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「けいれん」への対応

Step1: ABCの確認+血液ガス/血糖値

“Vital is always vital.”という言葉がある通りバイタルサインは最重要だ。A(airway), B(breathing), C(circulation)の安定を必ず確認してから、初めてD(diazepam, ジアゼパム)投与を検討する。目の前の患者が「けいれん」しているとつい慌ててしまいなんとか止めようと考えてしまうが、ABCをすっぽかして、D(ジアゼパム(diazepam))が先に来ることがないように注意したい。
ショックの患者でも脳血流が低下すると「けいれん」を呈する場合もあるため必ずABCを確認しよう。

ABCの確認と同時に、「全身状態の評価」と「すぐに治療介入できる病態がないか?」を調べるという2つの意味で血液ガス血糖値の確認が重要だ。けいれんを見るとつい反射的に頭蓋内疾患を考えてしまうが、血液ガス・血糖値を忘れないようにする。ABC確認の後はD(ぶどう糖:dextrose)を確認という習慣を身に付けよう。

Step2:発作の観察とコントロール

Step2.1:発作の観察・神経所見

多くの発作は2分以内に自然頓挫する。いきなりジアゼパムを投与するのではなく、まず患者さんの発作をよく観察することが重要である。

Step2.2:薬剤投与

5分以上持続する場合はてんかん重責状態と定義し、30分以上重責状態が持続すると脳に後遺症を残すとされている。実際にどの段階から薬剤での介入をするかであるが、現実的には2分以内の場合は発作様式をきちんと観察し、無理に薬剤で発作を止める意義は乏しい。2分以上持続する場合に薬剤での介入を考慮する必要がある。以下段階ごとの薬剤を記載する。

Step2.2.1:第1段階

第1段階に使用する薬剤はベンゾジアゼピン系の有用性が確立している。まずルート確保が出来る場合はジアゼパム(セルシン®)5-10mgを静注する。ジアゼパムは生理食塩水・ぶどう糖液で混濁するため、原液・静注のみで使用する(ジアゼパムは添付文書では筋注可となっているが、実際には血中濃度が安定するかは分からず筋注は勧められない)。呼吸抑制作用があるため、緩徐に静注し、マスク換気が出来るように準備もしておく。
ルート確保が難しい場合はミダゾラム10mgを筋注する(ジアゼパムと違ってミダゾラムは筋注可能)。ミダゾラムは筋注のときは原液を使用するが、それ以外の場合はミダゾラム1A(10mg/2ml)に生理食塩水8mlを加えると1mlあたり1mgとなるため使用しやすく覚えておこう。

Step2.2.2:第2段階

2番目に使用する薬剤はある薬剤が他の薬剤に対して優越性を示すことが出来たものはない。それぞれの薬剤の特徴を把握することが重要である。

ホスフェニトインはおそらく第二段階で最も使用されている薬剤であるが、血圧低下や徐脈性不整脈のリスクがあるため、循環動態が安定していることが前提条件となる。また、もともと抗てんかん薬カルバマゼピン、バルプロ酸を内服している場合は薬剤相互作用によってこれらの薬剤血中濃度を下げてしまうため注意が必要だ。

その点で使用しやすい薬剤はレベチラセタムである。循環動態への影響はなく、薬剤相互作用もないため、その他の抗てんかん薬を内服している場合も問題なく使用することが出来る。またレベチラセタムは内服薬のbioavailabilityが優れており、内服への移行もスムーズな点が利点として挙げられる。日本では薬剤添付文書に記載がある容量はてんかん慢性期維持量であり、てんかん重積にどのように使うかの記載がないという難点がある。

Step2.2.3:第3段階

ここまでの薬剤によりてんかん重責が頓挫しない場合は、第3段階として全身麻酔薬+挿管・人工呼吸管理(通常自発呼吸が消失するため)が必要となる。具体的にはミダゾラム、プロポフォール、チオペンタールの持続静注がある。組成は下図を参照にされたい。

Step3::原因検索

ここまでのステップで発作のコントロールを行うが、同時並行で器質的な背景疾患がないかどうかの検索を進める必要がある。Step1の血糖値・血液ガス検査で治療介入することが出来る電解質異常・低血糖は既に介入することが出来ている。Step3での頭部CT検査は初発の場合基本的に全例必要である。頭部MRI検査、髄液検査、血液培養検査などは必要に応じて実施を検討する。これらの検索で器質的な脳疾患、もしくは全身疾患が出来る場合は原疾患の治療を進めていく。

脳膿瘍の最初の症状が「けいれん」である場合もあるし、脳腫瘍の最初の症状が「けいれん」の場合もある。このように背景に重篤な疾患が潜んでいる場合があり、その初発症状として「けいれん」を呈している可能性を常に忘れないようにしたい。