうと適切な診断や治療に結びつかない場合も多々あります。ここであらためて「肺炎」へのアプローチを考えてみます。以下では主に「細菌性」の肺炎を扱います。
病歴
・まず問診上重要なことは「上気道症状」と「下気道症状」をきちんと分けて問診することです。上気道症状が主体であればもちろん上気道炎らしさが上がるし、下気道症状が主体であれば下気道の炎症、具体的には気管支炎や肺炎らしさが上がることになります。
・またこれ以外に肺炎と鑑別となる肺塞栓症や肺炎とも随伴する胸膜炎らしい所見があるかどうか?非定型肺炎では認めることの多い肺外症状はあるかどうか?を問診していきます。以下に問診するべき事項をまとめました。
1:上気道症状:咽頭痛、鼻汁、鼻閉
2:下気道症状:咳嗽、喀痰・呼吸困難dyspnea(呼吸苦とは表記しない)
3:胸痛:S.pneumoniae肺炎・胸膜炎・膿胸・肺化膿症・Septic emboli:IE, Lemierre’s syndrome, drug abuse
4:肺外症状:関節痛・筋肉痛・腹痛・下痢・意識障害
また以下のリスク因子は起炎菌同定のヒントとなるため問診するようにします。
・温泉(2週間以内)、ホテル、クルーズ、スプリンクラー、土いじりやガーデニング:レジオネラ
・麻薬乱用:S.aureus、肺炎球菌、嫌気性菌
・アルコール依存:肺炎球菌、クレブシエラ、口腔内嫌気性菌、結核、アシネトバクター
・口腔内衛生環境:誤嚥性肺炎、膿胸など
・動物との接触 鳥:Clamydphila, influenza うさぎ:Francisella tularenis 農場動物・臨月猫:Coxiella burnetii ねずみ:Leptospira
原因
・原因となりうる代表的な病原体を下記にまとめました。大きく細菌・結核・ウイルス・真菌に分類されます。細菌はこの中でも定型(肺炎球菌・インフルエンザ桿菌・モラキセラ)と非定型(マイコプラズマ・レジオネラ・クラミジア)に分類されます。
検査
肺炎を臨床的に疑った場合は以下の検査項目を検討します。
・血液検査:レジオネラ肺炎ではNa(低Na血症),CK(横紋筋融解症), P(低P血症)などが補助所見となる場合があります。炎症反応で肺炎かどうか?の判断をすることは出来ないし、後述するが重症度を評価することもできません。
・喀痰グラム染色・培養:起炎菌推定において最も重要です。喀痰の自己喀出が難しい場合は高張食塩水をネブライザーで吸入し、喀痰喀出を誘発します。ダメな痰(つまりただの唾液)かどうか?は培養検査を出す前に喀痰の肉眼やグラム染色での扁平上皮の混入度合いなどから判断します。細菌検査室にダメな喀痰かどうかを判断してもらうという受動的な態度ではなく、きちんと良い検体を自分で判断して提出するという臨床医の気概が求められます。また話題はそれえるが結核が否定できない場合は抗酸菌塗抹・PCR・培養検査もある程度閾値を低く実施しておくべきと思います。下図は肺炎球菌性肺炎患者さんの喀痰肉眼像とグラム染色像です(自験例)。
逆に扁平上皮が少ない良い検体にもかかわらず菌体がグラム染色で確認できない場合は、経口抗菌薬によるpartial treatmentの影響、ウイルス性、結核性、マイコプラズマやレジオネラなどの非定型肺炎、真菌性の可能性などを考慮する契機となります。培養結果を数日待ってから「うーん」と考える後手の診療にならないようにしたいです。
・血液培養検査:肺炎での血液培養陽性率は低いですが、必ず提出します。
・胸部レントゲン:救急外来で撮影した際には脱水により影が目立たず、入院後に影が顕在化してくる場合もあります。このような経過がありうる(つまり画像が臨床像の経過に送れる場合がある)ことをきちんと認識しておくことが重要です。
以下は状況次第で提出を検討する検査項目になります。各種抗原・抗体・PCR検査(下記の感染症を疑う場合提出を検討)。
・マイコプラズマ:LAMP法の提出が望ましいです(血清IgM抗体のペア血清よりも)。咽頭ぬぐいもしくは喀痰で実施・提出します。
・レジオネラ:尿中抗原はLegionella penumoniae1型のみを検出し特異度高いが感度は十分ではありません。喀痰でのLAMP法も提出します。通常のグラム染色・培養ではレジオネラはだめで、ヒメネス染色とBCYE培地を細菌検査室に事前に連絡してお願いします。レジオネラに関してはにまとめがありますので、ご参照ください。
・クラミジア:血清クラミジア抗体IgM, IgGしかなくペア血清で判断します。
重症度分類
