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巨細胞性動脈炎と脳血管障害

巨細胞性動脈炎(GCA: giant cell arteritis)は主にlarge size vesselを障害する血管炎です。先日巨細胞性動脈炎が背景にある患者さんが脳梗塞で入院となり、今まで経験がなかったため既報を調べてみました。

機序

頭蓋内の血管と頭蓋外の血管の違いとして、病理的に頭蓋内の血管は頭蓋外の血管と比較して中膜、外膜の弾性繊維に乏しく、栄養血管であるvasa vasorumを欠くとされています。巨細胞性動脈炎は頭蓋内の血管を障害することはまれですが、この機序として巨細胞性動脈炎では血管の弾性繊維に対する自己免疫反応が起こる機序が想定されており、このため中膜・外膜が薄く弾性繊維に乏しい頭蓋内の血管は障害をまぬがれるのではないか?と考察されています(引用はこちらの文献ですが、本文をすべて読めておらず申し訳ございません:Arch Neurol 1972;27:378–91.)。

このように頭蓋内の血管に直接炎症がくることは稀であり、基本的には巨細胞性動脈炎による頭蓋外の内頚動脈もしくは椎骨動脈に狭窄や閉塞が脳梗塞合併の機序となります。

■GCAの頭蓋内血管炎まとめ Arthritis & Rheumatism (Arthritis Care & Research)Vol. 55, No. 6, December 15, 2006, pp 985–989

ここでは稀なGCAに合併する頭蓋内血管炎の既報をliterature reviewとして7例まとめています(GCAがきちんと病理診断で確定しているもの)。

これらの経過はいずれも免疫抑制治療を用いても病勢を止めることができずcatastrophicな転帰となっています。

巨細胞性動脈炎と脳梗塞合併

先にまとめますと巨細胞性動脈炎の病勢が活動性の期間椎骨脳底動脈領域に脳梗塞を認める場合が多いとされています。以下に文献を紹介します。

■巨細胞性動脈炎と脳梗塞合併8例の検討 Medicine 2009;88: 227-235

・ここでは巨細胞性動脈炎(病理診断のついたもの)の発症からステロイド治療開始後4週までの期間に発症した脳梗塞8例(2.8%: 8/287)をまとめています。ただ巨細胞性動脈炎と脳梗塞が併存しているだけではなく、巨細胞性動脈炎の病勢が高い状態でどのくらい脳梗塞を合併するか?を調べるために期間を設定している点が特徴です。血管支配としては椎骨脳底動脈領域が7/8例、内頚動脈領域が1/8例で、ほとんどの症例でステロイド治療開始後に脳梗塞をきたしています(ステロイド40-60mg/日開始後3,4,7,10日後と4週後の5例)。

・脳梗塞合併の予測因子としては失明(OR:5.42)高血圧(OR: 5.06)が挙げられ、女性(OR: 0.10)貧血(OR: 0.11)は脳梗塞合併リスクが低いことと関係していました(下図)。赤沈といった炎症マーカーは相関関係にありませんでした。

・これを椎骨動脈領域に限定すると喫煙(OR:5.22)が脳梗塞合併の予測因子として重要であり、貧血(OR:0.13)があると脳梗塞合併リスクが低いことがわかります。

巨細胞性動脈炎と脳梗塞 Clin Exp Rheumatol 2004; 22 (Suppl. 36):S13-S17.

・1981年~2001年までの北西スペインでの病理診断のついた210例の巨細胞性動脈炎患者のうち脳梗塞合併は30例(14.3%)あり、椎骨脳底動脈領域の梗塞はこのうち16.7%(5/30例)でした。先ほどの文献と異なりここでは巨細胞性動脈炎と脳梗塞の時間的関係は制限なくすべてを含んでおり、30例の内訳は巨細胞性動脈炎の発症前:5例、巨細胞性動脈炎診断後1か月以内:4例、巨細胞性動脈炎診断後4-12か月:5例、巨細胞性動脈炎診断の1年後以降:16例(内頚動脈領域15例)となっています。

・脳梗塞合併の予測因子としては高血圧脂質異常症が挙げられています(下図)。

■フランスのコホート Samson M,Jacquin A, Audia S, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry
2015;86:216–221.

・57例の病理診断のついた巨細胞性動脈炎のうち7%(4例)で巨細胞性動脈炎発症後4週間以内に脳梗塞を合併したと報告されています(具体的な症例内容は下図)。

・巨細胞性動脈炎に脳梗塞を併発した際の「治療」に関して、有用なsuggestionを含んだ文献は探せませんでした(もしご存じの方がいらっしゃいましたらご教授いただけますと幸いです)。

巨細胞性動脈炎で抗血小板薬を併用するか?

・巨細胞性動脈炎一般の管理に関して「抗血小板薬を併用するか?」という”clinical question”に関しては前向き研究はなく、後ろ向き研究の結果の結果もcontroversialであり現状結論は出ていません。以下に後ろ向き研究を2つ紹介します。

121例のGCA患者で抗血小板薬投与群と非投与群のフォローをretrospectiveに検討 Clin Exp Rheumatol 2008; 26 (Suppl. 49):S57-S62.

・GCA患者121例(診断は1990 ACR criteriaに基づいて行われ、組織診断は全体の73%)のうち30.5%(37例)がGCA発症前に抗血小板薬を投与されており、内訳はアスピリン30例、チクロピジン3例、クロピドグレル4例となっています。もともと抗血小板薬を投与されていることを反映し、動脈硬化リスク因子は抗血小板薬投与群 64.8% vs 非投与群 20%(p=0.001)と有意に抗血小板薬投与群で多い結果でした。

・平均3.6年のフォローアップで虚血合併症(jaw claudication, 視障害、脳血管障害、虚血性心疾患、四肢のclaudication)は28.1%(34/121例)に生じ、虚血合併症に関して抗血小板薬投与群(24.3%)と非投与群(29.8%)で統計学的有意差は指摘できませんでした。またGCAの病勢に関しても両群で差はなかったと報告されています。

・ただやはりもともと抗血小板薬を投与されている群ではbaselineの動脈硬化リスクが高いことから、その効果が相殺されてしまった可能性もあり、このretrospectiveの解析だけから抗血小板薬を投与する意味がないという結論にはなりません。

143例のGCA患者で抗血栓薬投与群、非投与群をretrospectiveに検討 Arthritis Rheum 2006; 54: 3306-9

・143例のGCA患者(診断は1990 ACR criteria、病理診断は73%)、平均追跡期間4年、抗血栓薬投与群(抗凝固薬も含む)60.1%(86例)、非投与群39.9%(57例)で検討しています。虚血合併症は投与群16.2% vs 非投与群48.0%(P<0.005)と有意に抗血栓役投与群で虚血合併症が少ない結果で、かつ出血合併症はアスピリン投与群2例、ワーファリン投与群1例、非投与例5例と抗血栓薬投与群で多い訳ではありませんでした。