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尿閉 Urinary retention

ER当直をしているとよく遭遇するのが「尿閉」です。身体所見では臍より下の部分がポコッと盛り上がっており一目瞭然ですが(下図自験例)、患者さんは尿閉ではなく「腹痛」として受診する場合もあるため注意が必要です。

原因

・男性の場合:前立腺肥大症が最多、前立腺炎も尿道圧迫による尿閉を来しえます(自験例もあります)
・物理的な尿道閉塞:血塊による膀胱タンポナーデ、結石
・薬剤性:抗コリン薬(特に市販の感冒薬に含まれているものも多いです)*高齢者で実は背景に前立腺肥大があり市販薬を内服して尿閉になってしまったというケースは本当によく遭遇します(もっと啓蒙が必要ですよね・・・)
・脊髄疾患:よく見逃されます*急性経過の腰痛や神経障害(下肢麻痺やレベルのある感覚障害・肛門周囲の感覚障害)を合併していないか?が鑑別上重要です。
*以下はまれな原因
・Elsberg症候群:仙髄領域のヘルペス感染症による神経根炎で、神経内科ではときどき遭遇する病態です(こちらにまとめがありますのでご参照ください)
・MRS(meningitis retention syndrome):髄膜炎に尿閉を併発する病態です(よくElsberg症候群とごっちゃにされてしまっていることがあるため注意)

排尿の機序に関してはこちらに詳しいまとめがありますのでご参照ください。

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対応

尿道カテーテル留置(バルーンカテーテル) 太さ:16Frが一般的(1Fr=3mm)
*導尿で用いるネラトンカテーテルは12-14Frを使用することが多い
*導尿をしてもまた尿が貯まってERに患者さんが戻ってきてしまうことがあるため、基本的には尿道カテーテル留置して翌日泌尿器科外来フォローアップの対応が夜間ERでは良いと思います
*DIBキャップ®という磁石で開口部の開け閉めを出来るデバイスもあり、これがあるとバッグをぶら下げて移動しなくてすむため患者さんの負担が減ります。指導で習得できそうであれば有用な方法と思います。

尿道カテーテル留置の注意点:泌尿器科手術を直近に受けている・外傷による尿道損傷が疑われる・高度尿道狭窄の指摘がある場合

尿道カテーテル留置の基準:膀胱容積400mL以上の場合
*参考「膀胱容積測定法≒長径 x 短径 x 前後径(cm) / 2」

尿道カテーテル留置方法:これは学生の頃から色々な方法を耳学問で教わりました。取り敢えず私は「痛くてごめんなさいね」と10回くらい早口で唱えながら出来るだけ素早く挿入するようにしています・・・。
・ゼリーを先にシリンジで尿道に入れてからカテーテルを挿入する:これも初めて見たときはなかなか画期的な方法でびっくりしました。確かに患者さんの疼痛が軽減されている印象です。
・前立腺肥大で入りにくい場合は太いカテーテルにサイズを変更する:これはかなり一般的な方法と思います。細いカテーテルだとコシが弱いため折れてしまうため太いカテーテルでコシを持たせて挿入する方法です。ぐいぐい押し付けるのではなく、以下の参考文献にも記載されていますが先が当たったところでじっくり圧力をかけながら待っていると「じわっ」と通過することを確かに経験します。
*私は泌尿器科非専門医なのでスタイレットやブジーを使用した挿入は自分では行ったことはありません。

参考文献:「救急外来、ここだけの話」20「急性尿閉にカテーテル留置は必要か?どのような所見が危険度を示唆するか?」天野雅之先生の書かれたチャプター