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パーキンソン病の病歴

ここではパーキンソン病をどう疑うか?またパーキンソン病を疑った場合にどのような病歴を取ればよいか?に関してまとめさせていただきます。

寡動 “bradykinesia”

パーキンソン病の最も重要な症状かつ徴候は「寡動(bradykinesia)」です(以下bradykinesiaと記載させていただきます)。しかし、この徴候としてのbradykinesiaは普段ふつーに診察していると容易に見逃してしまいます。つまり「果たしてこの患者さんの動きは病的にゆっくりか?」という視点で診察していないと容易に見逃してしまいます。

また症状としてのbradykinesiaに関しても「最近動きがゆっくりになりましたか?」という問診でわかる場合もありますが、それだけでは拾いきれない場合も多く、以下の様にspecificな質問をするべきです。

「日常生活」の中では以下の様な病歴が有用です。
・服の着替えに時間がかかるようになった
・朝起き上がるのに時間がかかるようになった
・食事に時間がかかるようになった

「歩き」に関しては以下の様な病歴が有用です。ちなみにパーキンソン病初期は意外と歩きに影響があまり出ない場合もあるので注意です。
・近所への買い物が元気なころは片道10分で行けたが、最近は片道20分かかるようになった
・いつもの散歩のコースが毎朝20分かかるところが、40分くらいかかるようになった
・街を歩いていると人に抜かされるようになった
・横断歩道で信号が青になってあるき始めて、前までは余裕をもって渡ることが出来ていたが、最近は着くまでぎりぎりである

注意点としてはこれらは例えば朝起きるのに時間がかかるのは関節や滑液包などの問題でも疼痛で時間がかかりますし(典型的なのはPMR)、例えば歩くのに時間がかかる病歴は下肢の筋力低下でもおこります。このようにいずれの病歴もbradykinesiaにとって完璧に特異的な訳ではないですが、複数の病歴を組み合わせることで「bradykinesiaらしさ」を推察していきます。

筋固縮

「固い」ことを直接的に病歴で取ることは困難なので、筋固縮により二次的に起こる現象を病歴から拾い上げます。特にパーキンソン病では遠位の手首から障害されやすいです。小字症(micrographia)もパーキンソン病の特徴ですがこれもここで紹介させていただきます。

・手先の細かい動作が難しい(ボタンをはめるなど)
・歯磨きがしづらい
・年賀状を書くのが大変で書くのをやめてしまった(何年から?が特定しやすく有用)

安静時振戦

これは通常患者さんは気がついているので病歴で拾えないということはありません。

姿勢反射障害

姿勢反射障害は「体重移動の際にバランスを崩さないことが障害された状態」です。このため体重移動を伴う立ち上がり、歩行(特に方向転換)、座る動作などでこれらの障害が目立ちます。体重移動が必要となる動作をイメージしながら問診することがコツです。

・ものにつかまらずに立ち上がることが難しい
・立ち上がった直後にバランスを崩してしまい転倒してしまう
・方向転換をする際にバランスを崩して転倒してしまう
・ドスンと座るようになった
・片足立ちの状態でズボンを履けない
・バスに乗るとすぐに転びそうになってしまう

masked face

パーキンソン病の特徴的な所見のうちの一つで表情に乏しくなることが挙げられます。これは医療者の主観がかなり大きい所見ではありますが、客観的に確認する方法として以下が挙げられます。
・家族からの指摘「前よりも表情が乏しくなった」
・運転免許証の顔写真や過去の写真との比較

今まで紹介させていただいた通りパーキンソン病は特徴的な病歴が非常に多いです。自ら積極的に病歴を取れるようになると臨床が少し面白くなってくるのでもし参考になりましたら幸いです。今後も有用な病歴のとり方をup dateしていければと思っております。