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左室内血栓 LV thrombus

脳梗塞診療で心原性塞栓症というとそのほとんどが心房細動によるものですが,時折問題になるのが左室機能不全に伴う左室内血栓です。以下の内容は全てCirculation. 2022;146:e205–e223.を参考に記載させていただきました。

形成因子:①左室機能不全,②心内膜障害,③炎症または過凝固状態

・左心室血栓形成リスクは「虚血性心筋症>DCM」 STEMI 4~39%, DCM 2~36%
・MI後の左室内血栓は塞栓症のリスク5.5倍
・左心室内血栓の塞栓症リスク~22%
・無治療であると年間の脳梗塞または全身塞栓症のリスクは~10~15%/年
①突出,②可動性がある血栓の方が、石灰化や可動性がない血栓よりも塞栓リスクが高い
*血栓の大きさはリスク因子として小さい要素である Br Heart J. 1988;60:104–110. サイズのみで抗凝固療法を考慮することはない

検査

・エコー検査
・心臓MRI検査:エコー検査で疑うが確証がもてない場合,エコーで指摘できないが塞栓症がある臨床的に懸念がある場合

抗凝固療法の予防投与

1:STEMI(前壁)+再灌流療法+akinesis→抗凝固療法考慮(リスクとベネフィット総合して) 投与する場合は期間1-3か月
2:DCMの場合→ルーチンで予防投与するべきではない
*例外:特定の心筋症(例:たこつぼ心筋症,左室緻密化障害,好酸球性心筋炎,周産期真菌症,心臓アミロイドーシス)+リスク因子の場合は考慮

・PCI時代のMIに対して予防的抗凝固療法がどうか?に関しての前向き研究は現状存在しない
DCMに対して予防的抗凝固療法を実施すべきか?(左室内血栓に対して限定した)に関しての前向き研究は現状存在しない 血栓塞栓症に関しての研究は以下
*HELAS:HFrEF 197例 ワルファリン vs アスピリン vs プラセボ 有意差なし Eur J Heart Fail. 2006;8:428–432.
*WASH:HFrEF 279例 ワルファリン vs アスピリン vs プラセボ 有意差なし Am Heart J. 2004;148:157–164.
*WATCH:HFrEF 1587例 *terminated early 有意差なし Circulation. 2009;119:1616–1624.
*WARCEF:HFrEF 2860例 ワルファリン vs アスピリン 脳梗塞 0.72/100人年 vs 1.36/100人年 P=0.005, 重大出血 1.78/100人年 vs 0.87/100人年 P<0.001 N Engl J Med. 2012;366:1859–1869.
→Cochrane review Cochrane Database Syst Rev. 2021;5:CD003336., ACCP guideline 2012いずれも予防的投与推奨しない

特定の心筋症のリスク因子
・たこつぼ心筋症:LVEF<30%, apical ballooning *左室内血栓 1.8% Can J Cardiol. 2019;35:230.e9–230.e10.
・左室緻密化障害:脳梗塞またはTIA既往,LV機能障害 *脳梗塞またはTIA既往がある場合は利益があるかもしれない expert opinion
・周産期心筋症:ブロモクリプチン投与,LVEF<35%
・肥大型心筋症:apical aneurysm
・化学療法心筋症:拡張障害,LVEF<30%
・心筋アミロイドーシス:ALアミロイドーシス,拡張障害
・シャーガス病:apical aneurysm
・好酸球性心筋炎:塞栓症の既往

治療

抗凝固療法選択

・ワルファリン
・DOAC:ワルファリンの代替手段として考慮

・血栓消失:ワルファリン群 60% vs なし群 10%,アスピリン高用量600mg/日群 45% vs なし群 10% Am Heart J. 1990;119:73–78.
・抗凝固療法による塞栓症リスク OR=0.14(95%CI 0.04-0.52)

治療期間

*治療期間の比較検討をした前向き研究なし,最適な治療期間はまだ不明
*3か月後に画像フォローして(当初診断した),そこで血栓が消失していれば中止検討
post-MIの場合:3か月  *MIは発症3か月以内が血栓リスクが高い
非虚血性心筋症:最低3-6か月→LVEF>35%または大出血出現で中止 *抗凝固療法を生涯続けるべきかどうかに関してはデータ不十分

継続すべき因子:前壁~心尖部のMI+akinesis,突出または可動性のある血栓,心原性塞栓症あり,出血リスクが高くない,炎症または過凝固状態,再発性の左室内血栓
中止すべき因子:高い出血リスク,抗血小板薬の併用,LVEFの改善,持続する壁在血栓(特に石灰化または器質化したもの)

Clinical Questions

CQ:どのくらいで血栓は消失するか?または残存するのか?
・157例検討:消失 62.3%(中央値103日),再発または血栓増大 14.5% J Am Coll Cardiol. 2020;75:1676–1685.
・35例(STEMI)検討:消失2か月 65%,4か月 87%,12か月 81%,18か月 100% *全例ワルファリン(最低4か月または血栓消失まで) 抗凝固療法中止後の再発 14% ARYA Atheroscler. 2015;11:1–4.

CQ:massiveな左室内血栓はどうする?
・分かっていない

CQ:手術での血栓除去は?
・エビデンス確立していない

CQ:静脈血栓溶解療法は?
・左室内血栓を治療するためだけの使用は推奨しない