・肺炎の重症度分類としては”A-DROP”と”CURB65″が有名です。これらのリスク評価の中身の項目をよく見てみると、これらが伝えたいメッセージは「決してCRPで肺炎の重症度を決めているのではなく、患者背景(年齢)やバイタルサイン(酸素化、血圧、呼吸数)、脱水など全身の総合的評価で肺炎の重症度を決めているのだ」ということが読み取れます。採血検査の炎症反応の結果で右往左往することなく、きちんと全身状態を評価して管理していきたいです。
治療
・肺炎の治療は(細菌性の場合)適切な抗菌薬+喀痰のドレナージ+酸素療法を含めて呼吸の補助が重要です。抗菌薬だけに目がいきがちですが、特に喀痰の自己喀出に難がある高齢患者さんの場合、排痰リハビリテーションや呼吸リハビリテーションに介入してもらうことがとても重要です。酸素療法などに関してはこちらをご参照ください。
・喀痰グラム染色の結果から抗菌薬を選択します。「肺炎だからこの抗菌薬」という1対1対応の関係にある訳ではありません(肺炎に対する抗菌薬がある訳ではなく、あくまで〇〇菌にの肺炎に対する抗菌薬を検討しているということです)。必ず起炎菌に応じた抗菌薬選択を行います。
・定型肺炎の肺炎球菌(PRSP含む)、インフルエンザ桿菌(BLNAR)、モラキセラは第3世代セフェム系抗菌薬ですべてカバー可能です。特にインフルエンザ桿菌はBLNARという耐性菌の場合第3世代セフェム系抗菌薬から治療を開始するべきです。
・非定型カバーはレジオネラを含む場合はキノロン系、レジオネラをカバーしない場合はマクロライド(アジスロマイシン)もしくはテトラサイクリン(ドキシサイクリン)を検討します。
・施設ごとに考え方があるかもしれませんが、喀痰グラム染色でよい検体がどうしても得られず、重症の肺炎で定型、非定型いずれの起炎菌もきちんとカバーするべき状況では第3世代セフェム+キノロン系(例:セフトリアキソン+レボフロキサシン)を私は使用するようにしています(あくまで私個人の意見なのでご参考までに)。
治療効果判定
・治療効果判定のメルクマールは感染臓器の肺に特異的な呼吸回数・呼吸様式・酸素化・喀痰グラム染色のフォローと全身状態で行います。先ほど記載した様に胸部レントゲンの画像所見は遅れるため、レントゲンの写真を参考に治療を決めるマネージメントはよくないです。
・抗菌薬が奏功しているかどうか?に最も有用なのは喀痰グラム染色のフォローアップです。喀痰グラム染色のフォローでは治療が奏功していれば、まず菌体が減少・消失し、その次に白血球が減少・消失していきます。以下にこれまでも何度他の記事で掲載していますが自験例の肺炎球菌性肺炎のペニシリンG投与前と投与3時間後の喀痰グラム染色写真を掲示します。菌体はすっかり消失していますが、白血球はまだ減っていない状態がよくわかると思います。
治療抵抗性の場合
肺炎の治療開始後72時間経過しても臨床的な改善が認めない場合以下の項目を確認します。もちろんもともとの肺炎が重症な場合は改善まで時間がかかることと、起炎菌では特にレジオネラ肺炎は改善までに時間がかかることが知られています。
1:診断がそもそも異なる
・これが一番注意しないといけない点です。肺炎の診断は特にきちんとグラム染色で微生物学的診断が付いていない場合は「本当に肺炎でよいのか?」非常に難しいです。以下の可能性を検討していきます。
A: 感染症
・結核:常に結核の可能性は肺炎診療で考慮するべきで、キノロンは結核のpartial treatmentになってしまい診断の遅れにつながるため特に注意が必要です。
・真菌:Aspergillus, Pneumocystis, Nocardia 真菌感染症は患者背景から疑います。
・ウイルス
B: 非感染症
・肺塞栓症 :最も注意が必要(肺梗塞での像が胸部レントゲンでconsolidationに見えてしまい、肺塞栓症で微熱が出ることもあるため肺炎と誤診される場合があります。やはりリスク因子の評価が非常に重要です。)
・心原性肺水腫:肺炎により心不全が増悪したのか?肺炎だけなのか?常に議論になるところです。身体所見での頸静脈怒張やエコー検査が何よりも重要です。
・ARDS
・間質性肺炎
・肺胞出血
・腫瘍
2:合併症:膿胸・肺化膿症
・これは尿路感染症でもそうですが、膿瘍化すると治療抵抗性になります。これらの評価には画像検査が必要で、胸部CT検査で評価します。胸水がある場合は可能な限り胸水穿刺を実施し、膿胸の可能性はないかどうか?ドレナージが必要かどうか?を検討していきます。
3:抗菌薬・耐性菌
・そもそも抗菌薬のカバーが外れている、投与量が少ない、もしくは耐性菌による感染症の可能性なども可能性として挙げられます。