私はこれまでCRP(C-reactive protein)に関して様々な医師が様々な意見をおっしゃっている現場に遭遇してきました。その都度「確かにそうだなー」と納得することもあれば、「それはちょっと違うんじゃないかな」と疑問を感じることもありました。ここでは日常診療を通じて感じた自分なりのCRPへの考え方をまとめてみました。あくまで個人的な思いなので気楽に読んでいただけますと幸いです。
0:原理
・まずはそもそもの原理を確認します。①感染症,②組織のダメージ(DMAPs),③自己炎症性疾患または免疫性疾患により炎症性サイトカインのIL6が肝臓に作用します。そうすると肝臓で産生が増加する蛋白と産生が低下する蛋白があります。
①産生が増加する蛋白:CRP, 凝固因子(フィブリノーゲン→赤沈亢進),補体,ヘプシジン,トロンボポエチンなど
②産生が低下する蛋白:アルブミン,トランスフェリン(→貧血)など
・この中で時間的に最も鋭敏に動くのがCRPであり、炎症性のマーカーとして用いることになっています。N Engl J Med 1999 Apr 29;340(17):1376. PMID: 9971870.
・このように非特異的ではありますが炎症によって肝臓で産生されるacute-phase proteinの代表がCRPという訳で臨床で使われるようになった経緯があります。
・この原理からわかる通り発症直後にCRPは上昇せず、時間が経過してから上昇します。このようにCRPはタイムラグがある点がポイントです。実際に急性虫垂炎で発症後すぐにERを受診しCRP陰性というケースの経験があります。
・参考までに炎症が狭い範囲に限局しているとCRPは上昇しづらいと伺いました(例えば小関節炎では上昇しづらい)。
*神経領域ではウイルス性髄膜炎は発熱がガンガン持続してもCRP正常というケースを多々経験し参考所見と個人的にはしています(細菌性髄膜炎はさすがにsystemicな炎症によりCRPは上昇します)。
*赤沈(赤血球沈降速度)
・原理:全血をカラムに立てて1時間放置し,1時間後血球が沈降した距離をmmで測定する。
・正常値: 15 mm/hr *男性=年齢/2, 女性=(年齢+10)/2までは正常とする記載もある
・亢進の原因:フィブリノーゲン増加(炎症),グロブリン増加,貧血
*組み合わせた解釈
・CRP上昇+赤沈亢進:慢性炎症
・CRP上昇+赤沈正常:急性炎症
・CRP正常+赤沈亢進:生理的(高齢など),IL6が関与しない免疫疾患(SLE, Sjogren症候群, IgG4RD),M蛋白血症
1:好き嫌いの問題ではない
CRPはよく好き嫌いで語られるところがありますが、本質的な議論は「CRPがどのような検査特性を有しているのか?」という点です。ただ「CRPは悪者だ」という船に乗り込めば安全だろうという考えはSNS上での誹謗中傷と大差ありません。
ここで例えば肺炎球菌性肺炎に関して考えてみます。肺炎球菌性肺炎で主病態はもちろん「肺炎球菌」の菌自体です。これは喀痰グラム染色でリアルタイムで確認することが出来ます。抗菌薬ペニシリンG(PCG)で治療を開始するとものの数時間で菌体は喀痰グラム染色から消失します。そして、これに付随する形で炎症が遅れて出てきます。これを図にすると下図にようになります。
では「CRP」はこの経過のどの部分を反映しているのでしょうか?先ほど申し上げたようにCRPはあくまでも炎症のマーカーなので上図の炎症と対応した緑部分になります。つまり、主病態の「菌」とはずいぶんタイムラグがあることになります。
繰り返しになりますが、肺炎球菌肺炎での主病態は「肺炎球菌」です。これを殺すことが出来るかどうか?が治療が効果があるかどうかの決め手になります。しかし、CRPは菌が死んでいても上昇します。これはあくまで副次的な炎症というパラメーターを反映しているためです。つまり、肺炎球菌性肺炎においてCRPは主病態を反映したパラメーターではなく、あくまで炎症という副次的な病態を反映したパラメーターに過ぎないということです。
こう考えるCRPを追っかけるのは、常に遅れた病態を追っかけていることになり本質的ではないことが分かると思います。
逆に炎症が主病態の疾患(具体的には膠原病、自己炎症性疾患)はCRPをフォローすることは病態にかなっていると思います。ただ「CRPは悪者」と短絡的に理解していると、このようなCRPを適切に使用できる場面で使用できません。これは医学の話に限りませんが、「〇〇は悪者」とレッテルを張ることは簡単です。しかし、それは本質的な議論ではなく、重要なのは「〇〇はどういう人なのか?」を知ろうとする姿勢だと思います。そういう姿勢がないところに容易に差別の芽が生まれます。
私がよく感じるのは、「CRPは悪者だ」という意見を言っておけば安全だ、「CRPは悪者だ」という船に乗っておけば沈むことはないだろうと思っていないでないでしょうか?この態度はSNS上でのこいつを叩いておけば安全だという誹謗中傷と何も変わりません。まずは相手を知ることから始めてみましょう。
2:制限は悪か?
私が昨年度所属していた総合内科は「入院中患者の発熱ワークアップでCRPは測定しない」という制限を設けていました。「そんな制限があると実臨床が大変なのでは?」と思われるかもしれませんが、実際CRPを測定できないからといってマネージメントで困ったことは1度もありませんでした。むしろCRPを使わない方が真剣にバイタルサイン(呼吸回数)や身体所見に向き合うようになり、診療の質は向上した様に私は思います。
突然ですが下の絵は手を使用することが難しい方が口だけで描いた絵です(「口と足で描く芸術家協会」のホームページより引用させていただきました)。僕はCRPを使わないで発熱診療をするときによくこの絵を思います。つまり、「制限があることが悪なのか?」ということです。制限があるとその分他の制限がない領域を必死に利用してより良い作品が作れるかもしれません。
これは発熱患者のプレゼンテーションでも感じることがあります。プレゼンテーションから白血球とCRPを除外すると、病歴やバイタルサイン、身体所見の色彩が急激に豊かになりより良い診療になるように感じます。
繰り返しになりますが、私はCRPが悪者だと言っている訳ではありません。適切に解釈すれば十分に役立つ検査だと思います。ただ、CRPを万能と勘違いしてしまいそのせいで病歴、バイタルサイン、身体所見の重要性が薄れてしまうことを避けたいだけです。その一環として、入院中患者の発熱でCRPを測定しないというのは良いトレーニングになると思います。
以上CRPに関して個人的に思うことをまとめました。