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脳出血後の抗血小板薬再開をどうするか?

タイトルの疑問に関する論文を紹介します。実臨床でよく遭遇する疑問なのでとても重要なテーマです。

“RESTART” Lancet 2019; 393: 2613–23

背景:長期的抗血栓薬投与による血栓塞栓症予防の研究は基本脳出血が既往にある患者を除外している。小規模な研究では脳出血後の患者に抗血栓薬を投与しても出血リスクは増大しないという報告があるが、前向きの大規模臨床試験はないため、現状ガイドラインでの推奨はなく現場の医師の判断にゆだねられている。この疑問に答えるために初の前向き研究を実施。

design: open-label RCT

Patient:抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)内服中の脳出血発症患者 537人
・inclusion criteria:18歳以上、脳出血後最低24時間以上生存
・exclusion criteria:頭部外傷、出血性梗塞、脳実質外出血のみ、妊婦など

患者背景:脳出血発症後76日後に介入開始、フォローアップ2.0年、元々の血管閉塞疾患(虚血性心疾患約50%、脳梗塞約30%、TIA約25%、心房細動約18%など)、元々使用していた抗血栓薬(抗血小板薬約80%:アスピリン約50%、クロピドグレル約20%、抗凝固薬約20%)、

■Intervention:抗血小板薬あり群 n=268

■Comparison:抗血栓薬避ける群 n=269

■Outcome
▶Primary outcome:症候性脳出血の再発(非致死性または致死性)
→4%(12人)vs 9%(23人) adjusted hazard ratio 0·51 [95% CI 0·25–1·03];p=0·060

▶Secondary outcome
大出血:症候性脳出血の再発、頭蓋内出血(外傷性もしくは特発性)、頭蓋外の出血(輸血または内視鏡処置または手術を必要とする)
→ 7%(18人)vs 9%(25人) adjusted hazard ratio 0·71 [0·39–1·30]; p=0·27
血管閉塞症:脳梗塞、心筋梗塞、腸管虚血、末梢動脈閉塞、DVT/PE、再灌流の処置
→・15%(39人) vs 14%(38人) adjusted hazard ratio 1·02 [0·65–1·60]; p=0·92

Subgroup解析

■Discussion
・意外なことに抗血小板薬が逆に脳出血再発を減らすかもしれないことの考察:機序として動脈性血栓は出血を促す可能性、出血性梗塞が多い可能性、炎症が出血に関与している可能性などが考えられこれらは追加検証が必要

■Limitation
・当初のrecruitは720人の予定だが、537人しか集まらなかった
・open-labelである点(ただしoutcomeは客観性が高いためbiasが入る余地は少ない印象)
・ほとんど抗血小板薬単剤のためDAPTに関してのデータは不十分

“RESTART”の追加長期フォローアップ結果 JAMA Neurol. 2021;78(10):1179-1186.

・上記研究の追加長期フォローアップ(3.0年間)の研究結果が2021年にJAMA Neurologyに発表された。

■Outcome
症候性脳出血の再発(非致死性または致死性)
→8.2%(22人)vs 9.3%(25人) adjusted hazard ratio 0·87 [95% CI 0·49–1·55];p=0·64

major vascular events:非致死的な心筋梗塞、脳卒中(虚血も出血も)+血管イベントによる死亡(突然死、肺塞栓症、出血、その他原因不明)
→26.8%(72人) vs 32.5%(87人) adjusted hazard ratio 0.79 [0·58–1·08]; p=0·14

*管理人の個人的な感想・意見
・確かに脳出血が増えないことは分かったが、虚血性心疾患や脳梗塞などの血栓疾患に関して抗血小板薬投与により減少することが証明できていない点が意外。
・結局イベント数が少なすぎたため有意差が出ていないだけの可能性はぬぐえない(recruitが少なかった影響もありそうであるが)
・抗血小板薬を脳出血後「いつから再開するか?」によって違いはないのか?(臨床的にはいつから再開するかが最も気になるところであるが)→一応subgroup解析でmedian time前後での比較では差がないことが示されているが、個人的にはもっと細かい時間軸で差があるかどうか気になる。
・元々抗血小板薬を何に対して使用していたか?によって相当抗血小板薬をすぐ再開したいかどうかの閾値は変わると思う(つまりPCI後ステント留置後間もない患者さんの場合出来るだけ早めに抗血小板薬を再開したいはず)。この原疾患によるsubgroup解析はなされていない点は気になる。
・また特に脳出血の再発は血圧管理が重要なので、血圧管理がしっかりされていた群と不十分であった群によっても相当差が生じそうであるがこの点に関してのsubgroup解析もないので気になる。

分かった点・分からない点

■分かった点
・脳出血後患者さんにおいて抗血小板薬再開により脳出血が増加することはない

■分からない点
・あくまでこれは抗血小板薬に関する議論であり、抗凝固薬に関してはデータがないため議論することはできない
・ただどの時期から抗血小板薬を使用するか?に関しての答えはない(個人的にはここが実臨床では一番問題となるため気になるところ)。

現在進行性の臨床研究:Anticoagulation in ICH Survivors for Stroke Prevention and Recovery (ASPIRE)

このような論文は一人で読んでいても「うーん・・・」となってしまうので、是非読んだ方と一緒に議論をしたいです。コメントいただけますと嬉しいです。