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カルシニューリン阻害薬 シクロスポリン・タクロリムス

作用機序

カルシニューリン阻害薬はシクロスポリン(Cyclosporine A: CyA)とタクロリムス(Tacrolimus: Tac, FK506)が挙げられます。後者は筑波で発見されたマクロライド系の免疫抑制剤ということで、Tsukuba macrolide immunosuppressantから”Tacrolimus”という名称が付いています。

作用機序はT細胞のカルシニューリンと競合的に結合して活性化を阻害し、T細胞活性化やIL2などのサイトカイン産生を抑制する効果を持ちます。T細胞選択性が特徴です。

別の免疫抑制剤のアザチオプリンは核酸代謝阻害作用を持ち、臨床的な免疫抑制効果を持つのに数ヶ月を要しますが、カルシニューリン阻害薬は数週(期間としては1ヶ月以内)とより早く効果を持ちます。臨床的な効果を発揮するには個人差がある印象があります。

ここでは移植や膠原病関係ではなく、神経免疫疾患で使用する場合の投与量などで統一した記載をさせていただきます。

シクロスポリン:3-5mg/kg/日、1日2回投与、trough値:100-200 ng/mLを目標に投与します。
*2.5mg/kg/日から開始し、4~8週間おきに増量し5mg/kg/日を上限とする

タクロリムス:神経疾患では日本の保険診療では3mg/日 1日1回夕食後投与、trough値:5-10 ng/mLを目標に投与します。

*繰り返しになりますが、上記は膠原病や移植関連ではなく神経免疫疾患に対する投与量を検討しています。

副作用

両者に共通する副作用としては腎機能障害(長期使用では必発です)、高血圧症、耐糖能異常、脂質異常症、振戦があります。また血管内皮障害をきたしやすく重篤な副作用としてPRES、TMA、神経ベーチェット、強皮症腎クリーゼなどが挙げられます。

シクロスポリン:多毛、歯肉増殖などがシクロスポリンに特有の副作用として挙げられます。若年者などではこの点に注意する必要があります。薬剤性歯肉増殖に関してはこちらにまとめておりますのでご参照ください。

タクロリムス:耐糖能異常がシクロスポリンよりも頻度が多い点があります。(多毛や歯肉増殖はないですが脱毛は報告があります)、授乳中投与可能

妊娠:妊娠中も継続可能

シクロスポリンとタクロリムスをどのように使い分けるか?

基本的な作用機序は同様なので原病に対する効果は基本的に同等です。このため「神経疾患で両者をどのように使い分けるか?」という問題があります。考慮する点としては以下が挙げられます。

保険診療かどうか?

投与量を調整できるか?:例えば重症筋無力症ではタクロリムスは保険では3mg/日となっており、これより増量することに抵抗があります。シクロスポリンは投与量に関して制限がないため、トラフ値をみながら投与量を調整することが出来ます。ただシクロスポリンは個人間でのbioavailabilityが大きく異ることから同じ投与量であったとしても濃度がかなり異なる点に注意が必要です。

糖尿病の増悪:タクロリムスの方が血糖管理は悪くなることが知られており、背景の糖尿病が悪い場合はこの点を考慮する場合があります。

美容に関して:シクロスポリンは多毛、歯肉増殖の副作用があるため、この点を気にする場合はタクロリムスを使用する場合があります(下図参照:N Engl J Med. 2021 Feb 25;384(8):744.より引用)。

薬剤相互作用

■併用禁忌

生ワクチン、ボセンタンが両者に共通した併用禁忌として挙げられます。

シクロスポリン:スタチンの一部(ピタバスタチン、ロスバスタチン)、アリスキレン、アスナプレビル、ペマフィブラート

タクロリムス:K保持性利尿薬(スピロノラクトン、カンレノ酸、トリアムテレン)

その他グレープフルーツは濃度を上昇させてしまうことが指摘されており、またCYP3A4と代謝が競合するため、関与する薬剤(抗真菌薬、抗菌薬はマクロライド系、カルシウム受容体拮抗薬、抗てんかん薬CBZ, PHT、リファンピシン、PPIなど)の相互作用に注意が必要です。非常に相互作用が多い薬剤なのでその都度きちんと確認することが重要です。
*ちなみに、PPIはラベプラゾールは相互作用がないため安全に使用できます(私は普段ラベプラゾールを使用しています)。

この他皆様が投与時に注意されている点などございましたらぜひご教授いただけますと幸いです。

管理人記載:2021/7/4 シクロスポリン歯肉増殖NEJM image画像の追加