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病歴 「突然発症」へのアプローチ

ここでは病歴の発症様式、特に「突然発症」(sudden onset)に関して簡単に解説します。主に初期研修医の先生方向けの内容になります。

1:突然発症と急性発症を区別する

いきなりですが、突然(sudden)と急性(acute)は明確に区別する必要があります。「突然発症」は発症時の何時何分が特定できる状況を意味し、「急性発症」は特定できない状況を意味します。よく病歴のプレゼンテーションで突然発症なのにも関わらず、「この患者さんは急性の腹痛を呈し・・・」とプレゼンされている場合があります(急性発症なのにもかかわらず突然とプレゼンされている場合もあります)。しかし、突然と急性では想起する鑑別が全く異なるため両者は明確に区別する必要があります。

突然発症(sudden onset)の代表的な疾患カテゴリーは「血管障害」です。血管が詰まる・破れる・避けるといった病態が突然発症を呈します(このほかにも臓器がねじれるなども該当します)。具体的には脳梗塞・くも膜下出血・大動脈解離などが挙げられます。

一方で急性発症の場合はその他「感染」や「炎症」といったカテゴリーの疾患が鑑別に挙がってきます。具体的には細菌性髄膜炎や急性膵炎などが挙げられます。細菌性髄膜炎が何時何分に発症することはないですし、急性膵炎もまたしかりです。

このように「突然発症」と「急性発症」は何時何分と特定できる発症様式か?という点で明確に異なり、きちんと区別することが血管障害の診断などへの第1歩となります(ちなみにTIAはここをとらえられなければ診断はほぼ不可能です)。

2:どう問診すれば「突然発症」をとらえられるか?

まず医者の思っている「突然」と患者さんの思っている「突然」は違うという点を強調させてください。医者にとっての「突然発症」はある時間何時何分と特定できるような状況を意味しますが、患者さんは「〇月〇日は大丈夫だったけれど△月△日から調子が悪い」という状況を「突然」と表現します(前日まで大丈夫であったことを根拠に突然と表現されます)。このため「それは突然のことでしたか?」という問診は基本的に誤解の元になり使うべきではありません。そもそもの突然に対する医師と患者さんの認識が異なっているため、いくら形容詞の表現を詰めていっても答えは出ません。

そこで有用な問診は「症状が出た時に何をされていましたか?」という問診です。例えばこの質問に対する答えが「お皿を洗っている最中に右手の力が抜けてお皿を落としてしまいました」という病歴は何時何分を特定できるくらい「突然」の病歴です。このように突然の病歴を得るためには、その現場が映像としてイメージできる必要があります。その一方で、「いや何をしているときとかは覚えていないですね・・・」などピンポイントで発症時を特定できない場合は「突然発症ではない」病歴となります。

以上「突然発症」(sudden onset)の重要性、急性発症との区別、医療者と患者さんの間での「突然」に対する認識の違いを踏まえた問診方法に関してまとめさせていただきました。