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SLONM: sporadic late onset nemaline myopathy

病態

SLONM(sporadic late onset nemaline myopathy)は遺伝性ではなく成人に亜急性経過で発症する筋病理でネマリン小体を認める、筋疾患です。亜急性の経過で筋萎縮をきたしすため、運動ニューロン疾患の鑑別として特に重要です。

nemaline myopathyは遺伝性のものが有名で、成人発症の孤発例は全体の4%(6/143例)を占めるとされています(AnnNeurol2001;50:312–320)。以下にnemaline myopathyの分類をまとめた図を掲載します。

NEUROLOGY 2005;65:1158–1164にMayo clinic(1975-2003年)での14例のまとめがあるため、この報告内容をまとめます。この14例は年齢43-81歳で報告されています。

臨床症状

亜急性の経過を全例で認めています、診断までの期間中央値1.1年(5ヶ月~4年)。

筋力低下の分布は近位筋優位が11/14例、近位筋と遠位筋が同程度に障害される場合が3/14例、左右非対称の症例が4/14例と報告されています。上肢からの発症が6/14例、上肢が下肢よりも強く障害されるのが8/14例、6例は嚥下障害を伴っています(嚥下障害が初発が2/14例)。首下がりを認める場合もあります。

呼吸筋から障害される場合もあることが報告されています。呼吸筋障害からくる筋障害としてPompe病と並んで重要な疾患です。

感覚障害は認めません。

深部腱反射:正常11例、減弱3例

以下に14例の臨床経過情報をまとめたものを掲載します。

別の患者群6例のまとめも掲載します(Journal of Neurology (2018) 265:542–551)。

検査

MGUS:M-protein血症を合併する場合があり(先の報告でも7/14例でMGUSを合併しています:IgG-κ or λ)、特徴的です。MGUS合併例は極めて予後不良なことが知られていますが(1-5年以内に呼吸不全で死亡)、メルファラン高用量や幹細胞移植が予後を改善する可能性がしさされているため重要です。特にSLONM-MGUSは亜急性の経過で筋萎縮をきたすため、ALSと誤診されてしまう場合がありますが、このように治療方法がありうるためALSの鑑別として必ず考える必要があります。

CK値:正常範囲内から軽度上昇とされています。

電気生理検査
・神経伝導検査:報告されているものはCMAP, SNAPいずれも正常です。
・針筋電図:筋原性変化を示し、安静時自発電位でfibrillation potentialを多く認めています。

画像検査:筋MRIでは頸部伸筋、肩甲下筋、傍脊柱起立筋、臀筋、ヒラメ筋などが特に障害されやすいと報告されています(下図参照 Mさんにコメント・ご教授いただきました。大変有り難うございます。)

治療

SLONMに対して免疫治療は基本的に効果がないと当初は報告されていますが(Neurology2005年の14例報告では)、その後の報告では免疫治療が効果あった報告もありまちまちです。日本の臨床神経で免疫治療が効果あった2例の報告があります(臨床神経2016;56:605 NCNPの先生方からの報告)。また先程のJournal of Neurology (2018) 265:542–551からの報告では、ステロイド、IVIgの効果があったと報告されています(下図がその6例の治療効果のまとめ)。

SLONM-MGUSはメルファラン療法+幹細胞移植により筋力や予後が改善することが指摘されており重要です。これに関してはNeurology2014;83:2133–2139にまとめがあります。

SLONMまだまだ報告数が少ない疾患ではありますが、MNDのtreatableな疾患鑑別としてとても重要です。ご経験のある先生いらっしゃいましたらぜひコメントいただけますと幸いです。

参考文献

・NEUROLOGY 2005;65:1158–1164:SLONMの14例をまとめた包括的なreviewです。

・Neurology ®2014;83:2133–2139:SLONM-MGUSのまとめ

・Journal of Neurology (2018) 265:542–551:Mさんから教えていただきましたSLONM6例のまとめ報告で画像、病理、臨床像、治療効果判定などを詳細に記載されています。